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  ルール ルール
  【集英社】
  古処誠二
  本体 1,600円
  2002/4
  ISBN-4087753069
 

 
  石井 英和
  評価:D
   大都会の暗部で抗争を続けるヤクザや外国人マフィア。そして密命を受け、そのただなかに潜入する捜査官。そのような物語を書き上げるためにアクション小説の書き手が脳内に構築している執筆システムが目に見えるようだ。これは、そのシステムをそのまま起動して書き上げた戦争小説なのだろう。飢えに苦しみつつ敗走する日本兵の姿は、兵士というよりはむしろ組織を裏切り追われる身となった、八方塞がりのヤクザを思わせる。兵士たちの口走る台詞は、南の密林よりは夜の大都会のほうが似合いの「ハ−ドボイルドだどっ!」なもの。戦場でこんな思念が生じるとは思えず。また、執拗に描写される「地獄の戦場」も、どこかスカスカとして書き割りめいている。やはり「戦場のリアリティ」を生み出すには、アクション小説とは別の方法論が必要ということだろう。

 
  今井 義男
  評価:A
   このような作品は時期など関係なく、いつなんどきでも書き継がれなければならない。誰も顧みなくなってからでは遅いのである。大日本帝国の突き進んだ道は、PLOやIRAの辿った道とは根本的に違う。腐りきった軍部のための戦争であり、杜撰きわまりない大義名分が駆り立てた戦争である。作中、米将校のオースティンが日本兵の行動に対して繰り返し疑問を抱くが、当然だ。当事者がなんの展望もなく戦っていたのだから。極限でさらけだす生への執着は悲惨を通り越して無残である。欧米人は横井伍長や小野田少尉が生還したとき、ますます違和感を募らせたはずだ。神国のルールは彼らにとって理解の埒外なのである。

 
  唐木 幸子
  評価:A
   読み始めて直ぐに頭の中に光が灯る、そんな感じだった。数々のドンパチ型戦争映画を観てきた米国人が【プラトーン】に初めて本物の戦慄を覚えたのと、私が本書に感じた印象とは似ているのではないか。戦争末期のフィリピンを敗走する日本軍が描かれているのだが、その救いようのない飢餓と絶望の状況がまるでガラス越しに見えるように描かれる。「火にあぶられるスルメのように身悶える」というマラリアに罹った兵隊の描写からは、漏らすうわ言が聞こえそうで、読み飛ばせない表現が満載だ。その極限状態の集団心理をかろうじて繋いでいる最後のルールとは・・・? 結構、重いテーマなのだ。著者はもしかして、『少年達の密室』を書いたときはブリッ子してたのか。各階級の将校や下級兵、捕虜になったアメリカ人パイロットなど、出てくる登場人物の全てに意味があり、不要な誇張や繰り返しがないということはこんなにも素晴らしいことなのだ、と『ハルビン・カフェ』に疲れきった私を癒してくれたのだった。

 
  阪本 直子
  評価:C
   まずいことが一つあった。今回の課題本を知らされたのは、「本の雑誌」6月号を読んだ後。池上冬樹氏がこの本を酷評してるのを、もう読んでしまっていたんである。今更忘れることもできないが、だからって「未読」で逃げるのか。ままよ。
 で、読みました。……成程ね。
 先入観は皆無だと言い切る自信などないが、池上評には確かに頷けます。丁寧に書き込んであるし、山程の参考文献が列挙されている。しかしこれだけの“勉強”をしても尚、この文章には温度がない。今この場面でこの人物達は、暑いのか、それとも寒いのか? そんなことすら伝わらない。そして、彼等の会話にも違和感がある。五十数年前、日本軍内部での会話とはどうしても思えない。
 そもそも、この小説は一体何なのだろう。軍隊オタクや戦争マニアの為のものでもあるまい。大西巨人や梅崎春生の作品とは、そもそも比べること自体が間違いだし、それは勿論判ってはいるのですが……。

 
  仲田 卓央
  評価:B
   この作品を読んで、「人を人たらしめるルールとは何か」について考えられる人は幸いである。私は「人を人たらしめるルール」について考える前に、描写のすさまじさにぐったりきてしまいました。このインパクトはプロレタリア映画であると同時に、超残酷拷問グロ映画であった「小林多喜二」の衝撃に近い。まず、血とか臭いとか蛆といった生理的なショックが先に来る。そのため私のように気の弱い人間は表面のグロテスク描写だけ充分にびびってしまい、そのために思考が次のステップに進まないのである。というわけで、残酷描写が苦手な方、気の弱い方には本書はお勧めできません。逆に言うと、そのあたりを乗り越えてこそはじめて「人間とはなにか」について考える資格を与えられるのかもしれず、これは読み手に人間としての成熟を求める物語なのかも知れない。

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