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  夏雲あがれ 夏雲あがれ
  【集英社】
  宮本昌孝
  本体 2,200円
  2002/8
  ISBN-4087745961
 

 
  大場 利子
  評価:AAA
   永遠、読み続けたい。一生、この物語が続けばいいのに。こんなに早く読んではもったいない、もったいない。終わらないで。読んでも読んでも終わらない、そんなことはないだろうか。
 青年武士の、曽根仙之助、花山太郎左衛門、筧新吾。この三方の友情を軸に、物語は進む。
 第一章の「一」の9ページたらずで、立場・関係・背景が的確に描かれ、478ページ、しかもニ段組の本書の導入部分としたら、それはそれは素晴らしく、心わしづかみだ。「もっと日常的なものであった。さりげない、と言いかえてもよい。それこそが友情なのである、永遠不変の。」と表現される三方の関係もさることながら、正しい人であっても正しくない人であっても、それはなにゆえかが、きちんと描かれており、なお一層心が踊る。

 この本のつまずき→装幀・絵は南伸坊。カバーの絵・扉の絵・24枚の挿し絵。見事にその場面場面を表している。切り取って、額に入れたい。それでは相乗効果が台無しだが。

 
  小田嶋 永
  評価:AA
   『藩校早春賦』の続編、しっかりストーリーを忘れてしまっている! 本作品も、東海の小藩を舞台にした“陰謀”を巡っての青年剣士たちの生き様、友情を描く。前作のエピソードが、様々な伏線として盛り込まれている。もちろん前作を読んでいなくても、物語の展開を追うのに支障はないし、十分面白く読める(保証します)。そのすんなり読める「自然さ」を、ありふれたエンタテインメントの軽さと取り違えてはならない。とりわけ時代小説の場合、過去の時代へとタイムスリップし、その中で、スリルとサスペンス、感動を読者は求めている。本作の場合、その「自然さ」を生み出すために前作から3年を要したのであろう。その間、登場人物たちも作者の中で育まれ、再び生を与えられ、作品の中で“おとな”になっていこうとする。息を吹き込まれた登場人物たちは、これも作者から与えられた難題に悩み、立ち向かっていく。まさに、“生きている”のである。この「自然さ」に賭けた会心作だ。

 
  新冨 麻衣子
  評価:A
   何て爽やかな友情物語なんだろう!敬愛する藩主の命を狙う陰謀に気付いた若き剣士・新吾が竹馬の友二人と共に、陰謀を阻止するため立ち上がる。ストーリーがやや単純なのは否めないが、自らの進退を省みず、大切な人たちのため剣を振るう。その心意気がいいではないか。その純粋さ・まっすぐさに心を打たれる。まさに時代小説ならでは。そしてまたこの3人の剣士たちはよく泣く。何かと感激して三人そろっておおいに泣く。江戸の情報網として新吾を助けた吉原の銀次も「こんな純なお侍たちはじめて見た」と言っているくらいだから、同じ江戸時代においても、とくに心のまっすぐな若者たちであったのだろうが。こんな熱い友情物語は現代を舞台にしては成り立たないだろうな、とも思う。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   三銃士、三国志、洋の東西を問わず、友情の物語には三という字がよく似合う。我らが三剣士の結束をより堅く美しく純なものにするのは、より凶悪で醜く不正な陰謀だ。おきまりのパターンと解っていても、そして純粋や正義感なんて、バカ、単純、独善と紙一重と思っていても、ま、そこが時代物の面白さなのでもある。巨悪の正体を暴き、その陰謀に立ち向かう大義、「殿のお命のご無事、藩の安泰」のために闘おうとすれば、窮屈な武家社会の秩序や掟に阻まれる。でもそこでハムレット的煩悶をする主人公たちではない。「正義の負ける世の中ならどのみち生きていても仕方ありません」と退かない。「友を守るためには武家社会の掟を破り、自らの命を絶たねばならぬ。」その覚悟は若々しく清々しくまさに夏の光の輝きだ。そんな覚悟を試される試練の秋、冬の闇に葬られた男達の運命が彼らにも訪れるのを畏れ早々心配するのは老婆心ながら、「藩校早春賦」から「夏」を熱く駆け抜けた若者たちがどんな秋を迎えるのか。次作が待たれるような何だかこの先不安なような…。

 
  松本 かおり
  評価:A
   恥ずかしながら拙者、齢38にして時代小説処女であった。中学・高校通じて歴史関連科目は全滅。歴史嫌悪ゆえの無知から、時代小説もどうせ教科書と同類、と完全に無視してこの年までまいった。今回、2段組500ページ近い長編を読破するに至り、思わぬところで良い相手と出会い、充実した初体験であったと感無量である。
 と、いうことで、時代小説に苦手意識をお持ちの方々、ご安心くだされ。見た目のブ厚さと重量にもビビることなかれ。藩主暗殺の陰謀阻止に3人の若剣士が大活躍、一本筋の通った展開は爽快そのもの。青春冒険小説といってもいいワクワク感に、結末を早く知りたくも読み進むのが惜しくなること確実。
 南伸坊氏の挿画も、シンプルな線画で読み手の想像を邪魔しないのがよい。前作『藩校早春賦』も絶対に読むぞ。

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