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  天の夜曲 天の夜曲
  【新潮社】
  宮本輝
  本体 2,000円
  2002/6
  ISBN-4103325135
 

 
  石井 英和
  評価:D
   大河小説とオヤジの繰り言を差別化するものはなんだろう、などと言ったら叱られるんだろうか?力を込めて描かれた長大な物語だが、意味のある作業だったか疑問だ。割愛可能と思われる書き込みや無駄な繰り返しが相当に多く、いかにも冗長なのだ。物語の枝葉末節すべてまでもを詳細に書き記すのは意義がある筈だとの、著者自身の思い入れにすがり付きつつ書いているような印象を受ける。堅実に努力を積み上げて行けば必ず結果は得られる、そう信じて歩きはじめた道に踏み迷い、が、踏み迷った事実を認めたくないがために、ますます道の奥深くに歩を進める。今、著者はそのような状態にあるのではないか。そんな物語の間に各種の蘊蓄話や日本の来し方行く末を論じた部分が差し挟まれるのを読むのは、話好きのオヤジの脱線だらけの繰り言に延々付き合わされている気分なのだ。

 
  今井 義男
  評価:AA
   母子の話は比較的冷静に、他人事として読める。ところが父子となると事情が少しく異なり、俄然感情が昂ぶり体内にアドレナリンが漲る。私の素性のせいであって作品に責任はないが、生身の人間が読むのだから致し方ない。山師のような親を持ったが子どもの不幸の始まり、まさしく流転の名に相応しい家族小説であるが、彼らに変転を余儀なくさせるのは世間とのせめぎあいであって、夫婦・親子間にそれほどの葛藤がないことが救いだ。妻・房江も息子・伸仁も無理をしているし幸福な状態には程遠いが、これしきのことで悲愴感にかられていては生きていけない。むしろこの家族の正念場は成長した伸仁と熊吾(ルビぐらい振ってくれ)の対峙にある予感がする。山あり谷ありの人生を懐かしむのはオッサンの習性で、現役の子どもはそんなことしない。ふと我に返ると父親の目線で読む自分自身に気がつく。歳だこれは。

 
  唐木 幸子
  評価:B
   『流転の海』の第4部だということだが、第1部から私は全然、読んでいない。友人にそう言ったところ、「好きそうだけどねえ、あんた」とのこと。そうかと安心して読み始めたら、エピソードがそうとうに複雑で、考えたり想像したり、結構、時間がかかった。あとまだ2巻続くらしいから、次が出るまでに最初から読破しておかないとなあ。この第4部は大阪の闇市出身の松阪熊吾が妻子を連れて雪深い富山に向かうところから始まる。五木寛之の『青春の門』、伊集院静の『海峡』3部作など、長年にわたって書き継がれる小説は、主人公の少年時代の純真さ、真面目さに励まされることが多い。本シリーズの場合、主人公は成人の熊吾だが、やはり一人息子の小学生・信仁の屈託のない明るさに北陸が舞台の暗さ寒さが何かと救われるのだ。妻の房江の更年期障害の症状のくだりはちょっと読んでいて辟易するが、次巻ではもう軽快していますように。

 
  阪本 直子
  評価:C
   腕一本で事業を興し、度重なる挫折にも挫けない男。騙されても裏切られても憎みも恨みもせず、「わしは昔から人を見る目がない」と心から思う。学はないが教養がある。妻の更年期障害を気遣い、息子を溺愛する。通りすがりに幼女の病状に気付き、結果的に命の恩人となって感謝される。「頭が良すぎて気風も良すぎるわ。心根も優しすぎる」という、クラーク・ゲーブル似の59歳。
 こんな出来過ぎの主人公を、作者は大真面目に書いている。主人公一家の絆は小揺るぎもせず、欠点や愚行は全て脇役の受け持ちだ。まるで大企業の創業者か新興宗教の教祖様の伝記みたいである。何かというと“お言葉”はあるしさ。ちょっと喧嘩の仲裁をしても、9歳の息子とサイクリングをしても、説教と訓戒が出るわ出るわ。深ーい人生経験からなる有難くも滋味ある至言なのだ、子供を損う日教組の教師どもとは違うのだあ……。おお、アカ嫌いのアメリカ嫌い。いよいよ社長か教祖だわ。

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