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  A&R A&R
  【新潮文庫】
  ビル・フラナガン
  本体 各629円
  2002/2
  ISBN-4102215212
  ISBN-4102215220
 

 
  大場 義行
  評価:B
   ロックファンだけでなく、モノ造りをしているサラリーマン全てがこの本に共感するんじゃないだろうか。ちょっと大げさかな。主人公は四人。音楽会社の経営責任者(明るい大物系)、会社社長(豪快でも裏アリ系)、そしてスカウト部門に引き抜かれてきた中間管理職(職人いい人系)、スカウト部門の女性(キャリアウーマン自意識過剰系)の四人を軸に、音楽配給会社の面白くも切ないトラブルを描いている。確かにロック好きがにやりとしそうな小ネタも搭載しつつ、結局の所リーマンの姿を描いているのではないだろうか。金か、理想か。たぶん、これを読めばきゅっと胸にくるのではと思う。

 
  北山 玲子
  評価:B
   男の引き際。
 なんだか文字にするとものすごく演歌っぽいなあ。ロックを愛した男たちをテーマにした小説には似つかわしくない言葉だけれど、エンターテイメント色の強いこの小説を読み終えたとき何故か、そんなことを考えてしまった。一時代築いたレコード会社経営責任者・ドゴールとその後釜を狙う社長・ブース。この2人の音楽人生の結末が対照的で物悲しいのだ。そして30代に突入したばかりの年寄りでもなく若くもないという中途半端な位置にいるジムを中心に持ってきたことでせつなさややるせなさが更に強調される。大好きな音楽とビジネスの狭間で戸惑い、上司2人の行く末を見てちょっぴりこれからの人生を愁いちゃったりする。誰が主人公というわけではなく業界話もののよくあるパターンで、さまざまな人間が登場し、のし上がっていったり、失脚していったりと読者を飽きさせない展開。あまりにも典型的すぎる構成は今更という感じだけれど、登場する人物たちが一癖も二癖もあって楽しい。

 
  操上 恭子
  評価:C+
   ロックやポップスといった音楽が好きな人、好きだったことのある人なら誰でもこの本を楽しむことができるだろう。どの辺までが本当の話なのかはわからないが、確かにこの物語は音楽業界の裏話を題材にしているし、音楽的な雰囲気に満ちてはいる。あのヒット曲の背景にも、こんな話が隠されていたのかも知れない、と想像するのはなかなか楽しい。だが、実はこの小説は音楽小説ではなくて、音楽ビジネス小説なのである。かなりヤクザでキナ臭い特殊な業界が舞台ではあるが、それが必ずしも音楽業界である必然性はない。そして、小説としてはどちらかといえば読みにくい部類に入ると思う。視点がたびたびブレて安定しないからだ。主人公はジムでよかったんだよな、と途中で何度も確認したくなる。「神の視点」の失敗例といえるだろう。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   私も一応ロック・ファンのはしくれであるので、こんな小説を読むと心中複雑だ。美しい轟音は人生を賭けるに足ると思う一方で、こんな限られたマーケットにいい大人が必死で群がるなんて狂ってるとも思う。さらには、後書きで訳者が思い入れたっぷりに書いているように、「衰退を余儀なくされているロックに対する愛と郷愁に満ちている」という評も、わからんでもなく、ますます混乱。A&Rとは、レコード会社所属のタレントスカウトのこと。これはシビアでシニカルな音楽業界小説で、もちろんハッピーエンドなんてのぞむべくもないし、結局の所、ロックなんてビジネスの産物にすぎないのかもしれない。愚か者しか出てこない。それでも愛しい。それでもロックは美しいのだ。

 
  山田 岳
  評価:B
   「自分は仕事をしているのではなく、ただたんにキャリアを積んでいるだけだ」ヒッピー世代のかかえている葛藤がアメリカでこの小説をベスト・セラーにした。でも、日本ではどうか?音楽雑誌「ロッキング・オン(RO)」にでも連載していればそれなりに読者がついたのだろうが、ROの読者は新潮文庫なんて読まないだろうし、ふつうの読書家は音楽業界の裏話には興味が湧かないだろう。という点では、不幸なめぐりあわせで出てしまった感がのこる。個人的にはすきな一冊(いや上下2巻)。解説はやっぱり渋谷陽一が書いてくれなきゃ。

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