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  グルーム  グルーム
  【文春文庫】
  ジャン・ヴォートラン
  本体 781円
  2002/1
  ISBN-4167527952
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
  ずっと昔から彼は殺してくれと叫んでいた。そんな気がする。もしくは物語が始まった時から。世界が生まれた瞬間から。彼は生を渇望しながら殺してくれと叫んでいた。物語は主人公ハイムだけのために用意されたステージ。袖には真赤なトゲつきのバラが置いてある。彼は荒波、彼は地響き、彼は雷鳴、彼は土石流、どうやら彼は不安を高まらせているらしい・・・・・。生まれた瞬間から増幅し始めた不安はやがてうずを巻きハリケーンになり、彼の現実を打ち壊し、彼の虚構をずたずたに引き裂いて、彼もろとも空中に吹き飛ばした。まるで胸を張り裂けんばかりに叩くゴリラのように、激しく暴力的でそして本来の意味さえ忘れて自滅した。残骸が残った。肉と血溜まりの池だ。この話は傑作である。ただイマイチ話がよく分からない。よく分からないがすごい話だと思う。すごいと思わせるところが傑作なのだ、たぶん。

 
  大場 義行
  評価:A
   とち狂ってやがるぜヴォートラン。ここまで狂った世界を描ける人は居ないな、間違いなく。こんなにとち狂っているものはなかなかお目にかかれないはず。なにせ主人公ハイムは謎のホテル「アルゴンキン・ホテル」に勤める12歳のボーイであり、なおかつお母さんと二人で暮らす25歳。この設定はとにかくびっくりするはず。他にもまともなのかおかしいのか、この本の中では評価できないというキャラは沢山出てくる。しかし、そんなものなんて関係ない。すべてはこのいかれたハイムの頭の中を覗かせるというか、その中に読者を放り込むという点。徐々に接近してくる「アルゴンキン・ホテル」と現実が緊張感を作り出し、現実との差で目眩がしそうなほどだ。この本、現実世界で疲れた状態で読むと、物語に取り込まれる気がする。実際読みながらおかしくなるかと思った程だ。この本はとち狂っているだけでなく、本当に危険な本なのかもしれない。この異様な感覚は「ドクラ・マグラ」以来と言ってもいいと思う。

 
  北山 玲子
  評価:B
   サイコものが流行った時期、あまりにも次々と刊行され、ひと月にこんなにも猟奇なもの読んでいて大丈夫なのか、自分。と一気にサイコもの嫌いになった。で、ここのところのロマンノワール流行もちょっと食傷気味。いったいどういうものがノワールなのか訳がわからなくなってきた。本書に関してもノワールというよりはサイコもののような気もするし…。と、一通り文句つけた後でこんなこというのもなんだけど、面白かった!著者の本気と狂気の入り混じったストレス解消物語といったところ。作中に画家・スーチンの絵が取り上げられているが、主人公・ハイムの歪んだ心と、スーチンの絵の危うい歪みがうまい具合にリンクして物語にスパイスを効かせている。ぜひとも、スーチンの絵を見てから読むことをお勧めします。それにしても、ぶっ飛んだ個性的な人たちがたくさん出てくるけど、特に、いつもチョコレートを食べているバラキ警視キュート。

 
  操上 恭子
  評価:C+
   なんとも読みにくい作品だった。この一冊で2週間もかかってしまった。かといって途中で投げ出すことのできない魅力もあって、少し読んでは放り投げというのを繰り返してやっと最後までたどりついた。
説明をするのが難しい話だ。最初は不条理小説なのかと思った。帯にはパルプ・ノワールと書いてあるのだが、どうもそれも違う気がする。あら筋を要約すると確かにノワール的なのだが、読んで受ける印象は違うのだ。敢えていえば『サイコ』や『ドクラ・マグラ』の系譜に属する作品と言ってしまうと、ネタばらしになるのだろうか。
フランス人ってよくわかんねえ、というのも正直な感想。

 
  山田 岳
  評価:A
   フランス版「羊たちの沈黙」。さすがは「影にも色がある」と言った印象派の国、ノワール(暗黒)小説にも色がある。著者は映画監督でもあるそうで、「ヒーローは存在しつづける時間をもらえない」「太陽の持つエネルギーのせい」等など映画っぽいセリフや視覚的情景描写にあふれている。新潟の女性監禁事件にも通じる現代人の心の闇、という気がちょっとした。

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