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  わが名はレッド わが名はレッド
  【ハヤカワ・ミステリ文庫】
  シェイマス・スミス
  定価 714円(税込)
  2002/9
  ISBN-4151735518
 

 
  石崎 由里子
  評価:C
   好き嫌いがはっきりと別れる作品だと思う。
  最近のミステリーは、登場人物がいかにして残虐的行為を行うか、場面がめまぐるしく変わっていくテンポのよさが好まれるようだけど、その人たちはみな、びっくりしたいのだろうか?
  人が残虐行為に至るには、たいていの場合その理由というもの存在する。その理由の部分には興味があるのだけれど、トリック、しかけのような段階を追った残虐行為そのものを追っていくストーリーはどうにも馴染めないものを感じた。

 
  内山 沙貴
  評価:C
   空中に浮かんだ黒い染み。それはたえず目の前に在るのに誰も見ようとしない“穴”。その漆黒に魅せられたのはそこに身を落とした証拠。人は全能ではないけれど可能性は無限である。闇の力は絶大で、手に入れることを夢にみる、だがあまりにも罪深い。“犯罪”という言葉がぴったりな内容は、たまに目を背けたくなるような薄ら寒い描写と、全体を貫くクールで高度で洗練された“プロ”の思考による計画が淡々と語られ、でこぼこでシャープな起伏を見せながら進む。余計なものをカットして、物語に必要なものだけを残して描かれた、完成された小説だと感じた。

 
  大場 義行
  評価:C
   こういう作品を実はずっと探しておりました。天才的な犯罪者VSとんでもない連続殺人鬼。やったようやく出会えたと喜び勇んで読んでみると案外地味でがっかり。主人公レッドは天才犯罪者。ある家庭の人々を復讐の為に皆殺しにしようとしている男。対するは死体を作品とするいかれ切り裂き魔。二人とも充分凄いのだが、なんだか地味なんだよなあ。だいたい捨て子はうんぬんと説教じみていたり、主人のレッドがわけがわからないほど猛烈に回りくどい計画を立てるというのも地味さ加減をパワーアップさせている気が。もうちょっとグッとくる奴ないかなあ。クーンツあたり書いていないかなあと変態的な自分は思ってしまうのだが。

 
  北山 玲子
  評価:A
   幼い頃自分と弟を捨てた一族に復讐を企てるレッド・ドック。時間をかけてゆっくりと着実に計画を進めていく(その復讐プランはなかなか壮大)。ところがピカソと呼ばれる切り裂き殺人鬼が絡んでくることでレッドの計画は軌道修正を迫られる…。レッドはピカソを利用しようとするのだが、途中からどちらが主導権を握っているのか微妙になっていく。このふたりの駆引きがなかなか面白い。レッドも魅力的だが、残忍な切り裂き魔のくせして動物には妙に優しいピカソがいい。ごめんよ、ごめんよと泣きながら子馬を蹴っ飛ばすシーンは最高。結局、レッドもピカソも悪い奴だがどこか抜けていて憎めない奴らだ。
 暴力的だけれどホロリとさせる。日本でいうと舞城王太郎の読後感と少し似ているかなあ。レッドの弟に対する優しい気持ちがなかなか泣かせる。

 
  操上 恭子
  評価:C+
   読んでいる時はとても面白かったのだが、読み終わってみると、あまり新し味のない、どこかで読んだような話だったなと思ってしまう。実際、孤児院や施設、少年院での児童虐待。そのトラウマをかかえて成長した子供が過去に復讐をする物語、というのは数えきれないほどある。本書の読むべきところは、その復讐の過程の非情さ、パズルのように組み立てられる犯罪の鮮やかさ、もう1人の異常犯罪者とのからみ、そして最後に訪れるカタルシスとたくさんあって、読んでいる時には充分に楽しめる。それでも、読後に残るのは、ありきたりな物語の骨格なのである。

 
  山田 岳
  評価:B
   先月の爆弾犯人もレッドだったなあ。まあ、あちらはアメリカのレッドで、こちらはアイルランドのレッド。イギリスの小説によくあるように、登場人物たち(ふつうは2人だが)が章ごとに1人称で語るのだが、犯罪者が悪巧みをしているところに別の犯罪者があらわれて話をややこしくする展開は目新しい。でも、「わたし」で語る人物が3人になるわけで、その分ややこしくもある。ヒロインが男口調にちかく、一瞬、いま誰の話をしているのかわからなくなる危険も(とりわけ、読者が章の途中で休憩を入れてしまうと)。猟奇殺人鬼が出てくるところも、なんだかおなじみではあるが、主役ではないところがオリジナル。テンポのよさ、タッチのよさで、この評価。本書につられて、なんだかややこしい批評になってしまった。

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