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  本の国の王様 本の国の王様
  【創元社】
  リチャード・ブース
  本体 2,000円
  2002/1
  ISBN-4422932160
 

 
  石井 英和
  評価:A
   イギリスの田舎に「古書の町」を作り上げた人物の自伝との事で、年老いた古書店主のしみじみと人生を振り返った随筆などを想定して読みはじめたのだが、それはまったくの見当違いだったようだ。意外やこれは、古書業界を舞台にしたピカレスク・ロマンではないか。いや、著者は別に悪事などなしてはいないのだが、なにかそんな言葉を使ってしまいたくなる雰囲気の、人を食った行状報告である。大きくなった悪ガキそのもののノリで古書稼業をこなし、ついには義憤に燃えて自分の住む町の独立運動まで画策するに至る。著者の、その痛快な悪ノリぶりに感服。また、記述の端々に覗く、あまり我々に親しい存在ではないイギリスはウェ−ルズ地方の風土や人物の描写にも興味を牽かれた。それにしても、もう少し本そのものの話もして欲しかったものだ。

 
  今井 義男
  評価:C
   古書に生涯を費やす生き方としては、際立った成功例である。著者はさびれかけた田舎に古書の町を作ってしまったのだ。えらい人である。私も古本屋めぐりは好きだし、古本に関する著作にも目がない。だからほんとうならこういう本はもっと楽しく読めてもいいはずなのだが、なにかひっかかる。国民性の違いなのか、古書への関わり方が私などのイメージとはずいぶんかけ離れている。まあ、仕入れて売る側と我々が同じ考え方をすることもないが、商品としての本でなく本そのものに対する熱意がもっと伝わってきてもよさそうなものだ。けっこうな家庭に育ち、それ相応の教育も身に付けながら、自分をことさらはみ出し者のように見せたがる傾向も、ちょっと鼻につく。ありがちだけれど。

 
  阪本 直子
  評価:A
   いやあ、それにしても妙なオッサンである。古書店主となって何十年、住んでいるウェールズの田舎で古城を買い、地元そして諸外国で「古書の町」を作る運動に次々関わり、ミニ独立国の国王から皇帝へ。と紹介すると、いかにも鑑定眼と商才ふたつながらに兼ね備えた立志伝中の人物、オヤジの成功物語にしか聞こえないのだが、実はこのオッサン、ちっとも“成功”なんかしていないのだ。従業員と在庫を抱え過ぎて破産する。雇った人間が悪かった。火事を出す。大病をする。結婚離婚また結婚……人間万事塞翁が馬、としか言いようのない人生なのだよ。
 お役所が旗を振るしょーもない「観光」と「開発」に逆らって、自分が今住んでいる町をよそとは全く違う町にする。金儲けを人生の主目的にはできない頑固オヤジの心意気が痛快だ。すっとぼけた皮肉と冗談を大真面目で言う、いかにもイギリスな書きっぷり。イギリス好きの皆さん、存分にご賞味を。

 
  中川 大一
  評価:C
   ビジネスで功なり名を遂げたおっさんの一代記。この手の本に必ず書かれる四大要素は、一つ、ワシは正しい!、一つ、あいつは間違っとる!、一つ、ワシはうまくやった!、一つ、あいつはヘタをうった!、である(いま考えたの)。本書もご多分に漏れず、悪臭紛々たる自慢話のオンパレード。たまに自らの失敗談を語っても、その後のサクセスストーリーの伏線だったりするから、まったく喰えないおやじだぜ。でも、嫌悪感だけを覚えたわけじゃないんだ。一徹者の魅力は確かに感じる。やっぱ本の話題が薬味となって、独特の臭みを消してるんだろうね。また、古書を取り上げつつも、本の価値にチマチマした喜びを見いだすんじゃなく、事業の浮沈をメインに語った点は、新鮮だよね。

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