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  カップルズ  カップルズ
  【集英社文庫】
  佐藤正午
  本体 448円
  2002/1
  ISBN-4087473996
 

 
  石崎 由里子
  評価:C
   抑揚のないお話の短編集だな、と思いながらも、するすると読み終えてしまった。たぶん、文章が簡潔でとても読みやすいからでしょう。
 もし、これが、例えば旅先で、何かの冊子を見ていて、この短編の一編が掲載されていたとしたら、窓を流れる景色に目をやりながら、淡々とした雰囲気の文体に頭もすっきりして、目的地へと向かうことができたでしょう。でも、一冊の本にまとまっているのなら、もう少しドラマ性を求めてしまう。
 たいくつとはちがうのだけど、登場人物である作家の目を通した日記のように感じる。どの街にもいそうな人たちの今、過去。とはいえ、平凡に暮らす人々にだって、ちょっと誇れるエピソードや、幻想的な体験の一つや二つあると思うのです。人の人生の中で、輝いていた時間、絶望を見た瞬間など。結構皆さんいろいろ体験していませんか。

 
  内山 沙貴
  評価:B
   どことなく他人行儀な視点、己の心情さえも他人の目で描く、だけれどそれが他人から本人に対して何かを指摘されてしまうとばきぼきに崩れてたじたじになる。なんだかそんな“彼”がかわいくて、話がおもしろくなる。人の噂は当てにならないもの。成り行きや事情を全部無視して、主語と述語に成り果てる。要約して省略された噂が堂々とまかり通るのは、人間の傲慢さゆえだろうか。語り手の彼は噂を聞いているつもりで、いつしか巻き込まれていたりする。そんな彼のことを噂する人もいるのだろうなぁと思うと陰でクスリと笑いたくなる。噂に対してクールに接しようとしても、優しさがその中から滲み出てきてしまうような、優しい人の小説だった。

 
  大場 義行
  評価:D
   噂かあ、余り気にしてないというか、意識していないからなあ。なんとなくこんなにも噂をいうものを意識して書かれている事自体が驚き。男と女の噂からスタートする短編群なのだが、どうしても、最初から最後まで、家に居る作家の耳に噂が入り込み、妄想の翼を広げた感が拭えなかった。確かに噂という題材を選ぶという事や、話の展開から考えると、佐藤正午は巧いのだけれども、フィールドワークのわりには想像の部分が多い。という気がしてならない。

 
  北山 玲子
  評価:A
   で、何がいいたいの?…だめだめ、佐藤正午を読んだ後そんな野暮なこと言っちゃあ。ストーリーだけを話すと平凡で、怒涛のような盛り上がりはないんだけれど、例えば太宰治を読んだ時の感じに少しだけ似ている。ちょっとしたフレーズがいつまでも心に残るところなんか。本作は全編通じての主人公である小説家が7つの噂話の真相を、好奇心のおもむくままに探っていく。もちろん真相は現実と同じで何ら劇的なことはなく、意外と大したことなかったりする。多少の謎を残したまま話が終わるので、読み手は本を閉じた後あれこれと想像することができる。そんなささやかな楽しみのある短編集だ。著者の作品は、常に何かに対して深追いすることなく一定の距離間を保って他人と接する乾いた感じと、人間ってどうしようもないなあという愛しさみたいなものがミックスしている所が魅力だ。7つの作品の中でも特に『好色』が好き。主人公・有尾杜夫の徹底した好色ぶりに呆れ、彼の妻の徹底したポストイット貼りにじわじわっと恐怖感を抱いた。

 
  操上 恭子
  評価:D
   どうしても、佐藤正午が好きになれない。自分でもうまく説明できないのだが、違和感がつきまとう。よく出来た小説ではあるのだ。中規模地方都市を舞台に語り手である作家が、街の噂を集めて物語をつむぎ出すという設定もいいし、一つ一つのストーリーも面白い。好奇心だけは強いがちょっと情けない「私」もなかなか魅力的だ。じゃあ何が気になるのかというと、女性像である。前にも書いたかも知れないが、佐藤正午が描く女性には、どうにも現実感がないのだ。作中人物の中、男性は生き生きと自然なのに対して、女性は作者の都合のいいように動かされているという感じが拭えない。何を考えているかわからないというだけじゃなくて、内面がないような気がする。他の女性読者はこの違和感を感じないのだろうか。

 
  佐久間 素子
  評価:B
   人の噂を好むというのは一般的にいって、決して美点ではないはずだ。無責任、出歯亀、下品と、まあこんな感じ? だから、街のうわさを核にしたこの7編の短編が、無責任でも出歯亀でも下品でもないことに、ちょっと驚く。街のうわさという題材に、佐藤正午という資質が合っているのだろう。人間というドラマに対する飽くなき好奇心(笑)と、他人の人生に干渉しない節度をもちあわせた作者だからこその一冊。話は面白いのに主人公が不甲斐なくて冷たいのよねーと、どちらかというと節度過多な部分が苦手な作家だけに、第三者である作者の分身が主人公というスタイルの本作には、あっさり脱帽。ささやかな人生という神秘は魅力たっぷりなのだ。

 
  山田 岳
  評価:B
   村上春樹と佐藤正午の違いを端的に言うならば、「あちら側」に平気で行ってしまえるか、「こちら側」に留まるか、という点だろう。今回、佐藤正午はかぎりなく「あちら側」に接近する。夜の学校プールで泳ぐ高校生。彼の前に現れたなぞの少女はするするっと服をぬいで、裸の胸を彼におしつけた。そのとき空からヘリコプターが・・・。物語りはそこできびすを返し、「こちら側」にもどってしまう。短編集のテーマは「噂」だが、むしろ「世間の狭さ」が気になった。

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