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  かっぽん屋 かっぽん屋
  【角川文庫】
  重松清
  本体 571円
  2002/6
  ISBN-4043646011
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
   本をレコードに見立て、A面とB面で構成されている短編集。
 表題作『かっぽん』は、性をイメージする音。若くて青くて恥ずかしい時代を描いた作品。若いとは、そわそわしていて気もそぞろ。そんな浮ついた感じがよく出ている。作中の『五月の聖バレンタイン』は、若さゆえの無力さ、悔しさが。『桜桃忌の恋人'92』では人が人を好きになるのはこんな瞬間かな、という感じが描かれている。
 各作品に出てくる人々が、繊細で人恋しげでいい。市井の人々の細々とした日常が伝わって、実に生っぽい雰囲気を醸している。バラバラのお話が編まれているのに、どこか統一感が感じられる作品集だ。

 
  内山 沙貴
  評価:B
   SIDE Aに出てくる自伝的なお話と、SIDE Bの軽いブラックユーモアなお話と。自分の好みはBの方で、先が見えそうで見えないサスペンスっぽいところがなかなか乙でした。が、なぜか強く、というか強烈に印象に残っているのはSIDE Aの日常に埋没した非日常的でスポットライトの当たるシンボリックなお話。始まりは少し取っつきにくい。でもはまるとちゃっかり連れて行く。終わりは小さな笑いがこぼれる。そうさせる、力がある。格好をつけていない分だけカッコいい。優しい人が書いた微笑ましい短編集だと思いました。

 
  大場 義行
  評価:C
   ああ、かっぽんしたい。とりあえずこの言葉が頭から離れません。ちょっと酒の席で油断すると、口から勝手に飛び出してしまうくらいに、脳にこびりついてしまいました。これは表題作「かっぽん屋」に対する帯コピーなんだけれども、この作品は確かに楽しめました。俺達の青くて苦い青春時代を思い出させてくれます。ああ、かっぽんしたい。他にも死んだお姉さんの十三回忌におきた、ちょっと切ないイベントを描いた「五月の聖クリスマス」。これもさすが重松節という感じでいい。ただ、この本自体に収められている作品がてんでばらばらで、最後にはインタビューまで入っている。これがどうしても嫌。ああ、かっぽんはいいのに。

 
  北山 玲子
  評価:C
   少年の性に対するマヌケだけれどマジメな悩みを描いた表題作や、男の悲哀を描いた『大里さんの本音』『デンチュウさんの傘』。バラエティに富んだ作品が収められている短編集は重松清の創り上げる世界のベースともいえる作品で構成されており、おまけに著者インタビューまで収録されたファンには嬉しい1冊だろう。正直、自分は著者の作品はどうも肌に合わないのだが、唯一『失われた文字を求めて』は傑作だった。1日中読書をして内容を要約するという本好きにはたまらなくおいしい読書士という仕事に就いた大島さん。最初はプロの読書士として「やってやる!」と気合十分だったが、実際取り掛かると1日のノルマはあるし、書店にみだりに出入りしてはいけないと制限されたり、だんだんと彼にとってはキツイ仕事になっていく。読めば読むほど空しくなっていく大島さんはついに!
…と、本好きにはなんだか妙に胸に染み入る話でした…。

 
  操上 恭子
  評価:B
   なかがき(?)にも書かれているとおり、前半と後半ではまったく印象の異なる作品を集めた短編集である。私は後半の方が好きだ。重松清の今までの作品とは随分テイストが違う感じだが、それもそのはずで初出時には別名義で発表された作品なのだ。しかも、かなり古い初期の作品だ。ということは、この路線のものはもう書かないということなのだろうか。それもちょっともったいない気がする。ところで、この本を読みながら何故か石田衣良のことを思い浮かべていた。重松清と石田衣良、同じような題材を扱いながら、その切り口はまったく違う。たとえば『エイジ』と『うつくしい子』を読み比べてみると、なかなかに面白い。ふたりとも、今私がいちばん気に入っている日本人作家である。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   かっぽん。トイレが詰まったときに使うゴムのあれ、のことかと・・・。方言というのは、実に人間くさいもので、『売春宿』じゃ、伝わりっこないものが、題名から既にあふれでている。というわけで、表題作は、童貞卒業大作戦もので、この作者、このジャンルなら、はずれるはずもない。さらに、小学生の男の子が主人公の『すいか』は、現実のかっぽんから遠い分だけ、切なさもエロも表題作以上に甘酸っぱい。短編集としては、苦肉の策でA面(切ない系)、B面(奇妙な味系)なんて構成してはいるものの、幅広い作風というよりはバラバラじゃん、という印象はぬぐえないまま。B面はあまり楽しめなかったが、ファンは初期の作品も読みたいだろうし、しょうがないか。

 
  山田 岳
  評価:B
   「Side A」「Side B」に分けられた編集が気がきいている。「Side A」は<青春の裏側>をテーマにした短編集。
性愛小説で興奮することもなくなった評者だが、小学生の<性の目覚め>を描いた「すいか」には興奮してしまった。う〜ん、はずかしい。性のはけ口をもとめる少年とは、なんとはずかしい存在なのだろう(「かっぽん屋」)女性には読ませたくない(^-^;)。
「Side B」には特にテーマはない。書評のための読書に追われる評者には、背筋が凍るような「失われた文字を求めて」。苗字の読み方を変えるだけで人生観が変わってしまう「デンチュウさんの傘」など、ライター稼業で修業をつんだ作者らしい、こなれた、小気味よい作品がそろっている。

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