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  台風娘 台風娘
  【光文社文庫】
  薄井ゆうじ
  定価 520円(税込)
  2002/10
  ISBN-4334733883
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
   会社で仕事をしている主人公の<五十嵐君>と、意識を持った<台風>との恋。非現実的世界のようだけれど、舞台は現実。こういうのは個人的に大好きなので、すでに公平な目ではないけれど、数々のエピソードはファンタジーに偏りすぎていないし、現実感のある迷いを抱いた<五十嵐君>の存在が、ごく身近なできごとに感じさせてくれて、よい感じを受ける。
 そもそも人間の意識は、言葉というツールを使って、外に発するからこそ、ある程度、他者に伝えることができるのだ。
 草花や太陽は、人間ほど明解な発信をしないけれど、意識はきっとある。それは、受け止める側の感じる心によって、見えたり見えなかったりして、ある種、一方的な行為かもしれないけれど、具象的でないものを知覚することなのだ。
 うまくバランスが取れて、受けとめる側と、発する側の意識が融合したその瞬間、<五十嵐君>みたいに台風と恋ができるのだ。

 
  内山 沙貴
  評価:B
   夢と現実の境目がどれだけ曖昧なのか私は知らないけれど、この主人公を中心とする全ての物事は、呆れるくらいどっちつかずだった。中途半端な僕を悩殺するトロピカルな風子。非常識が氾濫して大洪水を起こし始めた日本列島。荒れた海。渦を巻く暴風雨。僕は中心値で巻き込まれながら、夢のような現実にいた。台風の目を臨む静寂の中、「きみ!駄目じゃないか、ここは立ち入り禁止だ」誰かが云う。僕はひどく悲しくなる。本当は自由に空を飛びたいのに、紐を引っ張られた風船みたいに。そして少しだけ秩序が回復した現実へと引き戻される。強引に。強制的に。適当に見繕ってある中途半端な世界へと。主人公と一緒に上空へと吹き飛ばされかける、変てこでぶっ飛んだお話であった。

 
  大場 義行
  評価:E
   とにかくラストが納得いかない! 気象情報会社のリーマンが、風さんという老人に呼び出される。そんな普通のスタートながら、南の島で謎の女性と恋におちる。しかもその女性は台風という設定。さすがこんな発想で物語を進める事ができるのは、薄井ゆうじくらいしかおらんと興奮しますよ。うおおっスゴイとどっぷり物語にはまりこみ、これは泣くんじゃないかくらい思っていたのに、なんというラスト。もう興奮して読みまくっていたのに、残念で仕方がない。こういうラストはある種反則っぽい気がしてならない。

 
  北山 玲子
  評価:D
   青年が台風に恋をする話だ。
 台風のような、ではなくて正真正銘の台風に、だ。しかし、相手が台風ってことを抜きに考えれば、青年が恋をしてそれと同時に人間的にささやかながらも成長していくオーソドックスな恋愛ものだ。天気を司るもの「気見」の末裔であるという老人が出てくることで神話的要素と、大型台風に成長した彼女が日本へ上陸するという壮大なホラ話がミックスされ不思議な雰囲気を醸し出す。ヘンな話はこれまでも読んできた。本書もSFのようでもあり、謎もあり、笑えるところもあり、いろんなエッセンスが入っていてそれなりに楽しい。けれど、冗談なのか本気なのか掴み所が無く、どう扱っていいのやら、わからん。ラストもイマイチだった。

 
  操上 恭子
  評価:C-
   はっきり言って、よくわからない話だった。普通小説のように始まり、途中からはファンタジー系なんだなと思ってずっと読んでいると、最後にきていきなり不条理物になる。えっ、だってそんなの理屈にあわないじゃん、と思っているうちに終わってしまった。わたしの理解の範疇を超えている。だけど、不思議な魅力があるのだ。こんなことがあったらいいなぁ、みたいな。願わくば、ファンタジーのまま、それなりの理屈を通して終わって欲しかったと思う。だってこれじゃ、収拾がつかなくなって、不条理に逃げたという風に見えなくもないから。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   思いどおりにならない女の子が好きという男の人たちって、何となく似てませんか。地味で好奇心旺盛で、優しいかと思ったら妙に頑固だったり。私の知っている狭い世界だけの現象かもしれないけれど。読み始めてすぐ、こりゃ、めろめろになるだろうなって顔が浮かんだ。台風娘(比喩ではない)という設定がまず秀逸。そして、出会いの場面がきらきらしてて最高。惜しむらくは、この素敵なシーンの期待値に、その後の展開が追いつかないこと。話がどんどん散漫になっていってしまう。台風との恋愛だもの。ふりまわされたあげく、おいてきぼりは当然だって? 件の男たちは、えーおもしろかったけどなーなんて、けろりと言ってのけるのかもしれない。

 
  山田 岳
  評価:A
   導入は山下達郎の「高気圧ガール」、クライマックスはニール・ヤングの「ライク・ア・ハリケーン」、そしてエンディングは村上春樹の初期3部作。で、わかってもらえる? 日本文学は「わたし」は他の誰もない<わたし>であると明治以来訴えつづけてきたが、はたしてそうなのか。文学の根幹に関わる問題提起をしていながら、まったくそうは感じさせない、娯楽性旬小説(変換ミスだ)娯楽青春小説。

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