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  【角川書店】
  乙一
  本体 1,500円
  2002/7
  ISBN-4048733907
 

 
  石井 英和
  評価:A
   以前から愛読していた乙一だったので、これが初の単行本と知り、意外な気がした。とはいえその内容が「渾身の長編力作」などではなく、死との遊戯に取りつかれてしまった少年と少女を中心にした連作短編集であるあたり、なかなか乙一らしい気の抜けよう(?)であり、逆に痛快な気もする。「あとがき」で著者自身が述べているように結構行き当たりばったりで成立した連作である。が、それが結果として乙一の内的世界の自己検証としての地獄巡りとなり、興味深い結果が出ている。また、いつもの乙一の「現風景としての死体」の冷たい手触りと、生命体としての反応を失い一個のモノと化してしまうことへの恐怖と憧憬がないまぜとなって喚起される冥い祝祭の雰囲気が各編に通底しているので、散漫にもなっておらず、むしろ恐怖のバラエティを楽しむことが出来た。

 
  今井 義男
  評価:AAA
   狂った概念をモチーフにした小説はそれこそ掃いて捨てるほどあるが、そうかまだこんな手が残っていたか。これは困った。また昔の自分に戻ってしまいそうだ。別に困ることはないが、ミステリの可能性には全く果てというものがない。それにこの作者、猟奇を描くには低温が適していることをよく分かっている。作家の体温が乗り移った思い入れたっぷりの文章など贅肉にすぎない。淡淡とした筆さばきと坦坦とした表現こそが、耽耽と牙を隠し持った作品を生む。あたかも彼がポケットに忍ばせるナイフのように。生涯熱に浮かされた乱歩が生きていたら、比類のない愛すべき<欠落>に歯噛みしたに違いない。風変わりな二人の若者を狂言回しにした叙述トリックの傑作でもある。ミステリ引力圏から脱出中の私をしばし立ち止まらせるだけの蠱惑がこの連作集にはある。才気とはこういう書き手に対して用いる言葉である。

 
  唐木 幸子
  評価:A
   今月は短編集が多かったが、それらを全て集めた中でも、本作の中の『犬』が最優秀賞獲得だ。50ページ程度の話だが、謎めいた少女と犬のコンビが殺戮を繰り返していく冒頭から切れ味抜群。推理やミステリーやホラーや哀愁などの複雑な味が効いていて結末には、ええーっという驚きが待っている。勿論、他の話も一作ごとに様々なタイプの異常殺人者が登場して、うーんとうなってしまう。手首を冷蔵庫に溜め込む【リストカット事件】、人を生きたまま埋めたい衝動にかられる【土】など、残酷なのは嫌いな私でも不思議さが勝ってどんどん読める。良いのか、こんなにありったけの手口を一冊の中に出してしまって・・・と思ったがどうやら心配は無さそうだ。あとがきを読むと若々しい著者は今、幅広いジャンルに挑戦しているらしいのだ。私はこの人の作品を読むのは初めてなので先入観は全くないのだが、才能が玉虫色に光り輝いているのを感じた。

 
  阪本 直子
  評価:A
   評判の作家なのは知っていた。が、未読。その評判がゲタ履いてる事例というのは往々にしてあるもので、いまいち手を出しかねていたんである。で、今回初めて読んだ訳ですが、おお、この人はほんとに結構やるぞ!
 しかしお薦めする前にまず断っておきますが、ものすっげー猟奇です。それも、最近ありがちな「被害者の復讐が何故許されないのか!」とか「これが戦争の実態だ!」とかの隠れ蓑をかぶった類いじゃない。正真正銘の猟奇犯罪。それを描く文章はひたすら静謐で、だからこそ本当に怖くなる。深淵をのぞきこむとき、その深淵もこちらを見つめているのだ……! ここまで怖くて、しかもしっかりミステリである。ミスリーディングも万全、短編の醍醐味満載、連作としての構成も文句なしだ。巧い!
 三原ミツカズの漫画をご存じの方は、あの絵のタッチを思い浮かべてみて下さい。ヒロイン(でいいのかな)は特に、あんな感じです。

 
  谷家 幸子
  評価:B
   うーん。この手のミステリーを語るのは苦手だ。そんなこと言ったって語らなきゃならないんだけど、やっぱり苦手。なんだか、自分がくだらない常識に囚われてて、杓子定規な感覚しか持てないつまらない人間のような気がしてくる。要するに、この世界を咀嚼する力がまだ私にはないってことだ。
何故苦手なのかを、自分なりに考えてみた。私は、誤解を恐れずに言えば、作中の異常な犯罪者たちと作者が=(イコール)でつながっているように感じてしまっているのだと思う。あたかも、手記を読んでいるかのごとく。それに対して、どうしてもある種の恐怖感を覚えるため、息詰るような面白さを感じながらも、もやもやする嫌悪感も拭い去れないのではないか。手口の残酷さが問題なのではない。感覚の同化が問題なのだ。
だが、「こんなもの!」と切って捨てられないパワーは、確かにそこにある。判断は保留。

 
  中川 大一
  評価:B
   この作者の名前って、「乙」が姓で「一」が名? 「山田乙一」とか「乙山一彦」の省略形じゃなく?……負けた。私も、氏名の画数の少なさには自信もってたんだけどねぇ(失笑)。この人ならさぞかし速くサインが書けることでしょう(苦笑)。……閑話休題。オープニングはバラバラ殺人。それももう、思いっきりバラバラ。ところが不思議と恐怖感は湧かない。スプラッターじゃないからでしょう。また、グリム童話などの、ちょっと現実味を欠いた残虐性に通じるところがあるかも。一方、主人公たちにはまるで人間性が感じられない。それまた嫌悪感は湧かない。死への純粋な興味が凝り固まったような人物で、粘着質ではないからでしょう。ということで、全般にドライな感覚のホラーとしてさばさばと楽しめる。

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