年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     
今月のランキングへ
今月の課題図書へ

商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
 
  愛なんか 愛なんか
  【幻冬舎文庫】
  唯川恵
  本体 495円
  2002/4
  ISBN-4344402367
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
   愛がなくても生きていける、かもしれない。けれど、愛することや愛されることを経験すると、愛がないことの寂しさを知り、一人を独りだと感じるようになる。
 相互の愛情の割合は、どちらかが重くなったり軽くなったりの繰り返しで、いつだって天秤みたいに揺れているものだけど、傾いたままの状態になったときが、どちらか一方が終わったらThe end.なのだ。
 生きていくことは、ひとつひとつ決断をしていくことだ。過去に鍵をかけ、何を捨て、何を選んで、どう生きるのか。一人でさっそうを歩いていくことを決めるものもいれば、けものみちのような深い迷路に進んでいった人もいる。ありふれた環境の中で暮らす女たちがする恋を描いた作品だが、どこか生々しく感じるのは、その心情が強く浮き彫りにされているからだろう。

 
  内山 沙貴
  評価:C
   吹き溜まりでくるくる回る枯れ葉のように、情ともつれの因果は巡る。着飾った自分の本当の姿を最後まで見ることができなかった、前に進むことしか知らないロシアンブルー。愚かで美しい女性たちとの一時を、薄暗いカウンタの向こうから年齢不詳のバーテンダーが心地良い声で聴かせてくれる。自分の知らない場所でされた話の内容についていけないところも少なくなかったが、清潔さを感じさせる文体は好感が持てる。スピーディな話の展開、恐ろしいくらい大きな感情の海、随所に散りばめられた見知らぬ素敵な言い回し。さらさらと網目を落ちる砂のようにどんどん消化されてゆくのがわかる話で、読んでいて気持ちが良かった。

 
  大場 義行
  評価:C
   別れたり、すれ違ったり。それでもなお強く生きる女性たちを描いた、版元によれば「ビターな」恋愛短編集。だそうだ。確かに、ビターなのかな。中でも、ごっついさよならをいう為に奮闘する女性を描いた「世にも優しい、さよなら」は「ビター」なラストで頬が緩む。元々短編小説は一発芸に近いと思っているので、バリバリのキャリアウーマンがふと立ち止まる「長い旅」や、恋愛観に違いのある二人の女性が口論する「恋愛勘定」なども捻られていて、面白かった。しかし、やはりというか一発芸であるがゆえに、読み終えた瞬間に全てが消えてなくなってしまう気がする。

 
  北山 玲子
  評価:B
   これはホラーか?と思うほど、じわじわと怖い恋愛短編集だ。女性の心のブラックホールを恐る恐る覗き込む。いちど足を踏み入れたが最後、どろどろと深みにはまる。先にほんの少しの光も見えず、出口も見つからず。怖い、自分はこんなふうにはなりたくない、いや、なってはいないはずと思いつつも『偏愛』のOLの気持ちがよくわかる。『幸福の向こう側』で主人公がパーティーで出会った男性に対してひとこと言いたくなる気持ちもわかる。…なーんだ自分もやっぱり同じじゃん、と妙に納得。いちばん好きなのは『悪女のごとく』。この1篇だけはすこーん!と突き抜けていて気持ちがいい。女性の繊細さと大胆さ、弱さとしたたかさ、背中あわせの心理を淡々と語る。この淡々とした感じがいいのだ。ただまあ所詮、映画『シェルブールの雨傘』を観て、これってコメディじゃんと言い放ち「ガキね!」と窘められたことのある私、‘愛なんか,語る資格はないのかも。

 
  操上 恭子
  評価:C
   いつも佐藤正午をけなしている私に、この作品をほめる資格はないのかもしれない。佐藤正午の作品が「男の身勝手」を描いた物なら、この『愛なんか』は「女の身勝手」そのものだから。それは、私もやっぱり女だからということなのかもしれない。だからといって、この本におさめられた短編のどれかに、特に共感したとか感動したということではない。私は、恋愛にはかなり疎い方だし、恋愛小説も苦手なのだ。ただ、たまにはこんな風に女の側の視点だけから描いた、我がままな恋愛小説があってもいいかな、とは思う。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   こういうのを読むと、改めてわからなくなる。これって恋愛小説なの?そもそも、恋愛って何だったっけ?共感を誘う話がおもしろいというわけでなく、共感を拒む話が退屈だというわけでもないのが不思議な12の短編集だ。巻頭の『夜が傷つける』と巻末の『ただ狂おしく』が、合わせ鏡のように見えてしまった。深くカラダにおりていく感じ。それだけで必要十分なただのカラダに返っていく感じ。いざというとき頭より心より信じられる、この体というものについて。同じことを語りながら、こんなにも離れている。その距離感が何より印象的だった。しかしこの短編集、私が好きな彼、ではなく、彼のことを好きな私、が肥大していくのがいずれも悲しいのだよね。

 
  山田 岳
  評価:A
  「セックスはふたりでするものだが、快感は私だけのものだ」恋愛幻想を打ち砕く言葉。
「陽次にさえ愛されれば、世の中のすべての人間に憎まれても構わなかった」
「彼を待つ。彼を見つめる。(略)それだけが私の愛の在り方だ」
一見しおらしく、それでいて自己中な恋愛。<自我をもった現代人はけっして他人を愛することができない>D.H.ロレンスの言葉が思い出される。若い頃は天才ジャズ・ピアニストともてはやされながら、いつのまにか子ども相手のピアノ教師に堕落した男とは、以前はコバルト文庫できらきら輝いていたのに、いつのまにか大人相手に毒のある小説を書くようになった著者自身の裏返しではないだろうか。

戻る