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  煙で描いた肖像画 煙で描いた肖像画
  【創元推理文庫】
  ビル・S・バリンジャー
  本体 680円
  2002/7
  ISBN-4488163033
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
   ダニーの気持ちとクラッシーの行動は落とされた水滴のようにスマートで整然としているのに、ごちゃごちゃに絡まる糸みたいに不可思議な形をイメージするのは何故だろうか。玉が1つから2つに増えるマジックのように現象はひどく単純なのに、至る過程が謎である。モヤモヤとした深い霧のような閉塞的な拘束具が脳の周りにまとわりついたような気分になる。昔見かけた女性を追ってダニーは盲目的な追走劇を始めるが、一方彼の夢見た女性クラッシーは世間に対してとんでもなく強かだった。普段だったら冷笑しそうな展開なのに、シリアスさに脅された。本がまるで生きているみたいに問いを発し、答えてくれる。こういう本もありかなぁと思わせる本でした。

 
  大場 義行
  評価:A
   後味の悪い物語上等。ハッピーエンドの物語よりも、うへえ、やだなあこれ、こんな終わり方をしてしまうのかよ、という物語が好きな人間にとって、この本はお薦めです。いやあ久しぶりに衝撃でページをめくる手が止まりました。偶然見つけてしまった女性の写真を元に、ある男が仕事そっちのけで女性の居場所を追い始める。どんな生い立ちなのか、どこに行ったのか。そんな、ちょっとストーカー気味の主人公の視点と、ほんとはこうだったのよ、という女性の視点が交互に描かれ、見事に物語が進行する。これがくらくらするくらいに巧い。そして最後。うーん素晴らしいです。衝撃を受けたまま読了、そして本の表紙を見返して、「ああ、煙で描いた肖像画」と独白するくらいいいです。後味は悪いけれど、充実した読書時間を得られる、そんな巧さの光る作品だった。

 
  北山 玲子
  評価:B
   昔心惹かれた女性・クラッシーの消息を辿るダニー。なかなか探し出すことの出来ない彼の心の中は彼女への想いで徐々に支配されていく。過去の想いに向かって一途に進んでいくダニーと、常に高い所を目指して先へ先へと進んでいくクラッシーの物語は、男性の純情と女性のしたたかさを如実に描く。ありがちな話ではあるけれどどうにも煮え切らない、ままならない物悲しい読後感がいい。それにしても、自分に品も能力もないとわかっていてそれを補うために努力しているクラッシーは向上心の塊みたい。方向性は間違っているけれど、コツコツと努力家で悪女と言い切れないところがあるなぁ。
 先月の『闇に消えた女』同様女性に振り回される男の哀しくもしみじみとしたいい(?)お話でした。

 
  操上 恭子
  評価:B+
   ふたつの物語が交互に語られるという手法自体は現在では珍しくもないが、本編では、ひとつは男が謎の女を追い求める物語で、もう片方が女の物語=謎の答えとなっているところが面白い。男の方が、身勝手にも無邪気に自分の理想の女性像を追い求めているのに対し、女の方は自分の美貌と機知だけを武器にどん底から這い上がっていく。彼女を「悪女」と呼ぶのはあまりにも短絡的だと思う。自分が魅力的な若い女であることを知っていて、同時に自分にはそれしかないことを充分に理解した上で、それに群がる男達を利用して一歩づつ夢に近づく。わらしべ長者のようだ。だが、その過程で彼女が犠牲にし、失うものも決して少なくはない。まあ、それもまた珍しい話ではないのだけれど。本編を傑作にしているのは、やはり組み合わせの妙ということなのだろう。彼女には、この物語の終了後、どこかで今度こそ幸せになっていてもらいたいものだと心から思う。

 
  佐久間 素子
  評価:B
   同時代ということもあって、どうしてもアルレーの『わらの女』と比べてしまいたくなる。どちらも、美貌と悪知恵を武器にして成り上がっていく悪女を、ビッチどころか気品すら漂う女性として主役にすえている。容赦のないアルレーに比べると、バリンジャーのクラッシーに対するまなざしは優しい。その優しさは、哀れで愚かな小動物を見るものであって、現代の感覚からすると首をかしげたくもなるのだが、実にこれこそが本書の個性であり、魅力であろう。女の写真を見て、勝手に盛り上がり、これまた現代の感覚からするとストーカーそのものの執拗さで、彼女を追う青年の視点が、ロマンティックな予感すらはらむ。見事な展開、鮮やかなラスト。名作の風格である。

 
  山田 岳
  評価:B-
   ストーカーまがいの青年の話かと思えば、ラストにこんな結末が用意されていたとは!?
直感から理想の女性と思い込むのは、若さ(ばかさ)のなせる技、写真1枚では、性格までは判別できるわけがない。評者が、むかーし付き合った女性が、子どもの頃から京都・祗園の店に出入りしていて、「女に生まれたからには・・・」なんて話をしていたことを思い出した。
え、その女性とはどうなったかって? 本作品のダニー君ほどではないけれど、やっぱり痛い目にあいました(^-^;)

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