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  火群の館  火群の館
  【新潮社】
  春口裕子
  本体 1,500円
  2002/1
  ISBN-4104515019
 

 
  石井 英和
  評価:C
   独特の妖気漂うオ−プニングであり、なかなか面白そうだとの期待は、だが、ペ−ジが進むにつれて色あせていった・・・主人公に付与する性格の選び方に、まず問題がある。精神的に崩れ落ちやすいタイプに設定されているが、そのため、作中で起こる怪異が「現実」に起こっているのか主人公の意識内でのみ起こっているのか判然としない部分があり、読んでいて、どっちつかずの気分になってしまうのだ。また、結末部も疑問。そこで示された「原因」から何故、作中にまき散らされたような「怪異」が生ずるのか、因果関係がよく分からない。敷かれた伏線(と思えたもの?)のいくつかにも解決に至っていないものがある。更に言えば、この長さのこの物語にしては登場人物が多過ぎはしないか?どうも納得できない部分の多い作品である。読みはじめは面白そうだったんだがなあ。

 
  今井 義男
  評価:A
   いかにもなにか起こりそうな導入部がうまい。現象を小出しにするところも定石どおり。いまや、こういう話は人里離れた古屋敷よりもコンクリートで固められたマンションがよく似合う。古典落語が何度聞いても面白いように、優れた怪談は、結果がそうなると分かっていても怖いものだ。ホーンテッドハウスとはあらかじめ恐怖が約束された<場>である。誰もが怪異を予期しうる<場>で怪異を起こしてみせる難易度は、怪物ストーカーを暴走させる小説の比ではない。ホラーはオーソドックスなほど難しい。本書はその命題に立ち向かい、九割がた成功を収めている。残りの一割は、復讐を前面に押し出した後半。あからさまにせず、間接的な暗示でとどめるぐらいの方が作品の空気により調和したと思う。あと、子供の扱いにもう一工夫あれば、いっそう哀しく怖い作品になったことだろう。

 
  唐木 幸子
  評価:C
   題名からも想像はつくが、住居にまつわるホラーである。素材としては大賞作品の『リカ』よりも新規性があるのだが、いかんせん、前半あたりで息切れして作品の落とし前が付いていない感じだ。話が大きそうで小さく、謎のようで実は不自然、次々に起こる出来事がドタバタ劇寸前まで混迷している。何も全ての不可解な事件に結末をつけてくれと言うのではない。ワケが明確になっていなくても良いから、形が見えないなりの恐怖が欲しいのだが、それがなかった。それにしても、このホラーサスペンス大賞、第2回にしてかなり落ち込んでないか。昨年の『そして粛清の扉を』、『鬼子母神』が、今でもストーリーを克明に思い出せるくらい強い作品だったことを思うと、今回は相当に物足りなさを感じた。第1回で皆さん、根性を使い果たしたのかしら。したがって大賞、特別賞とも昨年よりワンランクづつ下回った採点になった。

 
  阪本 直子
  評価:B
   うわあ、怖い話だ。こういうのは困る。出来が悪かったら腹立つし、よく出来てたらつまりは本当に怖いってことだ。帯を見るとどうやら“恐怖の館”の話な訳で、げっ、しかも「生理的恐怖」って書いてある! 幽霊や超常現象は怖いけど、生理的恐怖は怖いっていうよりイヤだ。……ぎゃあー! 蛆虫が髪の毛がッ……ああイヤだよう。
 で、大騒ぎしつつ読了。……うーむ。
 いまひとつ釈然としないものが残りました。ヒロイン達が見舞われた数々の恐怖。隣人達の仕業とこの世ならぬ者の仕業との区別がつきにくい。責められるべき者達が問題のマンションに引き寄せられる仕組みも。生きてる人間とそうでない存在の連携は、一体どういうことになってたの?
 登場人物にとっては物凄く怖いけど、読者にとっては、終わってみるとそれほど怖くもなかった話です。

 
  中川 大一
  評価:C
   現実に根差す恐怖。オカルト的なホラー。両者が縒り合わさってこの作品を形づくっている。それで不思議な雰囲気が出ているか? 難しいところだと思う。核となるアイデアはA級だ。だが、こういう骨格なら、醜い現実から生じる恐ろしさをメインにすえ、幻想的な描写はもっと抑えるべきではなかったか。例えばSFではタイムマシンも超能力も許されるけど、その作中で整合性を保つため守らなければならないルールがあるでしょう? 作者はそうしたルール=虚実を分かつ約束事を取っ払うことで、読者の恐怖心を煽ろうとしたんだろう。でも、残念ながら木に竹を接いだみたいにちぐはぐだ。潜在的な喚起力は、ホラーサスペンス大賞受賞の『リカ』より、特別賞の本作の方が大きいと思うんだけどね。

 
  仲田 卓央
  評価:B
   ホラーというジャンルは難しい。恐怖という感情には色々なものが含まれていて、どの部分を押し出す、どの部分を押さえる、というバランスが実に微妙なのである。ホラー小説を読んでも「怖かった」とストレートに感じることは少なくて、「悲しい」とか「切ない」とか、ときには「笑える」と感じてしまう所以である。で、この小説の場合はどうか。「怖い」というよりは、思いきり「気持ち悪い」に転んでいる。テーマもモチーフも理解できるし、悪くないのだが、いかんせん気色悪い仕掛けのオンパレード。それが突然、即物的な形で飛び出してくるものだから、「怖い」と思う前に生理の方で「おええ」と反応してしまう。まあ、それはそれで技だし、ホラーとしてはありだと思うのだが。とにかく、私はこれを読んでからカボチャを調理できなくなってしまった。なんとかしてくれ。

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