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  いつかわたしに会いにきて  いつかわたしに会いにきて
  【ハヤカワepi文庫】
  エリカ・クラウス
  本体 700円
  2002/2
  ISBN-4151200150
 

 
  内山 沙貴
  評価:D
   そっとすくってずっと大切にしてきたはずが、いつのまにか指のすき間から流れ落ちていた細かな砂。若い頃の勢いはなく、夫を失い自力で世界の海を漕いで進むしかなくなった無知で幼い独りの女性が、次から次へとつらつら綴られている。他人に護られ、勢いにまかせて自分の足下の地面をみることさえできなかった30代の女性の愚かさを浮き彫りにして、彼女たちの新たな発見と後悔を描く。サラもパトリックも誰も私のことを知らなくて、私は孤独、そう思っていたのに。本当は誰よりも私よりも私を知っていて、私よりも強かった。そうして私は負けを認めるの。一瞬の時の情景や人の気持は誇張されることなく文字の上に空気として浮かび上がってくる。さらりとしていて感情の嵐のような文体。話の本意は理解できなかったが、とても読みやすい文章だった。

 
  大場 義行
  評価:B
   妙に自分を醒めた眼で観ているというスタンスがとにかく素晴らしい。短編集でありながら、全て主人公は女性、そして皆、まるで他者のように自分を眺める。これはとにかく不思議な味わいの短編集。自分の恋人がドラッグ中毒でも冷静で、他人の夫と寝るのが大好きと冷静に告白したり、別れたりしても皆醒めている。これが涙がでるというような哀しみではなく、胸をそっと締めつけるような哀しみの元になっているのかな。なんだかさっぱりしているのに、妙にもの悲しい感じが全編にあって、最後まで飽きなかった。この作家は今後大注目しようと思っている。

 
  北山 玲子
  評価:A
   空港の窓から大空へ飛び立っていく飛行機を何機も見送る。なかなか搭乗ゲートを通ることのできないロイスを臆病者だと言うのは簡単だ。でも、簡単なように見える人生も時として簡単ではなくなる。『浮かぶには大きすぎるもの』のもう若くはないロイスのややっこしい心情は手にとるように理解できる。ここに収められている13篇すべてが、30代の自分にはリアルに映る。女性作家の作品は感情が先走りがちだけれど、エリカ・クラウスというこの作家は感情を押し出しつつ、何よりも構成力に優れている。ラストの結び方なんて秀逸だ。だからウェット過ぎずにさらりとした感触が残って後味も悪くない。年を重ね、ごまかすことのできなくなったとき垣間見えた本当の自分に戸惑いつつも、なんとか受け入れようとする瞬間が切り取られている。『ブリジット・ジョーンズの日記』よりずっと共感できる作品だ。

 
  操上 恭子
  評価:C-
   最初は連作短編集なのかと思った。一つ一つの短編のエンディングがどうも中途半端に思えたから。だが、改めて読み返してみると、あえてそこで切ったのだとわかる。「それで結局どうなったの?」という疑問に答えはないのだ。作者はカタルシスを与えてくれない。読者は自分で考えなくてはいけないのだ。この放り出される感じを評価する人もいるのかも知れない。物語そのものには、どれもさほど目新しい物はない。結婚や子供、恋愛や情事に振り回される女達。だが、その肝心の女性像が今一つはっきりしない。読者がそれを自分に当てはめることができれば、感慨深い作品になるのかも知れない。私にはどうも消化不良が残ったが。

 
  佐久間 素子
  評価:B
   眠れない退屈な日曜の夜や、のどのかわきで目がさめる二日酔いの朝は、こんな風にぐちりたくもなる。待っているのは男ですらないのかもしれない。他力本願で甘えた欲求は、少しも信じちゃいない分、切実であり、同時にばかばかしいのだ。嫌なタイトルだねー、と思うたは早合点。訳者解説によれば、女優メイ・ウェストが自分に気がある男を誘うときに言った台詞だそう。そういうことかと、ふっと力がぬける。最初の誤解も含めて、13の短編を見事に示唆したタイトルだ。都会的な雰囲気はウィット(何だそりゃ)にあふれ、そこんとこが非現実的なのだが、彼我の差を越えて伝わってくるものが確かにある。「わかっているでしょう。それは、いたみというのよ」

 
  山田 岳
  評価:A
   <アンニュイ>アメリカ人には絶対理解できないと思っていたのだが、この小説はそんな偏見をみごとにうち砕いてくれた。作者は、少女時代をすごした日本で<アンニュイ>と出会ったのだろうか?フランスや日本の女性作家ならば<私小説>に仕立て上げてきたような、恋のバリエーションがつまっています。「sometimes」を「いつか」と訳したセンスも光っている。

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