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  友へ(チング)  友へ(チング)
  【文春文庫】
  郭景澤
  本体 667円
  2002/2
  ISBN-4167527987
 

 
  内山 沙貴
  評価:A
   まるで光の中にある他界のように、幼い頃の記憶はある時は美しく鮮やかで輝かしいのに全体はモヤがかかったかのように不可視で危うげで手が届きそうでいて、どこに手を伸ばせばたどりつけるのかさえわからない場所にあった。記憶が新しくなるにつれて強く「死」という文字と空気が浮かび出てくるようになる・・・・・。読中は微かな違和感を感じたが、読み終わった後にこの作品の世界が少し理解できるようになった。美しい光、鮮やかな光をバックに反射させながら、4人の“友”がふざけあって遊んだ記憶。その記憶は歯を食いしばってしか思い出せないような美しい時代、今はもう跡形もなく過去の場所へと吹き飛ばされてしまい、時が過ぎて今行くしかない道をバラバラに生きている。印象が映像となって鮮やかに残る、陽の光を受けて輝く海のような作品だった。

 
  大場 義行
  評価:B
   期待せずにぱらぱらと読み始めたら、止まらず一気に行ってしまいました。なにせ韓国映画史上最高の動員数といわれても。「シュリ」でぜんぜん泣けない楽しめなかったし。しかし、読んでみれば四人の子供時代からの友情、葛藤、そこに家庭の事情などが交差して、ひじょうに男臭くてなかなか楽しめました。特に子供時代暴れまくる4人組の話はつぼ。作者自身の事だからか、ちょっと主人公が優等生ぶっているのは気になるし、最後は駆け足の感じもあるのがちと残念だったかも。ただ、実話を元にと聞くと、凄まじいなあ韓国と、この本を片手に呆然としてしまう事うけあい。
「シュリ」以降韓国映画を見に行かなくなっておりましたが、これなら観ても楽しめそう。

 
  北山 玲子
  評価:B
   小説でもなんでも2番手という存在が気になる。2番手であることの哀しみと潔さに惹かれるのかもしれない。本作に登場する男たちのひとり、東秀の生き様は痛々しく哀しすぎる。いつまでも俊ソクを超えることのできない焦燥感と、幼い頃から常に心の中で抱き続けてきた孤独と疎外感。その空洞を打ち消すかのように行動する東秀に対する、3人の男たちの友情と戸惑い。話自体はありがちだ。何故こんなふうになってしまったのだろう。戻るこのできない過去に想いを馳せる著者のそんな声が聞こえてきそうな感傷に満ちた1篇。特に、ラストシーンは印象的だ。著者が映画監督ということもあって絵コンテを見ているように映像が目に浮かぶ。その部分が小説を読んだというよりも映画のパンフレットのアウトラインを読んでいるような気がしないでもないけど。

 
  山田 岳
  評価:A
   やくざの世界にからむ男たちの友情と裏切り、その根底に流れる熱き血潮って、もろに中上健次の世界。視覚的な描写とテンポのよさは今日的で、映画の原作というのもうなずける。そこまでやるかってのが、日本とはちがうところね。クライマックスへとつきすすんでいくスピード感は圧巻。

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