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  夜明けの挽歌 夜明けの挽歌
  【発行アーティストハウス
  発売角川書店】
  レナード・チャン
  本体 1,900円
  2002/7
  ISBN-4048980890
 

 
  石井 英和
  評価:C
   アメリカ合衆国において、多数派に属する民族に出自を持たない作家によって書かれた、そしてそのことを「売り」にした物語に関して、これまで私が感じていた疑問がある。作品内に配置された、この作品の場合で言えば韓国風の姓名や習俗を取り去ってしまい、主人公をアメリカ社会の主流派に属する「白人男性」に変えてしまえば、これはそのまま「普通のアメリカの小説」になってしまうのではないか、そんな疑問。主人公のうちにある理念、行動様式、使用するレトリック等々が「いかにもアメリカ人」であり、彼の民族独自のものが見当たらないのだから。この疑問点が「新表現」として昇華されるまでは、私はこの種の作品をシリアスなものとして受け取る気になれないのだ。何しろ読んでいて居心地が悪すぎる。この作品も独自の熱気は魅力的だが、疑問の解消には至っていない。

 
  今井 義男
  評価:A
   よもやアメリカ在住コリアン主演のハードボイルドを読む日がこようとは。マイノリティが山の賑わいに過ぎなかった時代を思い返せば隔世の感がある。わが国とは異なり、世界では人種・民族が混じり合うのが普通だから驚かなくてもいいが、それにしてもこの違和感のなさ。話のテンポもすこぶる快調、よそ見している暇はない。殉職した相棒の周辺を探ろうとすれば邪魔が入る。それを無視すると死ななくてもいい者が死ぬ。めげずに食い下がると今度は職を失い、司法に追われ、てな具合に事態はどんどん悪くなる。トラブルに次ぐトラブル、一難去る間もなくまた一難の特注ハードタイムノベル。もうアジアン・ノアールとわざわざ断ることはない。コーカソイドの牙城なんてとっくの昔に炎上しているのだから。

 
  阪本 直子
  評価:A
   こらー、何がアジアン・ノワールだ、いくら作者と主人公が韓国系だからって。全編アメリカで展開する物語じゃないか。しかもこれが「ノワール」ですか? 主人公アレンの仕事はボディガード。会社重役の警護中に銃で襲われ、同僚のポールが死んだ。狙われたのはクライアントではなくポール自身ではないかと言う新聞記者。半信半疑で調べ始めるうち、思わぬ敵が見えてくる。窮地に陥ったアレンが必死に戦いつつ、思いがけない自分の家族の秘密を知っていく、巻き込まれ・冒険・過去の秘密ミステリ。しかも極めて前向きです。昨今売る為に何でもかんでもノワール呼ばわりする傾向がありますが、これはいくら何でも嘘っぱちだよ。帯を信用して馳星周的世界を期待したら思いっきり裏切られるので要注意。これは普通のアメリカン・ミステリです。映画化されるそうですが、この設定のまんまでやって貰いたいなあ。ちゃんとアジア系の役者を起用しろよハリウッド。

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