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  龍時 龍時
  【文藝春秋】
  野沢尚
  本体 1,333円
  2002/4
  ISBN-4163208704
 

 
  石井 英和
  評価:C
   サッカ−・ファンにはテンション高い人が多く、なにかといえば熱く胸中にある理想の戦術を語り、「世界のサッカ−のレベルはなっ!」と天を仰いで悲憤慷慨してみせるのである。そのような人物の、「自分が才能あるサッカ−プレイヤ−として人生を生き直せたら」との夢想を文章化した、願望充足小説だ。偶然のチャンスを掴み、スペインにサッカ−留学する少年・・・スト−リ−は大体の予想がつく、というよりはこうしかなりようがない方向に展開してゆく。サッカ−を通した少年の成長小説の如き形になってはいるが、それは一応の体裁以上のものではなく、迫力あるとも、あからさまで照れ臭くなるとも言える試合シ−ンを中心とした、著者のサッカ−論の展開がすべて。小説の出来云々より、そこに共鳴できるか否かで作品への評価も変わってくるだろう。

 
  今井 義男
  評価:AA
   そもそも興味のない球技の筆頭がサッカーである。ワールド・カップの組み合わせどころか、選手の名前も知らない。しかも対ホンジュラス戦のせいで、三沢VS蝶野という世紀の一戦が生中継されなくなり腹も立っていた。その私がいったいなんの因果でサッカー小説を読まねばならないのか、とぼやきつつ読み始めたら、なんということだ。これが予想外の面白さで、たちまちやめられなくなった。一途な夢、切ない恋、旅立ち、焦燥、昂揚と青春必須アイテムの波状攻撃に、体中の関節を極められてしまって、あえなくタップである。燃えつきることを恐れず、愛する者を振り返りもしない、リュウジのファイティングスピリットは活字の隅々からビンビン伝わってくる。知識がなくても関心がなくても面白い小説は面白い。単純明快な読書の基本原則を再認識、ん? 何度再認識したら気が済むのだ私は。

 
  唐木 幸子
  評価:B
   そう言えば、サッカー小説ってこれまでに多くはなかった。そうだろうなあ、著者の表現力を以ってしても、サッカー試合の実況や理論的分析はあんまり面白くない。野球のような、投げたり打ったり守ったり、という動作のバリエーションに欠けるし、間合いに込められる駆け引きがない。文で書き表すよりも先にボールがどこかに蹴飛ばされてしまうし。Jリーグのサッカーとワールドサッカーを見ていて気が付く明らかな差、そう、【スピード】というサッカーの持ち味は文章にするのが難しいのだと思う。しかし本書のストーリーの方はなかなか面白かった。スペインにどうしても行きたいリュウジが、許さないという母を激高して蹴飛ばしてしまう。倒れた母を妹のミサキが助け起こし、『お兄ちゃんを、行かせてあげよ』と説得する場面は、ありきたりのシーンなのにちゃんとドラマになっていて心うたれる。終盤にも、父親を巡って、うまい!と喝采したくなる展開があるが、これは読んでのお楽しみだ。

 
  阪本 直子
  評価:D
   小説の体裁をしてはいる。が、これは小説ではない。少なくとも、小説を読む人間に読ませるための小説ではないよ。
 主人公が、どういうタイプの選手であるかは書いてある。家庭環境も、名前の由来も、初恋の経緯まで。でもそれは文字だけだ。生身の彼が頁から立ち上がっては来ないんだよ。この主人公は本当に、一流のサッカー選手となることだけを切望している16歳の少年なのか? 違うだろう。40歳を過ぎた大人である作者が、自分の言いたいことを彼に仮託して言わせるために作った、名前だけの存在でしかない。彼だけじゃない。スペインの街についてもスペインのサッカーについても、どれもこれも予備知識が相当ある人でなければチンプンカンプンでしかないだろう。知識のない読者でも、首根っこを捕まえてとにかく最後まで読ませてしまう、イメージの喚起力。それが致命的に欠けている。
 掲載誌がスポーツ雑誌だったこと。作者はそれに甘えてはいないか。

 
  谷家 幸子
  評価:B-
  サッカーが嫌いなわけではない。しかし、ワールドカップを前にして、現在の日本中に蔓延しているいわゆる「サッカー的なもの」、中でも大部分を占める「サポーター的なもの」には違和感が強い。幸運なことに、周囲には「サッカー好き」はいても「サポーター」(ここは、ナンシー関の絶妙な命名「バカサ」=バカサポーターをとりたい。)はいないけど。
そういう心理的ベースがあるもんで、「本格サッカー小説誕生!」などと力まれても、いまいち乗れなかった。サッカーのルールって門外漢にはホントわかりにくいし、読んでもわけがわからないんじゃないか?とも思った。
しかし、その点はそんなに心配することもなくて、試合のシーンは結構楽しめた。このあたりは脚本家ならではのサービス精神(のようなもの)が功を奏している感じだ。だけど、少年の成長物語の部分がちょい浪花節。これは、「テレビ屋」の悪癖か?

 
  仲田 卓央
  評価:B
   まず、サッカーに興味のない人にとってはまったく面白くないだろう。『サイドチェンジ』がどういう状況を指すのか、『球をはたく』というのがどういう行為なのかわからない、という人にはお勧めしない。そしてサッカーに詳しい人にとっては、もっと面白くないだろう。サッカーは自分でやったほうが確実に面白いし、どんな凡戦であっても文字で読むよりは観戦したほうが興奮するだろうから。と、ケチをつけるのは、まあ私の仕事のようなもの。この作品、そうはいってみたもののなかなかに読ませる。試合の描写も「頭でスポーツを観る」向きにはもってこいの理屈っぽさで、スポーツ専門誌の解説を読んでいるようないじけた興奮にあふれているのである。17歳のリュウジがいかにも「大人が考える若者」という風情であることを除けば、なかなか良い。ところでルイス・フィーゴは「フィーゴ」と呼び捨てにされているのに、廣山望はなぜ「廣山選手」なのか。「稲垣メンバー」みたいで、キモチ悪いぞ。

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