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  ファースト・プライオリティー ファースト・プライオリティー
  【幻冬舎】
  山本文緒
  本体 1,600円
  2002/9
  ISBN-4344002296
 

 
  大場 利子
  評価:B
   村上龍と山田詠美が対談で、ファースト・プライオリティーがないから隣の芝生が青く見えたりするんだというような事を話していた。それにやたら感銘を受けたが、そのファースト・プライオリティーは今だはっきりせず、相も変わらず、隣の芝生はくっきり青い。
 リアル過ぎる。他の誰かの話どころじゃない。そこに自分がいるような。それとも、自分のどこかか、まだ見ない自分か。どれであっても、痛い。
 だいたい、ファースト・プライオリティーなんて言うから、ぼやけるんだ。明日からは、最優先事項に変更。
 この本のつまずき→惹句「31歳の女性、31通りの、最優先事項。」一目で心わしづかみ。

 
  小田嶋 永
  評価:C
   31歳の女性についての31通りの物語、いや物語というには短い話。それぞれの話には、オチがあるわけでもなく、車で寝泊まりしたり、銭湯通いする失業中だったり、こんな女いないよとは言えそうで言えない、31歳の女を描き分ける。ただでさえ、女性の気持ちがわからないので、男の視点からの31歳の女性の話を、特に興味深く読んだ。タイトルズバリの「31歳」には、31歳の女性は間接的にしか登場しない。「三十出たくらいの女っていいじゃないか。そろそろ迷いが吹っ切れて、腹がくくれてて、でもやり直しもスタートもできる歳だろ」 これは、唯一の“定義”ではないか。「手入れしとけば体も綺麗だし?」父親と、異母兄弟の関係が青春している。男なんて、こんなものなのか?

 
  新冨 麻衣子
  評価:AA
   山本文緒って変な作家だ。もちろん最上級の賛辞として。ちょっと甘ったるい女流作家ものっぽい題名を、大いに裏切る内容。ありふれた生活のなかで、人間の心の動きだけで予想外のオチをつけてしまう。家族だから、恋人だから、なんて既成概念を山本文緒のつくる主人公たちはあっさりと無視し、それに度肝を抜かされる。もうなんといっていいか、とにかく上手い。目をそらしたい、というより、目をそらそうと思わないまでに無意識的に隠している感情をあらわにする。そういう部分を抽出して描くのが山本文緒だ。
 これは31才の女性を主人公にした31の物語。31人それぞれが生きる人生はそれぞれ普通だといえるかもしれない。だけど普通なんてないのだ。十派一括りにされそうな主人公たちの生き方が、山本文緒というフィルターを通すことで特別なものになってゆく。そして読んでいるわたしたちは、「ステレオタイプ」という概念を忘れ去ってしまう。
 文庫新刊の『落花流水』もおもしろいです。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   なあんか自己完結しちゃってる人達ばかり出てくる31のお話。そ、笑いがないんだ。自分を笑う余裕が。31歳ってそんな歳だっけ。これが32歳にもなれば「シワ(4×8)32歳でぇ」なんておどけも出来るし、39歳なら「シミ、シワ、シラガの三重苦」、42歳なら「もう死に体よ」とかオバサンギャグの語呂が合うんだけどな。誰でもいくつになっても持ってるこだわりとか、偏りがファースト・プライオリティーになっている。それが秋の日射しを浴びてはじけたザクロの紅い実のようにみずみずしく美しく描かれてはいるんだけどね。そう、葡萄の実のようにまん丸く甘く円満具足というわけにはいかない。綺麗だけど、ちょっと圭角があり、囓れば甘酸っぱさの中にほろ苦く、すぐ吐き出さざるを得ない芯があって、滋養豊富というわけじゃないけど、更年期症状に効く薬効成分があるとか言うあのザクロ。ちょうど今が盛りの季節。でも口舌の楽しみにはなっても、お腹にはたまらない。読んだはなから忘れそうなのはこっちの歳のせいかな?

 
  松本 かおり
  評価:A
   31歳女性の折々の真情吐露を描いた31編。ことさらに涙や笑いを誘うような劇的盛り上がり話はない。女性たちの本音、不安や迷い、怒り、やるせなさが、すでに40歳近い我が心にもチクチク伝わってくる。
「おかげさまで生きてるわけじゃない。可笑しいときだけ私は笑う」「私は車を手放したくなかった。彼氏を手放しても」「親はまた嘆いていたが、親の予想通りに生きることから私はやっと開放された」。もうイキオイだけで生きるのは無理。ならば何ごとかを拠りどころに、自分の居場所で自分なりにやる。いいのだ、それで。彼女たちを見ていると、何も起きない単調な繰り返しの毎日だって、そうそう捨てたもんじゃない、と思えてくる。共感と安堵と、じんわり元気になれる読後なんである。
 著者は、自分自身を含め、女というイキモノをじぃぃぃっと観察しているのだな、きっと。その目線にごくうっすらと漂う皮肉っぽさというかイジワルな感じが、私はとても好きである。

 
  山内 克也
  評価:C
    「30歳過ぎると年の加算が早くなる」と、私が知りうる三十路を過ぎた女友達は、未婚も既婚も離婚も無職もキャリアも口をそろえる。同年代の私もその思いは同じだが、彼女らは「今のうちにやるべきことをやる」といい、彼氏見つけや子づくり、社内制度活用した海外留学といった具体的目標にひた走った。中年と若年の端境期というべき30代最初のステップ「31才」は、この本で言う「最優先事項」というものを女性が見極めてくる年頃なのか。  車を持つことでの安心感や子どもの反抗に遭う母親としての不安…。小説では身近なものや出来事を取り上げ、「欲望」や「飢え」「乾き」「幸せ」といった「31歳女性」の本能を瞬間的にとらえている。女性の生態をのぞき見るようで男の眼としては正直、怖い小説だった。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   30歳をひとつの節目と考える女性は多い。本書は、30歳よりひとつ年上、31歳の女性が主役の、31編の洒落た短編集である。 車で暮らす女性、大好きな息子に否定されてしまう母親、銭湯通いがやめられない女性、離婚するつもりはなかったのに、自ら離婚を選んだ小説家、微妙な年頃の女性たちの最優先事項に関わる問題が、かろやかに描かれている。
 過去の長編小説のエッセンスが、10ページ程度の短編ひとつひとつに、ふんだんにちりばめられている。凝縮され濃厚になり、深みを増している。読みごたえ十分、納得の一冊である。
 物語の主人公は、少なくともひとりは著者であろう。そして自分を含む身近にいる人たち。これは私のことをいっている、と感じる女性も多いに違いない。
 珠玉の一編に私をみつけたら、前向きな気持ちになれる。そんなお話。

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