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  アラビアの夜の種族  アラビアの夜の種族
  【角川書店】
  古川日出男
  本体 2,700円
  2001/12
  ISBN-4048733346
 

 
  石井 英和
  評価:B
   興味を持って読みはじめたが、途中で疲れてしまった。謎の書物に関する物語と、どうやらその書物に書かれていた寓話そのものらしきものが絡み合う小説なのだけれど、その寓話一つ一つの語られ方に問題がある。当然連想される千夜一夜物語の如き、悠然たるペ−スで語られているのだが、その仕掛けが私には煩わしく感じられたのだ。なんだか「古典ごっこ」の感があり、その遊戯に付き合ううち、こちらの意識が焦れて疲れてしまった次第。そもそも、先に述べたような重層構造の小説の構成要素としては、寓話の一つ一つのこの分厚さは、相応しくないのでは。物語そのもののキレが悪くなり、全体のリズム感が失われてしまっている。スト−リ−展開の奇想ぶりには確かに牽かれるものがあるので、全体をもっと簡潔に刈り込んだら、より面白くなったのではないかという気がする。

 
  今井 義男
  評価:A
   忍術と伴天連妖術の対決もすごかったが、魔術の本家もさすがに派手だ。もともと神話・説話の類が好きなので、このアラビア風<剣と魔法>は楽しかった。とにかく出てくる邪神・魔物が徹底的にいかがわしい。それらと干戈を交える人間どももおよそ高潔とは縁遠い。口当たりのよい上澄みだけ取り出したどこかの国の神話とは大違いである。王位継承の剣を手にしたからといって、そう易々と事を運ばせないのも、カトリック圏の寓話と一線を画しているようで興味深い。前半各章の主役級三人が満を持してからみあう地下迷宮での対決場面が最大の見せ場。これらのシーンをいまどきのCGじゃなく、特撮の神様レイ・ハリーハウゼンのダイナメーションで再現したら、きっとすごい映画になる。《災厄の書》という形而上の概念で、列強の近代戦略に対抗しようとする試みはイスラム社会の今日を示唆して生々しい。

 
  阪本 直子
  評価:AAA
   原著者不明の英訳本の日本語訳。という設定になっている。おお、まるで「奉教人の死」みたいじゃありませんか。でもって舞台はナポレオンに攻め込まれんとしているエジプトはカイロ。夜な夜な物語られる昔話。日ごと街には不安が強まり、夜ごと物語は佳境に近づいて、いやが上にも高まる緊張。
 という、二つの物語を一度に読むに等しい喜びが味わえる本です。何でもRPGネタなのだそうですが、その方面にはまるっきり疎い私には、物語についての物語、と読めました。「物語は、それをもとめている者のまえに、かならず顕現る」……そう、読者である活字中毒者のためにあるかのような、この言葉! 美文調の地の文に、突然、思いっきり下世話に砕けた会話文が混じるあたりなど、まるで何十年も昔の小説みたい。子供の頃、祖父の本棚にあった世界文学全集を、全然判らないままに開いてみた時のことなど思い出します。いやあ、ワクワクするなあ。

 
  仲田 卓央
  評価:A
   舞台はナポレオンの侵攻が迫るエジプト、仏軍の近代戦術に対抗するエジプト側の秘策は禁断の書物『災厄の書』だった……、というあらすじを説明することは、実はあんまり意味がない。とにかく、ものすごく複雑で、入り組んでいて、とても良く出来た物語なのだ。読んでしまったものを不幸に導くというのが『災厄の書』。といっても、かの『呪いのビデオ』みたいに見た人間が呪われるわけじゃない。面白すぎて止められなくなるのだ。たとえ、締め切りがあっても、病気になっても、後ろに人殺しが近づいてきていても止められない。本好き、読書好きには他人事とは思えない話である。読み進むうちに自分がどこにいるのか、何をしているのか、分からなくなってくるぞ。ちょっと分厚いし、とっつきにくい、でも満足できる一冊です。

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