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  煙突掃除の少年  煙突掃除の少年
  【早川書房】
  バーバラ・ヴァイン
  本体 1,600円
  2002/2
  ISBN-4150017123
 

 
  石井 英和
  評価:C
   亡くなった父親の過去に秘められた謎を探る物語。派手な展開ではなくとも、ジワジワと真相が明らかになって行く過程はスリリングであり、妙な言い方だが、他の作家のペンによって物語られたら、かなり楽しめる作品になっていたのでは?というのが、読後のストレ−トな感想。なにか重箱の隅をつつき回すような神経質な所があり、しかも同じところを堂々巡りするような著者の語り口に、どうにも馴染めなかったのだ。作中を一貫して支配し続ける感傷的な雰囲気も、物語のダラダラ引き延ばされた感触に拍車をかけてしまっている。いっそ、短編小説に纏めたら良い結果が出たのではないか。また、訳文にときどき妙な箇所が。例えば45ペ−ジの「金色の髪のあいだに光る銀の髪は、自分にふさわしい歌を歌っていることになる」など、日本語になっていないと思うのだが。

 
  今井 義男
  評価:C
   わけあり風の表題がいい。翻訳ミステリはこうでなくては。高名な作家死して遺したものは、偽りの名前と偽りの履歴。作家には妻と二人の娘がいて、調査するのは姉のほうだ。この家族、死んだ作家も含めてあまり好感が持てない。特に妹が。ハサミで人をコケにするゲームが彼らの品性を凝縮している。ハイソに恨みはないが、読んでいていい気分はしない。家の中で一人浮いていた妻もなかなかの食わせ者で、同情する気持ちも消し飛んだ。パズルのピースが徐々に埋まるにつれ、姉の性格も鼻につきだす。よくよく考えれば、すべての元凶は作家にある。それでも三人の態度は目に余る。大したことも起こらないまま、隠された過去に到達するが、最後に明かされる<霧>の意味と、この枚数を読者が果たして納得するかどうか疑問である。唯一感心したのは、ハサミの謎をひと目で見破ったジェイソン。天晴れだ。

 
  唐木 幸子
  評価:A
   得体の知れない老作家が冒頭で病死する。その妻は夫の生前の仕打ちに対して恨みがましいことばかり言っているし、娘二人は美人で頭も良いが温かみの感じられない女たちだ。というわけで気持ちの良い人間は殆ど登場しないのだが、ストーリーとしては実に心に訴えかけるものが多かった。私は何度も本を置いて考え込んだ。ここで語られる夫婦や親子の関係が余りにも寒々しいが故に、自分の家庭は、私の夫は、今は5歳の娘は将来・・・と思いを馳せてしまうのだ。この小説は一応、ミステリである。殺人もあれば失踪もある。しかし読後に残るのは、この老作家と妻の無残な夫婦関係であり、母と娘の互いの侮蔑が透けて見える親子関係だ。ところで随所に出てきて不快な雰囲気を生み出す『わたしは鋏を渡す』と言うゲーム、その真相は後半になって明かされる。他人を嘲笑いたいがためのような実に腹立たしい種明かしなので、一層、この家庭の病みの深層が感じられたのであった。

 
  阪本 直子
  評価:AA
   高名な作家が亡くなって、娘が回想録を書くことになる。生前の父は過去を語らなかったため、出生証明書を手がかりに親類を探し始めるのだが……という、「隠された過去」もののミステリです。さすがバーバラ・ヴァイン(ルース・レンデル)、現実に身近にいたら頭にくるに違いない連中だらけなんだけど、皆「登場人物」としては実に魅力的。熱烈に愛し愛されていた父親の秘密にショックを受ける娘達と、空虚な数十年を思い起こす未亡人の対照。練達の筆致で読ませます。
 それで、肝心の「秘密」は何だったのか? あちこちに仄めかしがばらまかれてるので、慣れた読者なら途中で気がつく可能性は大ですが、むしろそれこそが作者の意図でしょう。“衝撃の真相”に不意打ちされるのではなく、段々高まる「もしかしたら……」を存分にご堪能あれ。

 
  谷家 幸子
  評価:C
   マニアの方々御用達(と思っていた)ポケミスこと早川書房の「ハヤカワポケットミステリーブック」、私は今まであまり手にとったことがなかった。先月だか先々月だかの課題「危険な道」に続いて、これで3冊目。いやしかし、この装丁って好きだな。いまさらではあるが、本好き心をくすぐる、持ち歩いて楽しいシリーズだ。(しかし高過ぎると思う。)
で、このお話。「自分の親のルーツを探ってみたら、そこには意外な真実が!」というパターン、今流行りなんでしょうか。「危険な道」と全く同じ。
もちろん、いろいろな設定も違うし、語られ方だって違うのだけど、根幹となるアイディアがこうも一緒だと、こらえ性がないものでつい「また?」などと考えてしまう。
しかも、「危険な道」の方は、時代背景や人物の魅力もあって、「意外な真実」の語られ方に非常に説得力があるのだが、こちらのほうはかなり見劣りがする。
「意外な真実」の方も、確かに意外は意外なのだが、この事実だけでは説明のつかない部分も多く、(ジェラルドがなぜあそこまで妻に対して冷淡だったか、あれだけでは全然理由にならないと思う。)真実がわかったところであまりすっきりとしないのだ。まあ、すっきりすりゃいいってもんでもないんだけどさ。
そして最大の疑問。あんなに簡単にルーツをたどれるものなのだろうか?日本とは、書類関係の事情が違うにしても、ちょっと不可解だ。

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