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  チグリスとユーフラテス チグリスとユーフラテス
  【集英社文庫】
  新井素子
  (上)本体 686円
  (下)本体 571円
  2002/5
  ISBN-4087474402
  ISBN-4087474410
 

 
  石崎 由里子
  評価:C
   コールド・スリープから目覚めたルナ。設定は、近未来。
 でも、描かれているテーマは、少子化や、仕事、人との繋がり、生きていくことなど、現在問題になっていることばかり。近未来も、今も、かつても、人が生きて、生活している限り、浮上する問題にさほどの変化はない、ということなのかもしれない。それにしても、登場人物の間で交わされる話しことばが、誰が話していても、皆同じような人物に感じられて、誰の話だっけ?と混乱してしまった。
 このお話が少女漫画だったら、また違ったファン層がいるのではないかと思いますが、ルナの「顔」を描くのはむつかしそうです。
 好き嫌いのはっきりする小説なのでしょうないでしょうか。

 
  北山 玲子
  評価:D
   えっと、高校の時初めて読んだ『あたしの中の…』から20年近く経つんですけど、久しぶりに読んだら相変わらず同じような文体なので微かに驚愕。実はものすごーくニガテなのです、この新井素子文体が。でも読んじゃったので評価させていただきます。SFのコーティングを施した女性読本的な小説でした。小説?なのかな。なんだか著者がまるまる出てしまったみたいな内容だったけど。つまり、著者の言いたかったこと(女性としての生き方、仕事、妊娠など)を登場する女性達に語らせているといった感じ。まあ、そういうのもありだとは思うけど、逆年代史という設定をもっと生かした物語ならよかったのに。それにSF音痴なので間違った受け止め方をしているかもしれないけど、このテーマってもうそろそろ手垢が付き過ぎているんじゃないでしょうか。10代で読んでいたらまた違った印象を受けるのたのかなぁ。ごめん、この年でこの小説は読むのはちょっとキツかった。

 
  操上 恭子
  評価:A-
   のっけからハマってしまった。普通、長編小説を読む時は最初の数十ページから百ペ ージくらいは様子見というか、どんな内容かわかるまで我慢して読むことが多い。S Fやファンタジーは特にそうだ。ところが本書の場合、最初の5ページでいきなり夢 中になってしまった。その後は、まったく先の予想がつかない展開で、「ああ、そう なるのか」「なるほど、そう来たか」の連続だった。テーマは「最後の子供」という SF的にはよくある怪談だが、その最後の子供を老女にしたアイディアはさすがだ。 これが本当の子供だったら、お話にはなっていなかっただろう。移民惑星が発展し衰 退していった過程も、最後の子供が生まれてしまったわけも、きちんと説明されてい て、SFにありがちな破綻がほどんどない。唯一の疑問は、何故ルナ一人がこんなに 長命なのかということだが、そこはまあ、目をつぶることにしよう。ただ、「幼女の 格好をした老女」というのが、具体的にどのような感じなのか想像できなくて困っ た。老女に知り合いはいないのだ。

 
  佐久間 素子
  評価:A
   このお話は、いってみれば「逆さ惑星年代記」。移民星ナインの「最後の子供」ルナに、無理矢理コールド・スリープを解かれた4人が、当時を語るって構成になってます。ルナの存在に罪悪感を感じた4人、ナインを滅びに向かって進めてしまった自分の人生をどう定義するか、ルナに対してどう責任をとるか、えんえん、説得するはめに陥るわけです。ルナと、自分に向けて。そんなわけで、このお話のテーマは、滅び、なのですが、それって、なぜ滅びたか、とか、どうやって滅びたか、とかじゃないんだよね。滅びてしまうのに、あたしは何のために生きてるの? ここに、書かれてるのは、そういうこと。答えは詭弁だけどかまわない。いや、詭弁だからすごい。何となれば。気持ちの襞を、言葉で緻密に緻密にうめていく。そこに現れたものが真実じゃないって、誰が証明できる?(これってちょっと、京極夏彦の書き方に似て・・・ないか)。だまされたと思って、説得されてみてほしい。それにしても。っとに、かわらないよなー、新井素子。何がって、この文体!というわけで、稚拙な真似ですね。ごめんなさい。

 
  山田 岳
  評価:C
   新井素子に恨みはないけど、生理的にだめなんです、この文体。女子高生メルヘン調。滅び行く植民惑星で最後に生まれた子どもは<神>となる、という着想自体はなかなかおもしろいのですけど(^-^;)

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