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  左手首 左手首
  【新潮社】
  黒川博行
  本体 1,400円
  2002/3
  ISBN-4106026546
 

 
  石井 英和
  評価:E
   帯に「関西社会に炸裂する7つのノワ−ル」とあり、悪い予感はしたのだけれど、やっぱり・・・要するに関西に舞台を置いた犯罪諸事情のスケッチ、それだけのものだ。スト−リ−展開の妙味がある訳でもなし、暗黒社会を見つめる新しい視点があるでもなし、事象を深く掘り下げるでもなし、登場人物はことごとく類型的でうすっぺら。小説としての面白さは皆無である。「ノワ−ル」という概念はつまり、「あんまり面白い作品じゃないんですけど、逆にそこがいい、という受け止め方をしていただけませんかねえ」という小説を送り出す側の事情と「自分は最先端の小説を理解している、<出来る読み手>なのだ」との勲章が欲しい読者の見栄との、甘えたもたれかかり合いのハザマに湧いたボウフラのようなものと見当がついた。

 
  今井 義男
  評価:D
   短絡的なバカばかりが出てくる犯罪小説集である。全体に充満するこのいいようのないがさつさを演出しているのは、やはり<大阪>というロケーションだろう。いい加減な犯罪と土地柄がこんなにも調和してしまうのだから情けない。大阪弁には活字で再現できないニュアンスが多々あるが、チンピラの舌からそんな細やかな言語は発声されないのでご心配なく。すべて書かれたまんまの意味であり、心理を読み取る努力は不要だ。すなわち、ここにあるノワール仕様の大阪には、いま実際に寝起きしているわれわれの生活臭とか日常の風景は一切なく、横着な連中が右往左往するのみである。この町には《ニセ夜間金庫》とか《カーネル・サンダース拉致疑惑》といった類のない事件を生み出す土壌もある。次回作では是非そういう大阪を描いてもらいたい。

 
  唐木 幸子
  評価:A
   去年もこんな風に、読んだ後に、うわあ、これはかなわんなあ・・・と実に暗澹たる気分になった本、その中で描かれているような世界とは無縁でいる自分に安堵した、という新刊本があったっけ。そうだ、船戸与一の『新宿・夏の死』だ。あれはAにはしたものの、読んでいてジワジワと脂汗がにじむような読み心地の悪さだった。本書は舞台が大阪である分、どこかとぼけたおかしさがあって少し気が紛れる。しかし登場人物たちが交わす大阪弁のやり取りは、彼らが愚かな欲で自ら事件を引き起こして陥ちていく様を実にリアルに描写していく。私が愛読した週刊新潮の連載『黒い報告書』を更に裏まで書き尽くした感じだ。長い間、サラリーマンで普通(でもないけどな)の生活をしてきて、命を脅かされる危険といったら交通事故くらいの私も、すっかり犯罪者心理に引き込まれてしまった。

 
  阪本 直子
  評価:C
   短編集である。7つのノワール、と帯にある。更には「命を賭した丁々発止の化かし合い」「ギリギリの攻防」「一世一代の大博打」などとも書いてあって、おおこれはさぞかし手に汗握るサスペンスフルな……と身構えて読み始めたのですが。
 こらー、何が漆黒の裏社会だ。闇の紳士達、だなんて上等なものは一人も出てこないじゃないかよ。どいつもこいつもケチな小悪党で、金に困って切羽詰まって、つまりは生活苦から犯罪を思い立つ。しかし所詮は素人やチンピラ、ヤクザの裏をかくことも警察の目を逃れることも、はなっからできる筈がない。かくしてケチな犯罪のケチな顛末が繰り返されること7回。さながら新聞の社会面。ああっもう、貧乏臭いッ。
 嘘や装飾を廃してぶっきらぼうに描く。それが狙いなんだろうなとは判ります。でも週刊誌の実話読み物じゃないんだ。小説なんだからね。ヒリヒリする迫力が欲しい。ヘミングウェイの「殺し屋」のような。

 
  谷家 幸子
  評価:C
  関西の巷のシケたチンピラ達が、自分で掘った穴に転げ落ちる顛末の様々を描いた短編集。
しかし、これって「ノワール」なの?
もともと「ノワール」の定義がよくわかっていなかったんだけど、この作品を「ノワール」と呼ばれると、ますますわからなくなる。池上冬樹さま、教えてくださいまし。
帯の文言って、なんだかんだいってやっぱり真っ先に読んじゃうわけだけど、「喰うか、喰われるか!命を賭した丁々発止の化かし合い。…関西裏社会に炸裂する7つのノワール。」ってのは、ひさびさそそられるぞ!とか思ったら、ねえ。全然違うじゃん。丁々発止なんて、真逆にある言葉だと思う。「闇の紳士」なんかじゃない、真正チンピラくんのマヌケを眺めるお話としてはマル。

 
  中川 大一
  評価:B
   大傑作の入り口で突然幕が引かれたような、クライマックスだけを切り取って読まされたみたいな。そういう居心地の悪さを感じたのは、長編にすべきアイデアを短編に押し込んだせいかもしれない。映画の予告編じゃないんだから、もうちょっと分量をとってもらわないと。でも、一気読みの快作であることは確か。無駄に長い本が多い昨今、「もっと読みたい!」なんて結構な感想でしょう。個人的にうれしいのは、どれも関西を舞台にしてるってこと。なんて読みやすいんだろう。どの地名がどのあたりか、瞬時に地図が浮かんでくる。架空の地名でさえなんとなく検討がつくからおかしい。ところで、本書の装画は「黒川雅子」とある。この方こそ、あの傑作エッセイ集『よめはんの人類学』の主人公なのでしょうか?

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