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  リカ  リカ
  【幻冬舎】
  五十嵐貴久
  本体 1,500円
  2002/2
  ISBN-4344001508
 

 
  石井 英和
  評価:A
   あまり目新しい展開ではないのだが、十分に気持ち悪いし、丹念に恐怖を積み上げ、しかるべき場所にきちんと読者を追い詰めて行く、うまい作りの小説である。なんの気なしに手を出した日常のなかの些事がウネウネと増殖し、やがて自分の周りの世界を恐怖で埋めつくしてしまう、そんな嫌な感覚が、見事に文章化されている。また、インタ−ネットの世界を、ことさら目新しいものではなく、手垢の付いたものとして描いている辺りにも共感できる。一点、問題が。リカという女を、恐怖発生の為の「装置」としてのみ描いてしまったのは問題がありそうだ。彼女に人間離れのした怪物性を付与し過ぎたせいで、ちょっと存在が薄っぺらになっている。むしろ彼女を、もう少し人間として手触りの確かな存在として描けば、全体のリアリティも恐怖の濃度もグンと増しただろう。

 
  今井 義男
  評価:D
   ……飽くことをしらない。ミステリ、ホラー業界は神様仏様サイコ様である。しかも最後はマニア御用達の奥の手ときているからたまらない。残虐な描写に生理的嫌悪をもよおすのは、まともな神経の読者なら当たり前であって、新人がそんな安易な手法に追随する気持ちが分からないし、それを送り出そうとする側の真意も理解できない。先達の遺産だけではまだ不足ということか。いま、メールやサイトを書く意味はある。ネット上に蔓延する無記名の人間関係には、確かにえたいのしれない気持ち悪さがつきまとう。闇に直結する陥穽の縁に立っているようで、それだけで十分怖い。ホラー小説のできばえを左右するのは血の量ではなく恐怖の質である。唯川恵の短編『分身』と読み比べてみればその差は歴然だ。

 
  唐木 幸子
  評価:B
   出会いサイトで知り合った女があっという間に異常者になって主人公を付け狙う・・・というこのホラーは作品の構成としてはまとまっているとは思う。しかし、どのシーンもどこかで読んだことがある、映画で観た事ある、もしくは実際の事件でもっと恐るべきことが起きただろう、そういう物足りなさを感じた。どんなに怖い話でも面白い冗談でも上手な歌でも、2回目、3回目になるとインパクトは薄れる。それを救うのは鮮やかなディテールだと思うのだが、リカが狂女に豹変するきっかけも、何故そんなに体が臭いのかも、そのストーカーぶり(子供や勤務先への介入など)も、もうちょっと得心の行くように書いてくれないと。怖くないもんね、ちっとも。同じ電波系の女でも、戸梶圭太『未確認家族』のは凄かった。怪物と化した女の吐く息を間近に感じるような迫力と怖さがあったぞ。
でも終幕がなかなかドキっとさせられたので、当初の想定よりワンランクアップしてB。

 
  阪本 直子
  評価:B
   未見だが『危険な情事』という映画の存在を知っている。この設定ってそっくりじゃない? そして栗本薫『仮面舞踏会』のあの女性に、このヒロイン(違うか)はあまりにも似てる……それにラスト近くには『羊たちの沈黙』で見たようなシーンまで出てきたぞ。うーむ。
 という、何か非情に新味に欠ける設定ながら、怖いことは実に怖いんです。ネタがストーカー、それもまともな話の通じない、イッちゃってる相手だからね。これ以上怖いものはないでしょう。
 と思って読んできたら……あらら? 「人間の心の闇ほど恐ろしいものはない」という話だとばっかり思ってたら、ラストでいきなりこうなるの? 怪談だなんて聞いてなかったよ、おい。
 怖い話であっても、読後にはやっぱり「ああ面白かった!」が欲しいのです。恐怖とカタルシスの両立は、決して無理じゃないと思うよ。

 
  谷家 幸子
  評価:B
   いやー、時間を忘れてページをめくるという感覚を久々に味わった。
特に、ストーカーと化した「リカ」が、タクシーに乗った主人公を走って追いかけてくるシーン、新しく替えたばかりの携帯にいきなり「リカ」から電話がかかってくるシーン。(他にもすごいところがあるけど、ネタばれのため自重)
こりゃかなり強烈に怖かった。頭の中にダイレクトに映像が浮かんでくるリアルな感覚、主人公が心情的に追い込まれていく過程のこの臨場感はすごい。
しかし。
そこまでなのだ。事件が大きく動き出す後半部分になって緊密感は急速に失われ、いきなり土曜ワイド劇場の世界になってしまう。特に直接対決となるラストは不満。これじゃ怖いというよりは「お笑い」なのでは。まあ、それを狙っているのかもしれないけど。んなわけないか?
とはいえ、出会い系サイトの実情など、興味深い描写も多く(だってこんなに未知の世界って私にはちょっとない)結構楽しめた。

 
  中川 大一
  評価:B
   本書に最も欠けているのは、「じらし」のテクニックだろう。作者は読者に対し、もっと勿体をつけるべきではなかったか。かわいらしかった女がストーカーへと変貌するプロセス。不気味な姿をあらわす瞬間。主人公が味方を失っていく過程。どれもこれも、ちびーり、ちびーり、じわーり、じわーりと小出しにしてこそ妙味が増すというもの。著者が「畳みこむ筆力」(ホラーサスペンス大賞の選者、大沢在昌)をもっていることは間違いない。だからBにしたんだけど、緩急をつけると直球のスピードもより速く感じることでしょう。ラストは、スティーブン・キングのあの小説/映画で定番になったパターンか。贅沢を言うなら、もう一ひねりしてほしかったなあ。

 
  仲田 卓央
  評価:C
   中年サラリーマンが出会い系サイトで引っ掛けた女に追い回されるという、まあよく聞く『怖い話』。主人公の「浮気がしたいわけじゃないんだ。今の自分を変えてみたいんだ」的に中途半端な言い訳がたいそう不快である。そもそも、男の助平心が恐怖を招くという小説なのでしょうがないのだが、恐怖の対象であるリカの描かれ方がちょっと疑問。リカは「濁ったコーヒーのような顔色、目には白眼の部分がなく、腐った卵のような体臭」の女性として描かれる。これが追いかけて来ればそりゃ、怖いだろう。仮に「童顔、おめめパッチリ、Fカップの19歳」が星飛雄馬のお姉ちゃんばりに、行く先々の電柱の陰からそっとこちらを見つめていたならどうか。やっぱりこれも、怖いはずなのに。結局なにが怖いのかというところまで話が深まらないのが残念。

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