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  百万年のすれちがい 百万年のすれちがい
  【早川書房】
  デイヴィッド・ハドル
  本体 2,000円
  2002/1
  ISBN-415208393X
 

 
  石井 英和
  評価:A
   帯に「今年最高のラブ・スト−リ−」とあり、その種の小説には特別興味があるほうでもないので、あまり期待せずに手に取った。が、ペ−ジを繰ってみれば恋愛小説などではなかった。一筋縄では行かない、異様な物語。これは、あるいは恋人同士として、あるいは家族として、時を共にした一群の男女をサンプルにして描いた、人生とは思い込みと勘違いの集積であると説いた書だ。人は皆、自分の把握した事象が現実であり真実であると信じ込んで生きている。しかしそれは、おのおのの勝手な思い込みが生み出した幻想の世界に過ぎない。話者によってグネグネと姿を変えてゆく「現実」の、なんと不確かなことか。誰もが目の前の現実を自分勝手な解釈、歪んだ色眼鏡で見る事しか出来ず、独り合点で生きて行く。そんな人間の定めを描いた、これは笑えないコメディだ。

 
  今井 義男
  評価:D
   この本は二度読んだ。それでも分からない。日本語で翻訳されているので書いてあることは分かる。一人の女性を中心に、複数の男女の恋愛感を交互に述べた作品である。分からないのはそれのどこが面白いかだ。時空を越えたり、犯罪に至ったりといった荒技がのべつ必要とは思わないが、小説を読むからにはなんらかの起伏や変化を期待するのが人情だろう。百歩譲ってそれも諦めたとしよう。ならせめてとびっきり魅力的な人物に引き会わすぐらいのことはしてもらわないと。以前にも似たケースがあり、そのときは迷ったあげく未読扱いにした。今回はそんな卑怯な手は使わない。ときに不幸なすれちがいがある事実を伝えるのも本欄の使命だと信じるからだ。

 
  唐木 幸子
  評価:A
   新聞記事で見たのだが、今、日本人の平均年齢は41歳なのだそうだ。なーんだ、少子高齢化なんて言っても、私はその社会で当の昔に平均を大きく越えていたのか・・・と、ある種の諦観が胸に湧いたところで、その新聞の次に手に取ったのがこの小説だった。ものすごく沁みた。主人公はマーシーとアレン、ジミ−とユタの2組の夫婦だ。それぞれの過去や出会い、互いの配偶者に惹かれる気持ちが、時代と語り役を変えてつづられる。私は悟った。こと男女関係において当事者が、もしかして周囲の誰かに気付かれたのでは、と案じる時はまず間違いなくバレている。逆に言うと、もしかしてこの二人は何かある、と外野が感じた時はピンポーンと当たっているわけだ。なのに何故か夫婦の間でだけ秘密が長続きすることがある。そこら辺の虚しさ寂しさの要因がこの小説には密度高く詰まっている。
さてこの4人の関係は一体どうなるのか。煮え切らないまま何事もなく終わったりはしないので結末を楽しみにじっくり読んで欲しい。

 
  阪本 直子
  評価:AAA
   マーシーとユタは幼馴染み。マーシーとアレンは高校で、アレンとジミーは大学で出会った。それからの、30年の歳月の物語。といっても、別に大したことは起こらない。ジミーはマーシーが好きだから、その親友のユタと結婚した。マーシーは15歳の頃の「冒険」について夫のアレンに一言も話してはおらず、彼は妻の初めての男は自分だと頭から思い込んでいる。ユタはアレンを少しも好きではないが、欲望をそそられてはいた。その程度のこと。大したことではないでしょう? 4人がそれぞれ、他の3人のことを本当には何も判っていないのに、判っていると思い込んでいることに比べれば。そして、判ることが必ずしもいいことなのでもない。アレンがマーシーの心の中の「砦」に気付いてしまった時から、彼の人生は完全に変わってしまうのだ。気のきいた台詞満載の、凡百の恋愛小説なんぞは即刻ゴミ箱行き! この小説を読みなさい。傑作です。

 
  谷家 幸子
  評価:B-
   このタイトルは何とかして欲しい。
私なら本屋の平積みにおいてあったとしても、まず間違いなく素通りだ。というか、憎しみに満ちた視線さえ送るかもしれない。全くもって、編集者のセンスを疑う。そうは言っても、このタイトルだからこそ手に取るという人たちが一定数いるであろうことも察しはつくので、商売上しかたないのかもしれないけど。
しかし、吐きそうなタイトルとは裏腹に(すみませんお下品で)、内容は結構面白かった。
マーシー、アレン、ジミー、ユタという4人の関係性がとにかく興味深い。見くびりつつ愛し、憎みつつ依存しあうことで成立するバランス。ただ仲が良いとか悪いとかいうことだけでは語れない感情。別れて何十年も経ってなお、マーシーへの執着を見せる老年となったロバートの心情もまた、複雑であるがゆえにすとんと胸に落ちる気がした。
ラストシーンはよくわからない。なんだか、無理に不思議な感じにしようとして失敗している気がする。不満はそこだけだ。

 
  中川 大一
  評価:D
   いま私が話しをしている相手は、私のことをどう思っているのだろう? 私の目の前の光景は、隣りに居合わせた人物にはどう映っているのか? そんなこと、現実には決して分からないけど、小説なら大丈夫。一つの出来事を、視点を変えて、つまり語り手を変えて描いていけばいいんだね。なるほどおもしろそうな設定だ。ただ、趣向がよくても物語が成功するとは限らない。語り手が交替することで生じるズレが、微妙すぎるんじゃないか。本書の原題はThe Story of a Million Yearsだから、「すれちがい」というのは訳者か版元の創作である。これ自体は内容をよく写し取っており、うまい。でも、残念ながらすれちがいは、登場人物どうしで起こっただけじゃなく、作者と読者の間にも生じてしまったみたいだね。

 
  仲田 卓央
  評価:E
   う〜ん、なんというか。お互いに友達同士である二組の夫婦、つまり4人の男女それぞれが一人称で語ることで浮かび上がってくる、男と女のすれちがい…、というお話なのだが、語り手が男であろうと女であろうと、『おっさんの愚痴』を延々聞かされているような不快感を覚える。ほら、いるでしょ、自分の意見が一番正しい、他人が自分と違う意見を持っていることが信じられない、と思っているおっさんが。みのもんたに相談することが現実を変える第一歩だと思ってるおばはんでもいいけど。それならそれで、オヤジ丸出しの小説ならば、まだ面白く読めたかもしれない。それが中途半端に『恋愛小説』の飾りがついてるものだから、もう我慢できないくらい息苦しい。「息がくさくて、頭から変な整髪料のにおいがプンプンの中年」に口説かれるってこんな感じなのでしょうか。かなり、つらい小説でした。

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