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  D.O.D. D.O.D.
  【小学館】
  沢井鯨
  本体 1,100円
  2002/9
  ISBN-4093861099
 

 
  大場 利子
  評価:C
   フィリピンでのバカラに始まり、マニラ湾の爽やかな風で終わる。読んでいる間中、この夏の熱帯夜を思い出さされまとわりつかれ、しんどかった。おまけに、もう騙されないぞと用心深くしているくせにすぐ騙される主人公と一体感など味わえない。騙されるたび、どうしてお前はそうなんだぁぁぁ。それが繰り返されるので、それに飽き。
 それでも一気読み出来たのはなぜか。主人公は、映画「天国から来た男たち」を見たのをきっかけに、マニラを新天地に選ぶ。正しい。この映画、カッコいい吉川晃司主演。大体、主人公は正しいことを選ぶから、騙されもする。そういうことだ。仕方ない。
 どれとどれが作りごとだろうと始終見極めようとしたけれど、それは物語の面白さを半減させるだけの、過った読み方だ。

 この本のつまずき→プロローグに使われた沢木耕太郎著深夜特急からの引用中。「賽」が読めず、一晩ねかす。

 
  新冨 麻衣子
  評価:C
   ハリウッドのアクション映画が嫌いである。ストーリー展開ばかりに力を入れ、派手にやっておけば観客は満足するであろう的な商業主義があからさまで気にくわないのだ。水戸黄門的な勧善懲悪をSF的むりやり手法で完結してしまうなんて、つまらないと思う。しかし観たら観たで、その派手さゆえか、予定調和的で胸のすっとするラストがあるためか、何となく満足してしまう。この作品はわたしにとってハリウッド映画だった。
 主人公はタイのアンダーワールドからマニラへ流れてきた男。マニラの日本人社会と関わりを広げるに従い、とんでもない陰謀に巻き込まれてゆく。事件は驚異的に肥大化していき、主人公は命からがらだ。しっかし無理ないか?と思うほどにSF的手段を用いて生き延びちゃうのだ。上手いのは政治史をきっちり描いているとこ。アジア政治を専攻した私にとっては裏の政治史とも言える流れ(本当かどうかわからないが)がおもしろかった。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   あーおもしろかった!墜ちた男の見本市みたいなこの小説。遊園地で一番人気 の行列ができる絶叫マシン、長大複雑ジェットコースターの墜落感!もっとも、賭け事にも、投資にも縁のない私は緩慢平穏な観覧車派なんだけど…。
マニラ湾に虐殺死体で浮かんだオカヤス、シャブ中ホームレスになる前は年収1千万を超える証券マンだった。中年マジシャンの謎の過去は、金の魔力にとりつかれ、投資という名の詐欺にかかって資産も信用も失った大病院の院長。そしてマニラの拘置所の「腐敗しきったフィリッピンの縮図」ぶりに惹かれて新天地を求めてやってきたイザワ。誘蛾灯に引き寄せられるように、チマチマした安定の縛りに行き詰まった男たちは危険な賭けに魅せられるものなのか。死んだような平穏を生きるくらいなら、死んでも悔いない斬った張ったのやり取りに命を賭けるハラハラ感、確かに平和ボケ日本に効く。無機的な清潔消臭社会にこのムンムンくる熱さ、生活臭、貧しささえ迫力だ。でもケチをつければ最後にご都合よろしく現れ助けてくれる陰の権力者の正体、いくらなんでも出来過ぎ。

 
  松本 かおり
  評価:C
   オビの「潜伏」だの「アンダーワールド」だのいう言葉から、ドンドンパチパチ、血肉飛び散りラリった男女はヤリまくり、みたいな内容を想像したが、意外に淡白。特に、最初の三分の一はほとんど何も起こらない。やや退屈。
 第3章に至って強屋なる日本人詐欺師が登場し、マルコスの隠し財産をめぐって争奪戦開始。ようやく話は、主人公のイザワを始めフィリピン政府や軍部を巻き込んでの急展開となる。
 しかし、各部の謎解きの進め方が大雑把ゆえ、スリル感が薄いのが難点。読み手だって少しは推理したいんだってば。余地なさすぎ。バイオレンスでもない、ミステリーでもない中途半端さには目をつぶり、あれこれ考えずドップリ浸って一気に読み切るのが正解。
 著者は540日もマニラに潜伏していたとか。さすがにフィリピンの社会描写、歴史解説などは詳細で説得力がある。フィリピン事情に疎い読者にも親切。

 
  山内 克也
  評価:D
   腰巻きの惹句には「アジアン・アンダーワールド」と銘打つも、実際は現地邦人のカネを巡る黒い「コン・ゲーム」。日本人同士の口先だけの莫大なカネが動くことで、カネの亡者たちが魑魅魍魎と跋扈する。
 カネの争奪戦にフィリピン政府も入り交じり、ストーリーに深みを持たせようとして話を破綻させたのはご愛嬌としても、突然変わる説明調の文体は読むリズムを失わせてしまう。

 
  山崎 雅人
  評価:A
   警察に賄賂を渡さなかったことで、死刑判決を受けた人のニュースを見て、フィリピンは怖い所だと思っていました。
 本書はフィクションですが、前半部はそうとは思えません。思い込みもありますが、実にありそうな話。国の方々には申し訳ないですが、8対2くらいで真実のような気がします。早く治安が回復すると良いです。
 アジア世界の闇を扱ったハードボイルドは、いくらもありますが、逸品です。深く、生々しい。どん底まで落ちた日本人。貧困層の人たち。においがします。私の手は、すでに血まみれです。蒸し暑い風で、髪がベッタリと張りついています。
 後半は、元大統領まで登場して、ドンパチ。しかし、必要以上に銃を撃ちまくったりはしません。ねっとりと、じんわりと。生乾きの瘡蓋をはがされるようなせめぎ合い。奥歯が痛くなります。読後に自分が強くなったような気にはなれません。日本はいい国ですよ。本当に。

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