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  それでも、警官は微笑う それでも、警官は微笑う
  【講談社】
  日明恩
  本体 1,900円
  2002/6
  ISBN-4062112132
 

 
  石井 英和
  評価:C
   なんだか説明に次ぐ説明という感じの小説だなあ。冒頭から地の文や台詞の総動員で警察官や麻薬取締官に関する「必要あるのか?」と疑われる量の内情説明が延々と続き、やっと物語が動きはじめるかと思えば、事件に係わる各種ウンチクの長過ぎる開示が始まってしまう。また、登場人物の顔見せの度に延々とそのライフスト−リ−が示される。物語自体も、アクションよりは登場人物の説明的な会話によって進行する部分がかなり多いのだ。どうも物語を楽しむより、小説の説明を聞かされている時間のほうが長い気がする。そして、不必要と思われる領域まで説明しまくったが故に、物語そのもののリズム感がすっかり失われてしまっているのだ。これがデビュ−作のようだが、また一人小説を書くよりウンチクを垂れる方が好きな小説家が誕生、などという事にならぬよう神に祈ります。

 
  今井 義男
  評価:AAA
   現場一筋たたき上げこわもて反骨男と、一見苦労知らず軽薄自己中優男の刑事コンビ。もちろん年下の後者が上司である。このありがちであざとさ全開の設定が思いも寄らぬ人間ドラマを繰り広げると誰が予想しえたであろうか。と、やや力を込めて叫びたい気持ちである。誰がどう考えたってドタバタにしかならない組み合わせだろう。やはり小説とは人間を書く作業なのである。つまらないトリックや誰も知らない精神病を見つけて悦にいるような輩には縁遠い仕事と断言できる。私は『GOTH』と本書によってミステリ訣別計画の一時凍結を決定した。突然だが、極私的・国内探偵ランキングの変動を発表する。四位・古畑任三郎、三位・西之園萌絵、二位・榎木津礼二郎、そして最強の三人を押し下げた張本人は、本書初登場<警察社会に紛れ込んだ異物>潮崎哲夫その人である。

 
  唐木 幸子
  評価:C
   書き手の持込みによる文学賞のブランドであるメフィスト賞受賞作であるだけに、筋立ては面白いし、人物もなかなか好感度高く描かれているし、キラリと光る表現もいくつもある。実際、最後まで面白く読めたのだ。しかし今月のハイレベルの新刊本の中にあってはどうしても読み劣りしてしまった。凸凹コンビ風の刑事のコンビ以外の主人公レベルの登場人物が多すぎるんじゃないか。麻薬取締官の宮田など、とても良いキャラクターなので、次に取っておけば良かったのに、と惜しい。また、かねてより新人賞受賞作に感じるのだが、会話から動作からその時の心境までぜんぶ、文章にしすぎなんではないだろうか。読みにくさの原点はそこにある。妙に学士がどうのエリートがどうのと既に手垢のついた階級意識が語られすぎるのも幼い感じがしたなあ。

 
  阪本 直子
  評価:A
   読んでる間中笑いっ放しだった。笑うような話じゃないんだけどね。刑事と麻薬取締官、それぞれの追う事件が思わぬところで交錯する発端から、やがて予想もつかない大掛かりな陰謀が立ち現れてくる。登場人物も揃ってハード。麻薬取締官の宮田には単独でハードボイルドの主役が張れそうな事情と怨念があるし、密売人の林もノワールの主役になれるだろう。刑事の武本は容貌もいかついタフガイだ。と、ここまで笑えるような要素は一切ないのだが、武本と組んでる相手が問題なのだ。名家の坊ちゃまで優男、お喋りで博覧強記の好青年。この潮崎警部補が思いっきり空気を和ませている。何しろミステリ愛好家で、合田だ鮫島だとやたらに口走るんだよ。いやあ、こんな奴初めて読みました。
 と、面白さではA3つでも良かったところなれど、悪玉の設定に少々疑問あり。ちょっと“大物”過ぎないかい? どこやらの都知事の妄想みたいで、正直、感じよくないぜ。

 
  谷家 幸子
  評価:C
   タイトルはかっこいいし、「踊る大捜査線」の継承ってのも期待できる、こりゃいいぞ…というのが第一印象。ま、滑り出しは悪くはない。各キャラクターの描き方もくっきり太線で魅力はあるし、警察内部のゴタゴタもさもありなんといった感じで効果的。
なんだがなあ。何故こんなに「未消化」な感じがするのか。いい材料ばかりを集めたのに不発に終わったオトーサンの日曜料理みたい、ってわけわからない例え?
イチオシキャラはやっぱり超おぼっちゃまな潮崎刑事だが、渋キャラ担当の武本と宮田、ふたりはちょっと多かったのでは、という気はする。警察官と麻薬取締官の軋轢、というのも確かに新味なのだが、感情論だけでぶつかり合っている感じでどうにも中途半端だし。とにかく惜しい。
でも、上手くキャスティングしてテレビドラマにすれば結構面白くはなりそうだ。1クールはもたなそうだけど。潮崎には和泉元弥(字がわからない!)を希望。

 
  中川 大一
  評価:B
   この作者の名前って、「たちもり めぐみ」って読むのか。本名かね? お〜い、全国の図書館司書の皆さ〜ん、蔵書カード作成、あるいはデータ入力のときはくれぐれも気をつけましょう。……閑話休題。主人公は、武骨な正義漢と、軟弱お笑い系の刑事コンビ。な〜んだ、パターンじゃん、と思うでしょ? ところが本作の魅力はいわゆる「キャラ立ち」のよさにある。硬骨漢がうじうじと思い悩んだり、軟弱者が突っ張ったり。その重層性が、彼らの生い立ちが描かれることによって、あざとさを感じさせずに頭に入ってくる。敵役もまたしかり。主役たちが追いかける悪の中味がかなり「ぬるい」のはやや難だが、これも、麻薬やテロなどの定型を脱するのに一役買っているとも言えましょう。

 
  仲田 卓央
  評価:A
   とても素直に書かれた、好感の持てる作品です、などと書くとすごく作文の先生っぽくてアレなのだが、実際「好感の持てる」という言葉がぴったりくる小説である。それはこの作品がデビュー作だから、とか何とかという新人賞を受賞したから、とかいう理由ではなく、また強面の刑事となよなよの刑事コンビという、もはや原型をとどめないくらい手垢がついてしまっていて逆にアリになっている設定に果敢に挑戦しているからとかいうことでもない。それは「この作家は、この作品のために色々がんばったんだなあ」ということがしっかり伝わってくるという感じだ。このために銃についてもいろいろ調べて、主に舞台になっている池袋の町を歩いて、見て、感じて、登場人物にしても善玉悪玉に関係なくしっかりと愛情を持って描こうとしている姿勢。小説を書く人にとっては当たり前のことなんだろうけど、その当たり前をしっかりと当たり前にやっていく貴重さに、私は感動を覚えるのである、

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