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  母恋旅烏 母恋旅烏
  【小学館文庫】
  荻原浩
  本体 714円
  2002/2
  ISBN-4094100091
 

 
  石崎 由里子
  評価:A
   最初から最後まで、ぼくと家族のドタバタ劇で、テンションが高く、楽しめました。とはいえ、都度起こる事件には今時の問題がふんだんに盛り込まれているし、ぼくや家族の感じやすい繊細な心の推移は、人間らしくて、笑えて泣けて、共感できる。
 家族が一緒に暮らしていれば、愛憎劇はいくつも生まれる。近くにいるから分かり合えるというものでもないし、逆に見えなくなってしまうことはたくさんあるだろう。永遠の関係なんて家族にすらないのだ。いつかバラバラに散っていくものだけど、個々が巣立っていくことこそが新しい家族を生み出すのだから、家族が崩壊することは、実は新しい形に生まれ変わる為の一つの段階にすぎないのかもしれない、と考えさせてくれた明るく真面目な作品です。

 
  大場 義行
  評価:A
   一読、あ、これは「オロロ畑」の人だとわかるこの文体。調子にのっているようでもおかしな状況をたんたんと説明して進めていく文体。これが気になるんだよなあと思いながら読み進めていると、それどころの騒ぎではない。レンタル家族業なんて幕開けからドタバタと突き進んでいき、あれよあれよという間に、どっぷり物語に浸かってしまう。これは、寛二くんの成長ドラマでもあり、家族ものでもあるんだなあ。ラストなんて、芝居の話のせいか、惜しみない拍手をしたくなるような、そんな終わり方。笑わせて、そして泣かせる。荻原浩は最近少なくなったタイプの作家といえるかもしれない。

 
  北山 玲子
  評価:A
   家族全員でレンタル家族派遣業をしている花菱家。普段は仲が悪いのにレンタル業をしているときだけは理想の家族になる変な一家の物語。ところが花菱家はレンタル業にも失敗して、父親が以前役者をしていた大衆演劇の世界に戻ることに…。家族6人がちゃんと成長していくとことん前向きな展開で、これ以上ないくらいのすっきりさわやかな読後感を味わうことができる。親子のはにかんだ様な思いやりはまさに大衆演劇そのもの(おひねりたくさんいただけそう)。というより話全体がそんな雰囲気を醸し出している。子供たちが自立し始める後半あたりから、前半でメインにいた父親の存在が徐々に薄れていくのもさりげなくリアル。おまけに登場人物は変な人たちばかり。いきなり戦時中モードに入ってしまう小野寺のじいちゃん、大衆演劇にいきなりブレヒトを取り入れようとする花之丞、存在すら無視されてしまうシゲさん。ツボにはまってしまいました。

 
  佐久間 素子
  評価:B
   陳腐まであと一歩、定石どおりまであと一歩のところで、うまくふみとどまっていることが、奇跡のような人情喜劇だ。元大衆演劇役者の清太郎は家族を巻き込んで、レンタル家族派遣業を始めるも当然失敗、元の古巣に舞い戻る。ダメな父に、優しい母、気弱な長男、気の強い長女とその娘、語り手の次男。彼らが引き起こし、巻き込まれるドタバタは、ちょっと哀しく、存分におかしい。これはもちろん家族の話なのだが、家族ってすばらしい(大団円)という展開になりそうで、ならない所がいい。ある意味「特殊な子」である次男が最後まで切り札にならないのが、さらにいい。そう、これは、家族からの自立の話でもあるのだ。

 
  山田 岳
  評価:B+
   旅芸人の世界をまさに「涙あり笑いあり」で描いた傑作。語り手、寛二の人物像を少しずつ明らかにしていく手法もなかなか。はじめはこどもとばかり思ってしまったぞ。「芝居はつかみが肝心なんだ」と言いながら、導入部の「家族ゲーム」がもうひとつなので、この評価。

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