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  大統領法律顧問 大統領法律顧問
  【早川書房】
  ブラッド・メルツァー
  本体 2,800円
  2002/1
  ISBN-4152083921
 

 
  石井 英和
  評価:D
   ものの考え方の基本的な部分がまるで子供のまま偏った知識ばかりを溜め込み、しかも、そんな歪んだ自分の内面にまったく疑問もいだかない無神経な主人公が設定され、彼の職業は大統領の法律顧問であるという。アメリカって困った国だなあ、と妙な方向に向かって頭を抱えつつ読んだ。ホワイトハウスを舞台に、放課後のティ−ンエイジャ−の無軌道でヒステリックな悪ふざけ、精神面ではそのレベルの騒ぎが展開されるが、その一方に、やれ「大統領の」「法律の」といった権威大好き、権力大好きな著者の、そしてアメリカ人の気質そのものがそびえ立っていて、時節がらなんとも寒々しい気分にさせられた。なお小説の形としては、スト−リ−、人物の内面描写、その過去の紹介、事件の背景等、ことごとくが登場人物の会話によって提示される御座談小説である。

 
  今井 義男
  評価:D
   権謀術数渦巻くホワイトハウスでの犯罪、それも朝っぱらから大胆不敵な殺人だ。権力争い? 粛清? 普通このシチュエーションなら国家の根幹を揺るがす大疑獄事件に発展するのが相場だが……いかんせん、作者がひた隠す事件の真相は情けなくスケールが小さい。とても笑って見過ごせるような内容ではないし、許しがたい所業ではあるが、この舞台にまで<それ>をもってこなくても、というのが偽らざる心境である。現実に頻発する同種の犯罪を告発するのが目的なら、真正面から堂々と書けばいい。後生大事に謎の中心にしまいこんだっていまさら誰も驚かない。全米ミステリ協会は、いい加減これを禁じ手に指定しないとダメだ。

 
  唐木 幸子
  評価:A
   主人公のマイケルの勤務先はホワイトハウス、職業は法律顧問弁護士、恋人は大統領の娘。しかし、ちっとも権力的でなく素直な若者なのだ、これが。気まぐれ我がままで正体の知れない大統領の娘に翻ろうされて、あっというまに事件に巻き込まれてしまう。本書ははっきり言って、誰が味方で誰が黒幕かという疑惑や、罠や謎の深みはそれほどはない。しかしホワイトハウスやエア・フォースワンの中がどうなっているかとか、大統領法律顧問は何をする仕事か、というディテールは今まで読んだことのない詳しさで、ほほおと唸ること幾たびか。特に、自分が担当した法的問題(大統領は自由盗聴権に反対すべきかどうか、の助言)について大統領にブリーフィングするために、極限の疲労の中で準備にいそしむマイケルの仕事振りには、同じサラリーマンとして共感するものがある。なのでA。

 
  阪本 直子
  評価:A
   タイトルは主人公マイケルの職業。これだけ見ると政界サスペンスかと思われますが、厳密に言うとそうじゃない。確かに舞台はホワイトハウスとその周辺だしヒロインはアメリカ合衆国大統領令嬢だけど、オーソドックスなまでの巻き込まれ・罠にはめられ・孤独な戦い・二転三転サスペンスの一級品、あくまでもストーリーが主で設定は従です。緊張感を高めるのに、選挙の年のホワイトハウスぐらいもってこいの舞台はまたとないでしょ。ミステリの体裁を借りて“知られざるホワイトハウスの内幕とは!?”を描くのが主目的ではないのでご安心を。訳知り顔の偽悪趣味も、白々しい理想や信念もありません。アメリカ本国では去年の1月に出てベストセラーになったそうですが、今年出た本だったらどうだったかなあ? 『エアフォース・ワン』ほどは「愛国的な」話じゃないからねえ。

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