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  秘密の花園 秘密の花園
  【マガジンハウス】
  三浦しをん
  本体 1,400円
  2002/3
  ISBN-4838713665
 

 
  石井 英和
  評価:E
   ありがちな思春期小説の基本理念、「アタシってば、こんなに繊細でカシコイのに、どうして世の中、無神経なアホばっかりなのかしら。あ−あ、ダルイわ」を踏襲した、まあ、それだけの作品と思う。このような作品は、幾編も幾編も、肥大した自意識を持て余した若者たちによって書き継がれて来た。そしてその作品群の99%が不毛に終わった。「秘密の花園」とはよくも名付けたもので、著者のピリピリと尖らせた自意識が誰にも傷つけられず「神」でいられる殻を作り上げ閉じ籠もり、お気に入りのアイテムを集め、「そうよね」「そうなのよね」と、共鳴という名の馴れ合いを求める人達をお招きして楽しんでいただく、それがこの作品世界の本質だ。今回の主なる使用アイテムは「カトリック系女子高」と、定番の「セックス」あたりだろうが、まあ、勝手にやってください。

 
  今井 義男
  評価:AAA
   モビールのように、安定と不安定のはざまで揺れ動く三人の少女の主観による三つの物語。ただし、われわれが目にするのは、どこにでもいる少女の平生ではない。折りに触れ忍び寄る凄愴な心象風景に、自我を侵蝕されながら懸命に踏みとどまる那由多。デュオニソスに、ひとつだけ望みをかなえてやると言われれば、あとさきも考えず返答しかねない淑子。研ぎ澄まされた思惟でトライアングルの重心近くに位置する翠もまた、不可思議な幻想を心の内に飼う。那由多の変化に、淑子と翠が露わにする距離感。淑子の失踪に那由多と翠が垣間見せる温度差。この危ういぶれが生み出す息苦しい位相の前では、思春期への腑抜けた郷愁などひとたまりもない。那由多と淑子の投じた影に独り歩み寄る翠。その冷ややかな眼差しに潜む、男女とは別種の<少女>が、怖いほど美しい燐光を放つ。

 
  唐木 幸子
  評価:C
   自分よりも20歳も若い女性が書くものを読むようになったんだなあ、私も。しかも舞台は、お嬢様系カトリック女子高校だ。主人公の3人組の同級生の一人は転校生、もう一人はお金持ち、あとの一人は優等生。おいっ!と言いたいこの類型。ああ、私が小説に求めるものは得られないと最初から明確なのだ。そうだ、『月魚』だってそうだったじゃないか、漫画だと思えば面白いのだ。と思って読み始めて、半ばその予想は当たったのだが、そう気楽には読み終えられないものもあった。これでストーリーが完結したと言えるのか。漫画ならほぼ確実に得られる大団円というものがない。この3人は一体、これからどうなるんだ。そこが文学的だと言われればそうかも知れないが、解決部分を切り取ったような終わり方には、疑問という余韻が残る。でも若い人にはきっと人気のある作家なんだろう。週刊誌で連載が始まったエッセイには、素直で謙虚で若々しい、という著者の特長と力量を強く感じている次第だ。

 
  阪本 直子
  評価:B
   若い女性作家が描く若い女性の話、しかも版元はマガジンハウス。とくればどうしても先入観を持ってしまう。あー、又ぞろぬるーいレンアイとユウジョウとジブンサガシの繰り言か……と思ったのは浅はかに過ぎました。これは、良いです。しかし帯の文句はどうかなー。“カトリック系女子高校に通う17歳たち3人の「秘めごと」のゆくえ。”ってねえ……このタイトルでこういうコピーをつけたら、早合点するスケベな人が続出するでしょうが! 断っておきますが、全ッ然そういう話じゃないからね。あとがきで作者自身も書いてますが、吉田秋生の『櫻の園』の世界です。しかも二番煎じじゃないのだよ。よりハードになった2002年バージョンです。すっくりと立った3人の少女。那由多と淑子と翠は、どんな顔、どんな声をしているんだろう。映画とか、FMのラジオドラマとか、それこそ少女マンガとか、活字以外の形に翻訳された姿も見てみたくなる。そんな小説です。

 
  中川 大一
  評価:C
   自意識過剰な少女たち三人が繰り広げる中編三本。青春真っ盛りの多感な読者にはいいんじゃないでしょうか。友だちは自分のことをどう思っているのか。自分は友だちのことをどう思っているのか。自分は自分のことをどう思っているのか。友だちは友だちのことをどう思っているのか。ああもう、乙女よ、君たちって、そういうことにしか興味ないのかね。たまには新聞でも読んだらどうかね。作者が触発された作品として挙げている『櫻の園』って、吉田秋生だっけ? あのマンガは私も面白く読んだんだけどなあ。もう年なのかなあ。だいたい君たちねえ、世界情勢について知っとるのかね。パレスチナでは自爆テロが、それに対してイスラエルの保守勢力……もがもがもが(主人公たちに口をふさがれた)

 
  仲田 卓央
  評価:C
   この作品の登場する17歳の少女には、リアリティーがあるのだろうか。作家は17歳の少女をきちんと描けているのだろうか。作家自身がいうところの「記号でも消費物でもない誇り高い生き物である少女」とは、こういうものなのだろうか。私も17歳の高校生だったことはあるが、女子高生、それもカトリック系女子高校に通う17歳だったことがないのではっきり言って、良くわからん。なんか変だなとは思うのだが、私が間違ってるのかも知れん。したがって、この小説を読んで「なんかあ、感動しちゃいました!」と共感する人がいても、ああ、そういうもんかい、と思うし、反対に「なんじゃこりゃ、つまらんのう」という人がいても、」ぜーんぜんおかしくないと思う。ただ、知らない人にも分かるように書くのが小説つうもんじゃないんだろうか、と思わないでもないし、「感動しちゃいました」タイプの人とは話が合わないような気がしました、なんとなく。

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