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  第四の扉 第四の扉
  【早川書房】
  ポール・アルテ
  本体 1,100円
  2002/5
  ISBN-4150017166
 

 
  石井 英和
  評価:C
   ハヤカワポケミスというよりは、なんだかジュブナイルを読んでいるような感覚があった。学校の図書館の隅に見つけた「少年少女のためのミステリ−全集」の一冊とか、その類を手に取ったような。降霊術などというあやうい代物を絡ませた、ミステリ世界の内部のみでしか通用しない「パズル作り」に終始するスト−リ−ゆえだろうか。登場する人々にも奥深い性格付けが見受けられず、実に簡単に泣き、笑い、驚きしてみせて、まるで人形劇の人形たちを見るようだ。この奇妙に現実から離反した感触。「自分は本格派の最後の砦なのであり、ノワ−ルやらサスペンス小説やらへのアンチの立場を取る」と標榜している著者であるようだが、この様子ではそちらの方向もまた別の意味で病んでいて、それが今日のミステリの世界の相貌なのかな、と感じた。

 
  今井 義男
  評価:C
   かつて、寝る間も惜しんで読みふけったミステリを、近頃あまり読みたいと思わない。理由は簡単。探偵や死体が……もういいか。しかし、いまどき<初めに不可能犯罪ありき>で張り切られてもなあ。N大の犀川助教授が常々指摘しているように、犯行現場を密室にする必然性なんてほとんどないのである。たまたま本書の旧態依然としたつくりには、ある仕掛けがあって、その点はクリアされているものの、動機は単純、プロットは強引、肝心要の密室トリックは、うーんやっぱり古くさい。後日談もなんだか取って付けたようでそれほどのインパクトはなかった。作者は熱狂的なカーの信奉者だそうだが、ポケミスも創元推理文庫もないフランスではきっと選択肢も狭かったのだろう。

 
  唐木 幸子
  評価:C
   思い出したなあ、小学生の頃読んだ江戸川乱歩やコナン・ドイルを。同じ乱歩でも、少年探偵ものの『怪人二十面相』、『黄金豹』に『虎の牙』とかそういうの。(昭和20年代に出た光文社の全集、今でも持ってるもんね、奥付けも付いている。あ、喜国雅彦さんに聞かれたらどうしょう。全巻揃ってないしボロボロですからね) あの頃はわくわくして覚えるほど読んだが、今思うと何となくトリックがばかばかしいのだ。紅茶に混ぜた睡眠薬を飲まされてかどわかされるはずの文代さんが、実は手に持ったハンカチに全部吸わせていて、明智小五郎が種明かしに『文代のポケットを見てごらん、グチャグチャになったハンカチがはいっているはずだ』とか言う。当時は名作だと思った『妖怪博士』でも、スマートなはずの二十面相が洞窟でこうもりの着ぐるみ着て走り回ったりして、よく考えてみたら笑える。それらの感じに似ているのだ、本書の本格ミステリぶりは。密室殺人を始めとする多くの謎解きが、子供が真顔で言う嘘みたいに無邪気だが、いいのか、これで。これをわくわくして読めたら最高に面白いのだろうが、S.キングやディーヴァーにぞっこんの私は、もう奇術がらみのミステリを息弾ませて読むことは出来なかった。

 
  阪本 直子
  評価:C
   第2次世界大戦から数年後、イギリスはオックスフォード郊外。という設定で始まるこのミステリは、しかし作者はフランス人で原書刊行は1987年である。はて? しかしまあ、考えてみれば日本にも、わざわざ「パラレル英国」なんて設定をしたシリーズも存在することだし……などと思いつつ読んでいったらば。なーるほどねえ、そうきたか。この作家、日本流にいえば「新本格」ってことになるでしょう。ミステリ好きによるミステリ好きの為のミステリ。ニヤリとさせてくれるサービス満載です。
 と、決して印象は悪くないんだけれど、評価は「頑張ったで賞」が精々だなあ。本家を超えたフランスのディクスン・カーってのは、何ぼ何でも褒め過ぎでしょう。フランスのミステリ界はノワールやサスペンス主流で本格は僅かとのことですが、日本はそうじゃありませんからね。怪奇密室殺人なら、もっとそれらしい雰囲気がなくっちゃ。

 
  谷家 幸子
  評価:B
   好きなジャンルは何ですかと聞かれればミステリーと答える。しかし、言っちゃなんだが読んでいて先に犯人がわかったことなどほとんどない。自慢じゃないが、謎解きをされてさえわからないことだってある。私には、理詰めで物を考える血が流れていないに違いない。それなのにミステリー好きっていうのも何だかよくわからないが。まあ私にとっては、謎そのものよりもその周辺にあるもろもろの方が興味深いってことか。
というわけで、一応ミステリー好きではあるのだが、「本格」と呼ばれるこの種の密室殺人ものなんかは、どちらかというとそんなに積極的に手に取るわけではなかった。謎だけが肥大して、人物が全く見えてこないつまんないオハナシだったらちょっとね、という偏見からなかなか逃れられなかったから。特に、翻訳物に対してその傾向が強かった。
ところが、である。これはやられました。私の陳腐な偏見なんてまるごとうっちゃり。なんかアホみたいな女しか出て来ないなー、これだからなー、なんて思ってたらまさにそれこそがキモだったんだもの。ちょっと笑ってしまった。

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