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  個人授業 個人教授
  【角川文庫 】
  佐藤正午
  本体 495円
  2002/3
  ISBN-4043593031
 

 
  石崎 由里子
  評価:D
   登場人物に共感するところが少ないのが残念です。
 逃避願望は誰にでもあるけれど、たいていは我慢する。我慢せずに逃避を選ぶのなら、必ず失うものはあるし犠牲がともなう。その覚悟が必要だ。
 主人公は27歳男性。なのに、いわゆる賢い人の方法なのでしょうけれど、逃避はするけど職は辞さず。1年間の休職期間中に、会社から給料をもらい、ぶらりぶらりとモラトリアムな時間を過ごしているだけ。
 ひとところにいて、来る者は拒まず、去るものは追わず、逃げ道を作らず、時間の流れの中に身を任せている脇役の教授の方が、人間としての強さを感じた。

 
  内山 沙貴
  評価:C
   人と関係を持ちつつも自分の都合が悪くなるとそこを身体から切り離そうとする主人公を私も卑怯者だと思った。優しさを持たない人は、上の命令に従って生きているほうがよろしい。そうやってこの街は彼を追い出していったような気がする。どこにでもありそうな世界なのに、自分の世界とは違う次元の不思議な異界。それなのにそこにいる人達の言葉と気持がすうっと自分の中に入ってくる。気持の裏に隠された感情と本人さえも気付かない言葉から滲み出る本心。そんな上手さについ唸りたくなるような小説だった。

 
  大場 義行
  評価:E
   あまりにもぼくちゃんが嫌なタイプ過ぎる。こんなヤツとは友達になりたくないなあ。もともとこの本「彼女を妊娠させた」事を知って放置、あげくに彼女が行方不明になる。その彼女探しが自分探しにつながるというテーマの為に、どんどんこいつイヤだなあという思いが募る。ただ、主人公の脇を固める教授(ニセ教授だけど)、探偵、金持ちおばさん、とその姪なんかは良いセリフを吐いている。教授のセリフなんてとにかくいい。しかし、この主人公に共感できないと、絶対にこの物語にははまれないし、だいたいにして「自分探し」がテーマというのは十年前ならいざしらず、現代にはもう通用しないのではなかろうか。

 
  北山 玲子
  評価:B
   男は土壇場に弱い。何かあると結構すぐにヘロヘロになる。それに比べて女は強い。周りを見回してもやっぱり女性のほうが圧倒的に逞しい。佐藤正午はその辺りのことをホントによくわかっている。ここに出てくる女性たちは男にとって都合のいいふうに書かれているけど、見方を変えれば男を頼りにせずさっさと自分の道を見つける人たちだ。それに比べて主人公・松井や教授のへなちょこぶりにはため息が出る。女は大好きだけどよくわからない。簡単に言ってしまえばそれだけの話なんだけど、ただ愛してるだの愛してないだのと言っているだけではなく謎を絡めた構成で直球を回避するあたりは著者の照れを感じる。そこらへんが佐藤正午っぽい。ただこの作品は肝心の謎の部分が少し弱いような気がした。女性たちにいいように振り回されている主人公の描き方がカッコつけているようでいて実は滑稽に見えるのもいい。特に西瓜を手に尾行する探偵が今月のマイベストキャラでした。

 
  操上 恭子
  評価:C
   もうこれで5冊目になるのだろうか。この新刊採点の課題の選者は本当に佐藤正午が好きだ。だが、私はこの佐藤正午が嫌いなのだ。文章の読みやすさは認めるが、毎回毎回出てくる主人公が「女をなんだと思っているんだ」の嫌な奴だからだ。この『個人教授』の主人公も案に相違せず、女にだらしのない人でなしだ。ただ、今回それがそれほど気にならないのは、その人でなしぶりがあまりに露骨で、作中で散々それを攻められているからだろう。それにしても、「子供は欲しいが男(子供の父親)はいらない女」は今ではさほど珍しくもない。この作品が発表された15年前とは隔世の感がある。

 
  佐久間 素子
  評価:E
   まあ何となく嫌な予感がして、読み始めたのだけれど、予想どおり、いけすかない方の佐藤正午節が全開で、少々げんなり。仲間とつるんで毎日をわいわい暮らしているような十代の男の子なら、女の子はただの記号にすぎないのもしかたないかもしれない。ボーイ・ミーツ・ガール以前のその風景はほほえましいけれど、いい大人が個別の恋愛に一般論もちこんでちゃ世話無いなあと思ってしまう。主人公が抱いたのは、ふみこでもみちこでもない、女という生き物にすぎないんだもの。彼は失ったのではない。もとから得たことなんてなかったのだ。話らしき話もないので気もまぎれない。好きじゃなかった『恋を数えて』よりひどいってことで、ごめんなさいのE判定。

 
  山田 岳
  評価:B
  「男にとってこの世でいちばん頭の痛い存在は」ではじまる佐藤正午節は今回も健在。それ以上に、文体がシャープになり、気のきいた言い回しもふえて<大化け>を予感させる。今回は、女性にもてるのに平気で傷つける男が主人公。ますます初期の村上春樹に接近してきた。村上作品では、主人公が<あちら側>に行くことで、たましいに変化が訪れる。だが佐藤作品には、それがない。したがって主人公は、現実上の理由で生き方の変更を余儀なくされる。それでは主人公のたましいは変わらないし、読者のカタルシスもうまれない。おしい。

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