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  鳶がクルリと  鳶がクルリと
  【新潮社】
  ヒキタクニオ
  本体 1,700円
  2002/1
  ISBN-4104423025
 

 
  石井 英和
  評価:E
   バリバリ働いていた女性が、ふと会社やそれに安住している周囲に疑問を持ち・・・なんて、ありがちなオ−プニングに嫌な予感がした・・・そして体一本で稼ぐ鳶の世界に飛び込むのだが、そこで鳶の世界が活写されるかに見えてそうでもなく、実は鳶に関するウンチクが並べられるだけ。しかもスト−リ−展開、状況説明、人物紹介、心理描写等々が、ことごとく登場人物による説明的な会話によって提示されるお座談小説。著者の際限のない自己満足的ウンチク開示の狭間にドラマは沈没してしまっている。学生運動話を引きずるあたりも非常に見苦しい。基本的に著者は、諸々の事にあれこれウンチクを垂れるのが好きでこの小説を書いたのであり、鳶など、実はどうでもよかったのではないか。この著者に酒場で隣に座られたら、たまらないな。小説なら読まなければ済むが。

 
  今井 義男
  評価:AAA
   元キャリアウーマン貴奈子がおそるおそる覗いた《有限会社日本晴れ》は鳶の職能集団である。実直な職人タイプから軍事オタク、偏差値依存症、と若い女性にはあまりなじみのない個性が集まっている。たじろぐのは当然だ。貴奈子の目線はそのまま我々の目線である。読者は、職人の世界に抱く抵抗が払拭される爽快感を彼女と分かち合い、半纏着たちの発する熱い心意気を共に受け止めることになる。プロの仕事とは、仕事へのこだわりとは。ひねりもてらいもない、バカ正直な答えがこれだ。職人魂のなんたるかを、私はこの歳になってやっと理解できた。いい小説に出会うと青空の真下にいるように、その日一日気分がいい。読書の神様に感謝。日々漠然と仕事に流されるだけの人生に強烈な<待った>をかける超お薦め職人小説。鳶の申し子・ツミの可愛らしさもまた格別。

 
  唐木 幸子
  評価:B
   少し前にテレビで、世界一の大観覧車を作り上げるドキュメンタリーを観た。それで知ったのだが、ああいう巨大な構造物は、建築家や設計者が組み立てを指示したり、自動で出来上がったりはしない。親方を頂点とした鳶職の集団が、数多のノウハウと経験を手がかりに完成するのだ。本当に命がけの手作業である。本書はそういう鳶の世界にひょんなことから飛び込んだ元・キャリアウーマン/貴奈子の物語だ。実を言うと、鳶職の仕事内容としては、巨大彫刻の設置より、テレビで観た大観覧車の方が迫力があった。それより胸にズキッと来たのは、貴奈子の大企業総合職時代のエピソードだ。熱血で有能な上司・松沢の崩壊や、貴奈子の父親(女子大の人間工学の教授)が『自分は人間のことなら何でも知っていると自負しているが、実際は世間知らず』であることに悩まされた記憶が、なだらかなストーリー展開の中でひときわリアルに光っている。

 
  阪本 直子
  評価:C
   テレビドラマのノベライズ、ではないのだよな。でもまるでそうとしか思えない。
 聞こえよく且つ安定した大企業にヒロインが辞表を出す冒頭シーン。レギュラー出演陣は、元学生運動の闘士である鳶頭、いなせなご隠居、ヘンな職人達と不機嫌な少女。自宅でヒロインの両親が行う口論の、やり過ぎなまでに戯画化され誇張された様を見よ。父の背中を見つめる母と娘の会話、切々と我が芸術を語るドイツ人彫刻家……最初から最後まで、会話は全てがテレビのそれだ。それもNHK芸術祭参加作品単発2時間ものならまだよかったんですけれどね。民放局春の新番組だもんなー。何の意外性もないまま予定調和的にはい、大団円。
 そして、細部にどうしても気になることがある。ヒロインが元上司や両親の「欠点」に向ける非難の眼だ。安定志向だろうが世間知らずだろうがずれていようが、それがどうしたっていうんだよ。おまえは一体何様なんだ。

 
  谷家 幸子
  評価:B
   これは微妙。
難癖をつけようと思えば、いくらでもつけられるのだが、ぎりぎりのところで持ちこたえている気がする。ただ、ほんの一線で今月の課題「もう起きちゃいかがと、わたしは歌う」の方へ転がり落ちそうな危うさも感じるのだが。
その共通項は、「いい年をした大人のモラトリアム物語」というところ。しかし、こちらの方が、はみ出し者の大人たちの地に足ついたキャラクター造形と、「鳶」の仕事の面白さで、好感度はかなり勝ってると思う。
主人公貴奈子の両親だけは、作者の「こういう親ってユニークでちょっといいでしょ?」という意図がみえみえで、私なんかはあまり乗れないのだが、まあしかし、こういう親は結構いるんだろうなという気はする。そういう意味では正解なのかもしれない。親との関係に特に理想を持っていない私としては、少し気持ち悪いのだが。
でも、ラストの大団円の爽快さはなかなか捨て難い。それに、「日本晴れ」っていう名前の会社に勤めてるって、なんかいいよなあ。

 
  中川 大一
  評価:C
   なるほど鳶職の世界かあ。小説に取り上げるのに、新鮮でおもしろそうなテーマだね。目の付けどころ、合格! 実際、彫り物や手ぬぐい、法被へのこだわりにはうなずかされるし、仕事へのこだわりや誇りもうまく描けている。でもちょっと古くさい、昔の鳶だという気もするけど……現役の鳶職にもある程度は取材したのかな? それは置くとしても、難点がふたつ。ひとつ、会話のリズムが早すぎる。作者の言いたいことを、登場人物たちが大慌てで代弁している感あり。ふたつ、軍事オタク、偏差値オタクの鳶が出てくるが、彼らの特徴は、しゃべる内容だけなんだ。キャラクターの性格は、言葉だけじゃなく、振る舞いによっても示されなくては、どうしたってストーリーから浮いてくるよ。

 
  仲田 卓央
  評価:C
   主人公の中野貴奈子は28歳、会社勤めに違和感を感じて一流企業を辞めたばかり。しかしこの女、真面目で、頭 がカタくて、屁理屈が上手で何かあるとやたら感情的になる、という個人的には出来るだけお近づきになりたくないタイプである。そんな彼女の新しい職場が『日本晴れ』という鳶の集団なのだが、ここの職人たちがちょっと変わっている。というよりも、不自然なほどに「変わっている」ことを強調された人物ばかり。その職人を束ねる鳶頭もまた、「変わっている」ことを強調されて描かれるのだが、「時には利益や身体のことを度外視して仕事がしたい」、「俺たちは仕事は選びたい」と、考えることはいたってマトモ。しかもその真っ当な考えの下に作った『日本晴れ』を、「会社のユートピア」と呼ぶ。どうだこれは。真っ当なことを言うためには、そしてその真っ当さを実現させるためには、ここまで「変わっている」ことを強調させなければいけないのだろうか。帯には「ひたすら面白い娯楽小説」とあるが、私には「ひたすら寂しい物語」であるように思われる。

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