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  コールドゲーム コールドゲーム
  【講談社】
  荻原浩
  本体 1,700円
  2002/9
  ISBN-4062114569
 

 
  大場 利子
  評価:B
   思い出す、誰もが。分かる、誰もが。そう思いたい。
 いじめた側は何も覚えていなくて、いじめられた側はよく覚えている。前席の課長が言っていた。その通りだ。そう思う。「コールドゲーム」はそういう物語。
 いじめた側が悪いだの、いじめられた側に問題があっただの、審判をくだすような事も説教じみたことも書かれていない。丁寧に辿り、探し、戻し、それだけだ。読んで良かった。

 この本のつまずき→「17歳、まさかそんなに早く死ぬなんて思ってもいなかった。」惹句で、誰かが死ぬ、なんて、教えてくれなくて結構。おもしろさを削いでいるように思う。

 
  小田嶋 永
  評価:A
   こういうサスペンスがあったか、というのが第一の感想。そういう意味で評価はA。(今月から初めて「採点」するので基準があいまいかも。)サスペンスの価値は、最後の1行で恐怖感が再燃することをもって評価するのをモットーとする身からすれば少々甘い。また、次のターゲットは誰かという謎も、容易にわかってしまう。そういった難はあっても、青春小説としてサスペンスを成り立たせたアイデアは買いです。しかし、携帯メールを、青春小説の小道具(いや、ある意味主役かも)として描かざるを得ないのだなあ。こういう小生は、携帯で20文字くらいのメールを打つのに5分くらいかかってしまうのだ。

 
  新冨 麻衣子
  評価:A
   中学生の頃って嫌な時代だ。大人をも傷つけてしまう言葉や体力を持ち、一方で人を思いやる心を持てない子供。そんな生き物たちが一堂に集められ、気の遠くなるほどの時間を共に過ごす。何も起こらないわけがない。程度の差はあれ、どのクラスでもいじめはあったのではないだろうか。いじめた人、いじめられた人、いじめを知りつつも何もしなかった人。ほとんどの人がこの3つのうちどれかには属していただろう。そしていつの間にか忘れてしまう。これはひどいいじめに遭っていた少年が当時のクラスメイトたちに復讐を行っているようだ、と気付いた少年が仲間と共に、その復讐を止めるべく帆走する物語。かつてのクラスメイトたちのため、そしていじめられていた少年・トロ吉のために。ストーリーのテンポが良く、ぐいぐい読める。ラストは衝撃的だ。そして一人の少年に取り返しのつかない深い闇を植え付けてしまったことを少年たちは思い知らされる。読みながら、胸が痛くなった。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   甲子園への夢は地区予選コールド負けで早々と破れたけれど、野球をとったら何も残らない現実の中では、勿論未来は見えてこない。そんな高三の夏休みを持て余している光也の周辺で、過去が決算を迫るアブナイ事件が次々とおこる。面倒事を避けて、他人が傷つけられても知らん顔すればすむところを「正義の味方になるつもりはないけれど、卑怯者にだけはなりたくなかった。中学の時みたいに見ていない振りをするのはもう嫌だ。」と敢えて関わっていく。一見フツー以下の知的レベルに見える不器用な17歳の、この過去の「イジメ」を看過していた自分への反省、次に傷つく人間を増やすまいとする行動力、ナミじゃない。実はこの本、南京旅行往復の 飛行機の中で読んだ。国交正常化30周年、中日友好都市南京で出逢った人たちは皆笑顔で親切だったけれど、「大虐殺記念館」を訪ねてやはり言い難いショックを受けた。やった側は結構忘れてしまいやすい「イジメ」と加虐の歴史は似ている。過去を忘れて無かったことにすれば、幼稚なまま又同じ過ちを繰り返す。ことなかれ主義と幼さを乗り越え、過去と向き合い正体を突き止める勇気が光った。難を言えば犯人像がちゃち過ぎた。

 
  松本 かおり
  評価:C
   「廣吉クン、いったいキミは、4年間でどう変身したの?」。この期待ひとつに引きずられ、わき目もふらずにとにかく読んだ。うまく読まされちまって、ちょっと悔しい。
 いじめられっ子がかつてのいじめっ子に復讐するなんて、たまらなくスリリング。やられたようにやり返す、あるいは3倍4倍返し。いいじゃないの、どんどんやってくれ!こういう物語のいいところは、ストレス解消ができるところだ。そもそも私は、他人にちょっかいを出してヘラヘラ喜んでいるような、馬鹿なガキどもが大嫌いなんである。
 そして、ことの真相は……!今の世の中、何があっても不思議はない。げに恐ろしきは積年の怨念なり。舐めてはいかん。身内の心境を思えば実際に起きそうなことだけに、不気味である。ま、「廣吉の4年間」への期待が熱く燃えすぎた分、なんだか拍子抜けの感じは残るが。これって「切なすぎる結末」(オビ文句より)というより「鬼気迫る結末」だと言ってあげたい、私は。

 
  山内 克也
  評価:C
   佐賀で十数年前、同窓会に集まった中学時代のクラスメートを、酒に毒物を混ぜて皆殺しにしようとする事件があった。事件は未然に分かって犯人は捕まり、動機は学校でバカにされた見返しだったという。作品はこの事件を地でいくようなストーリー。「いじめ」「いじめられ」たの攻守を織り交ぜ、学校時代培った思い出の温度差を際だたせながら屈折した思春期の悔恨をうまく描いている。
 いじめられた生徒に次々と制裁を下されるクラスメートは、「なぜ襲われる」と、その理由に気づかない。加害者意識のなさにスポットを当てるあたり現実感がある。野球に打ち込むことで青春を費やした主人公は、犯人とおぼしき「トロ吉」をいじめた事実はないにしても、関わりを意識的に避けてきた。その罪深さを徐々に感じていくところがいい。犯行を防止しようとする主人公と腐れ仲間の丁々発止的な会話はダレ気味だが、結末の意外性に読み応えはあった。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   二回戦コールド負けの野球部に所属する光也と、悪友、亮太。二人の級友たちが、いじめの標的だったトロ吉の復讐にあう。トロ吉を探しだした二人にピンチが。負けは、認めたときにはじめて負けになる。最後まであきらめるわけにはいかない。
 やけにあっさりと足取りがつかめていくあたりに、物足りなさを感じたのだが、それほど簡単には終わらなかった。キャラクターも立っているし、スピード感もあり、最後まで飽きさせない。すいすい読める。
 残念なのは、「この命果てようとも、呪い殺してくれる」というほどの迫力を感じないところ。描写が淡泊なせいであろうか。小さな恋心もちょっと弱いか。ライトな重松清のような雰囲気だ。もう一歩、ふみ込んでも良いのでは。
 やはり萩原浩の神髄は『オロロ畑でつかまえて』や『母恋旅烏』のような、おかしくて、ちょっと悲しい、人情喜劇路線にあると思う。

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