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  汚辱のゲーム 汚辱のゲーム
  【講談社文庫】
  クーンツ
  定価 (上)1040円(税込)
      (下)1070円(税込)
  2002/9
  ISBN-4062735369
  ISBN-4062735377
 

 
  大場 義行
  評価:B
   こういうのはアリなのかとたまに首を傾げつつも、面白い為にがんがん読まされてしまうという力業の作品だった。催眠術をかけられた主人公夫婦のあがき、人を弄ぶ悪役のあざけりが巧くてほんと止まらない。まあ、オカルトオタクの友達がいきなり出てきたり(しかも内容的には居なくていいようなキャラ)、両親が実は……とか、悪役がチョコ大好き一人遊び大好きの奇妙奇天烈君だったりとほんとに頭を抱える場面も多いのは確か。絶賛するにはちと微妙かも。面白い事は面白い。でもなんかあちこち変なんだよなあ。なんというか最初はシリアスだから、段々と作家自体が暴走し始めるというか。これをどう評価すればいいのやら。まあ、分厚い二冊なのに、あっという間に読んでしまう事も確か。うーん、いちおうB評価にしておこうかな。

 
  北山 玲子
  評価:C
   人形遣いと俳句。これが物語のキーワード。ゲームデザイナー・マーティにある日突然わき起こる殺人衝動。それを解明しようとする夫・ダスティ。気がつけば自分たちのまわりにいる友人や弟の様子もおかしい。これは誰かに仕掛けられた罠なのか?
 クーンツの魅力のひとつはスピード感にある。が、今回は滑り出しがやけにゆっくりでだからこそいろいろなアラが見えてしまった。いつもなら速さで先へ先へと進めるのに妙に気になった。それが前半部分までの印象。罠を仕掛けた奴の正体が判明してからの後半はいつものクーンツらしいテンポが戻ってくる。五・七・五なら何でもいいのか?というハチャメチャな俳句が出てくるのでそこは要チェック。と、ここまでは採点員としての評価。
 で、ここからはクーンツファンとしてひとこと。相変わらず、え?とか、はあ?とか、オイオイそれはないだろうとか、突っ込む楽しさを与えてくれるクーンツに感謝。久々に某出版社のではないクーンツ。やはりきちんとした翻訳はいいものですね。

 
  佐久間 素子
  評価:A
   ジャンル分けをしたら、うっかりトンデモ本行きにされてしまうのではないか。まず展開が変だ。黒幕が割れるのも、謎が解かれるのも、直接対決も、えらくあっさりしている。山場をそんな大安売りしてと冷や冷やしていると、大興奮のクライマックスがやってくるのだけど。さらに、黒幕が変だ。天才で、鬼畜。そして、まれにみるほどの大バカ。後半あまりのバカっぷりに失笑してしまうのだが、いいのか?スリラーなのに。しかも、スリラーにあるまじき温かさが、これまた変なのだ。こんなヒューマニティ、安っぽいと笑うのは簡単だけど、勇気すらいただけてしまう。どこを切ってもクーンツという個性。B級で何が悪い。大衆小説、かくあるべし。

 
  山田 岳
  評価:A
   「深夜何者かがわたしの部屋を訪れ、わたしを性のおもちゃにしている」しかし下着にしみついた精液以外に何も証拠が残されていない。精神科のクリニックにかよう女性の個人的な恐怖が、いつしか周囲の人たちにまで伝染して、自分が何者かに動かされている、それが誰だか分からない<恐怖>。物語はいつしか、人をあやつる<神/悪魔>になろうとした男と、それに立ち向かっていく夫婦の熾烈なバトルへと展開していく。分厚い本だが、読み始めたらあっという間。日本の俳句を犯罪行為に利用するとは、日本の作家には思いつかないだろう。

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