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  幸福と報復  幸福と報復
  【新潮文庫】
  ダグラス・ケネディ
  (上)本体 857円
  (下)本体 819円
  2002/7
  ISBN-4102138137
  ISBN-4102138145
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
   己の道を行くサラやドロシー、翻弄されるジャックやケイト。どこで触れ合い、欠片が飛ぶのか。そして誰もが運命という幻想を上の方から眺めようとしていた。話は過去を経てたくさんの人の側面を描き、人は結局誰からも、自分自身でさえも理解し得ないものだと気づく。物語は長い時の間の一つ一つの出来事をかき集めて、壮大でも優雅でもない、でも平凡でもない、世界にひとつの結末へと辿り着く。壮大なオレンジで構えた大きな夕日。誰にも看取られずに街の下へと沈んでゆく。後ろを振り返ることもせず人々は歩き佇まず、ただ一時の瞬間は誰にも気づかれることがないままにゆっくりと過ぎていった。世界の運命に翻弄され続けた人生の終着点、ふとそんな言葉が浮かぶ、落ち着いた物語だった。

 
  北山 玲子
  評価:C
   下巻の半分辺りまでは昼メロみたいなゆるゆるの恋愛もので読むの辛かった。でも、主人公サラの兄・エリックが赤狩りの標的にされる辺りから物語がどんどん動き出す。究極の選択を迫られ、結局は名前を挙げることを拒否したエリック。勇気ある行動は報われることなく彼は何もかもを無くしてしまう。転落していく人間を描き続けてきた著者の作品の中でも今回は特に重みのあるテーマだった。人に対する憎しみや怒り、それを許すという行為の難しさを描く。サラとジャック、サラとエリック、ジャックとドロシー、それぞれが過酷な運命にどうにも抗えないくやしさと共に時代に呑みこまれていく。著者のこれまでの雰囲気とはひと味ちがう作品だが、母を亡くしてすぐの娘に父親との不倫話を伝ようとするサラという女性は身勝手過ぎやしないか?

 
  山田 岳
  評価:A
   「仕事くれ。」の著者が、なんと! スコット・フィッツジェラルドばりの恋愛小説を書くなんて! 哀しくもいとおしいストーリー/文体とはこのようなものを言う。世界大戦(1次と2次の違いはあれ)後のこころの荒廃が影を落としているのも共通点。現代に悲恋は成立しないのね。

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