年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     
今月のランキングへ
今月の課題図書へ

商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
 
  三億円事件  三億円事件
  【新潮文庫 】
  一橋文哉
  本体 629円
  2002/3
  ISBN-4101426228
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
   まだ生まれていない頃の事件である。当時、日本中が混乱状態に陥った様子は、後に放映された特番などで何度か見たけれど、世間の興奮状態とは裏腹に、事件を起こした当事者たちはどうだったのか?
 この本に書かれている人物たちが事件を起こしたならば、実に空しい。
 犯罪に対する罪悪感ではなくて、犯罪をおかしたもの同士、重たい鎖で足を繋ぎあい、互いを信頼したいのに、信頼しきれない息苦しさを抱えて生きている様子が感じられる。
 いつも心の底から笑うことができないような、心の中に重たいドロリとした鉛が含まれているような感覚を抱いて生き続けた人の物語という感じで、読んでいてつらい作品だった。

 
  内山 沙貴
  評価:A
   三億円を盗るって、一体どういう事なのだろう?盗んだ彼らがその後もまた不幸な人生しか送っていないなんて信じられない話だけれど、本当は“運”なんてものは存在しないのだろうか。著者の話が進むとともに、真相の意外さに自分の身にも震えが走る。三億円事件が誰にとっても凶をなし、では何のために起きた事件だったのか?私は「三億円事件」の事を全く知らないし、私が生まれる以前にすでに時効も成立してしまっているのだけれど、数少ない手掛かりから事件の真相を知るとき、その多くは勘に頼るところがあるのではないか。著者が犯人をつきとめるまでの推理にちょっと強引なところがあったような気はする。だがこの話の中にぐいぐいと引っ張られていった。真相は、まるで映画のワンシーンに隠されているみたいな犯行とは裏腹に、動機が復讐という悲しい事件であったのだと感じた。

 
  大場 義行
  評価:E
   ドラマちらりと見たときは、こりゃ面白そうと思ったんだけどなあ。導入部である事件の詳細、捜査中に出てきた証拠や証言、失敗など事実部分はとにかく面白かった。実は三億円事件前に伏線にあたる事件があったとか、警察がそれで動いたというものを取り上げているのだから、とにかく三億円事件の裏話として迫力満点。ところが、作者がこれが犯人だと決めてからは別。犯人と思われる人物にインタビューに行っているのだが、この辺りからとにかく不愉快。突如小説のように「先生」はムッとしたとか、ブルブル震えたとか、そりゃあんたの主観でしょと叫びたくなるシーン続出。事実だけを追っていたのに、突如自分が探偵だと思いこんでしまい暴走しているようにしか読めなかった。いやそういう読み物なのかな。ノンフィクションの服を着た小説。だとしたら、事実自分が怒るくらいだから成功しているのではないだろうか。

 
  北山 玲子
  評価:A
   当時3歳だった私には三億円事件の記憶はまったくない。でも、著者の事務所に「ヨシダ」と名乗る男が電話をかけてきた瞬間から、著者と共に事件の現場に立っていた。さまざまな関係者に話しを聞き、そしてついに真犯人を追って日本からロスへと旅立つ。真犯人と思われる男にインタビューに臨んだ時はどきどきし、そして事件に係わったと思われる人たちのその後を知って少しやりきれない様なせつなさが残った。まるで自分自身が著者になって真相に向かって一歩一歩進んでいくような錯覚を起こさせるスリリングな1冊。何がすごいってこれ全て真実なのだ。一つの事件を地道に調べ上げていく著者の姿勢にずぼらな私はただただ圧倒され、感心するばかり。しかも事実をだらだらと羅列しているだけではなく、少しずつ謎を小出し小出しにして引っ張っていくテクニックは、読み手を事件の中核へとグイグイ誘っていく。毎日様々な事件が起こるが、ニュースはただ報道するだけで真相を深く掘り下げることは少ない。だからこそ本書のような仕事はとても意義のあることだ。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   例えば本書がフィクションだったら、そんなバカな、の一言で片づけられてしまいそうだ。そんな都合のいい証拠が30年もたって出てくるなんて!とか、「真犯人」がアメリカにいて、しかもインタビューに成功するなんて!とか。文庫化にあたって書き下ろされたという後日談にいたってはカビがはえたような浪花節。いささか出来過ぎなのである。でも、これはまぎれもないノンフィクション。リードはあるにしても、提示される犯人は、限りなく真っ黒だし、著者自身があとがきで自負するように「かなりのところまで肉薄」しているのは事実だろう。夢のような完全犯罪は、ただ薄汚れて、そこにある。理不尽ながら、少しむなしくなった。

 
  山田 岳
  評価:A
   「モンタージュ写真」という言葉が一般に知られるようになったのは、この事件があってからのことではないだろうか。当時子供だった評者にも白バイ警官のモンタージュ写真が生々しく思い出される(しかし本当の意味での「モンタージュ」ではなかったことを数年前にNHKが暴露。この本でも言及されている)。発煙筒をダイナマイトと勘違いするとは、のどかな時代だった。という思い込みを覆す、伏線としての脅迫事件があった! なんて、本書ではじめて知った。それがまた<グリコ・森永事件>に似ていること!事件の重要参考人「先生」を追い詰めていく緊迫したインタビューは、ノンフィクション取材のお手本と言っていい。

戻る