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  わたしは女 わたしは船長  わたしは女 わたしは船長
  【原書房】
  リンダ・グリーンロウ
  本体 1,800円
  2002/2
  ISBN-4562034734
 

 
  石井 英和
  評価:A
   小林信彦氏の著書に、「エノケンに<芸の心>を語ってもらうべくインタビュ−したが、<どのようなネタをやったら受けた>といった技術面しか、相手は語ってくれなかった」とあったのを思い出した。漁船の船長の体験談というので、壮大な海の冒険行などを期待してしまったのだが、描かれているのは今日の航海術の実際であり、船長として船の装備や乗組員同志の人間関係に心をくだくこと、等々だったのだ。漁業というビジネスに携わる、あくまでもリアリストであり、実務家である著者の地道な現場報告なのである。興味深くも価値ある描写が至る所にあり、あくまでク−ルな筆致が爽やかだ。が、ちょっぴりだけ語られる漁師たちの古い迷信に牽かれてしまったりする、私のような単なる面白主義者の本読みには、もう少しケレンというものがあると、ありがたかったのも事実。

 
  今井 義男
  評価:A
   まず<海の男>というイージーな幻想は捨ててほしい。そんな男はどこにもいない。職場が特殊なだけで、みんな普通の人間だ。真面目なやつもいれば、どうしようもないやつもいる。事情は日本もそう変わらない。さすがにドラッグを持ち込むバカは見たことがないが、差別はある。船の上にはクルー問題。海上では同業者との縄張り争い。悩みの種は人間だけではない。潮の流れ、気圧、風向き、水温…。勝手気ままな自然にも、二十四時間神経を尖らせていなければならないのである。好きでないと、とても続かない。天職とはこのことだ。自らの職務を全うする、漁師リンダ・グリーンロウには最大限の敬意を表する。余談だが私が新米の船乗りだった頃聞いた話に<赤道を示すブイ>というのがある。もちろんからかわれたのだ、ジェスロのように。

 
  唐木 幸子
  評価:C
   著者は、映画『パーフェクト・ストーム』で傍役だが印象的な女船長リンダのモデルだった人だ。あの映画は公開時に大劇場で見たのだが本当に凄かった。遠洋漁船が100年に一度というような嵐に巻き込まれ、クライマックスでは海全体が立ち上がったかと思われるような大波に船員が飲み込まれる。あのシーンが忘れられなくて、後にDVDが出た時に素早く購入。でも家のTVで見るとこれがちっとも迫力がなくて、水がザッブンザッブンしてるだけの映画になってしまって残念だった。リンダ役は、『アビス』で主演したE.マストラントニオが好演していたが、本書はそのリンダが船長として最も誇るべき漁を思い返したドキュメンタリーだ。厳しいマグロ漁の実態が誇張がなく淡々と描かれており、著者の無駄と無理のない人間性が感じられて好感が持てる。ただ、『私は女・・・』なんていう邦訳題には相当、げんなりしてしまった。リンダ本人が知ったらいやがるんじゃあないの?

 
  阪本 直子
  評価:B
   うーむ、この邦題は何とかならんか。原題はすっきりとThe Hungry Ocean。飢えた海洋、でいいじゃありませんか。確かに著者は世界で只一人のマグロ漁船の女性船長であるのだし、実際、本書にも「わたしは女。わたしは漁師」とあるけどさ。しかしその後「女漁師でも女性漁師でも女子漁師でもない」と続くんだよ。となると邦題とは何か全然印象が違うぞ。「女だったことが大きな障害になったことはない」「不当な仕打ちに苦しんだことがない」という著者に、最適の題名とは思えない。
 内容は至ってシンプルだ。出港して、漁をして、帰港。要するにこれだけ。著者がこの本を書いたのは映画『パーフェクト・ストーム』で有名になったからだそうだが、本書には劇的な事件は皆無である。漁船の通常の労働が描写されるだけなのだが、それが滅法面白い。ただ困ったことに、読む当方に知識がないので、いまいち絵が浮かびにくいのだ。写真やカットが欲しかったなあ。

 
  中川 大一
  評価:C
   (問)39歳の事務系サラリーマン。パソコンと人に囲まれた職場はもうたくさん。アウトドアで豪快に働いてみたいのですが。(答)ちょっと待って! 自然相手の仕事はそんなに甘いものではありませんよ。本書を読んでみてください。まず、漁場は国家間の取り決めで線引きされ、個々の漁師はまったく口出しできません。それに、現代の延縄漁は、GPSや魚群探知機を駆使するハイテク産業です。船長は、水揚げを求めるオーナーと、さぼりたがる乗組員との板挟みで苦しみます。どうです? 設備投資と売上げと人間関係。この世に天国などないことがわかるでしょう。この本はぐいぐい引き込むような筆致ではありませんが、北米漁民の暮らしを過不足なく描いています。コトを起こす前にまずご一読を。

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