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  闇に消えた女  闇に消えた女
  【講談社文庫】
  コリン・ハリソン
  本体 1086円
  2002/6
  ISBN-4062734729
 

 
  内山 沙貴
  評価:C
   この本からイメージするのは汚れた打ち放しのコンクリートの壁と、死んだ目がさまよう社会人、捻くれた活力が注がれる特化した異常な情報社会。つまらない目的に成就しない人生、たとえ仕事で成功していようとも。なんとも悲しい世情だろうか。物より簡単に捨てられた人々の山に、破れて、擦れて、穴ができて、目を背けたくなる光景。誓いや祈りは蒸発し、馬鹿げたルールの中で生きる。しかし本書にはそんな暗いイメージも消し去る軽快さと正直さがあり、淡々と進み、読者を織り込み、レールに乗せてスイスイ走らす。大きな仕掛けはないけれど、小さな花火で少しずつ驚かし、引き込む。アメリカの社会に対する真っ直ぐな視線と、語りたいという心情の、押し付けがましくないコントラスト。実のない世界を描いた、実のあるようなないような小説であった。

 
  大場 義行
  評価:A
   物語に引きずり込まれて、前のめりになった所を背後から一撃。そんな本だった。凄まじいラストでした。こんなにインパクトがあるラストは久しぶり。後頭部直撃といっても過言ではない。トップビジネスマンたちのしのぎを削る争い、これがまず罠。利用できるものはとことん利用する女、凄腕で冷酷な上司、追いつめられる会長、そして微妙なバランスをとらされている主人公。大企業のトップたちの凄まじい戦いぶりはそれはもう面白いとしかいいようがない。その合間に主人公と街で偶然知り合う女(子どもつき)との関係が絡まっていく。最初はどう絡むのか判らなかったのだが、ラストには見事に結びつき、凄まじいラストを迎えるわけだ。ほんと、このラスト読んでもらいたいなあ。

 
  北山 玲子
  評価:B
   惚れた女にこれだけ尽くしたら後悔なんてないだろう。「俺、よくやったよ」と大声で自慢しろ、とジャックには言ってやりたい。これだけ型通りに転落していったら逆に清々しいぞ。物凄い喪失感の底に何故か満足感の残る物語だ。話は、女で人生変わっちゃいました系のよくあるパターンだが、妻を失った空洞を、夫から逃げている女性を救うことで埋めようとする男の哀しさがじわじわと伝わってくる渋いストーリー。ヒロイン・ドロレスが、世話になっているくせにいろいろと文句の多い女でムカついたが、まあそれは好みの問題なのでどうでもいいことだ。何よりもジャックの語り口が他人事のように淡々としていて魅力的。映画『蜘蛛女』のゲイリー・オールドマンのモノローグを彷彿とさせるものがあった。

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