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  ハードボイルド・エッグ ハードボイルド・エッグ
  【双葉文庫】
  荻原浩
  定価 730円(税込)
  2002/10
  ISBN-4575508454
 

 
  石崎 由里子
  評価:A+
   目にするだけで、思わず頬が緩んでしまうもの。人によって動物や花だったりするのだろうけれど、私の場合は言葉だ。本書は、読んでいて嬉しくなることの連続だった。全編を通して温かいユーモアがパズルのように散りばめられていて、次にどんな言葉がくるのか楽しみでたまらなかった。しかし、それだけではない。
 探偵業を営む主人公は、フィリップ・マーロウの受け売り言葉をモットーに、日頃から、格好よく生きたいと思いながら暮らしているのだけれど、いつもはずしてしまう。
 けれど、人間の格好よさとは簡単に身につくものではない。格好悪い経験を重ねて、格好悪い自分を知り、試行錯誤しているうちに、洗練されていくものなのではないだろうか。

 
  内山 沙貴
  評価:B
   主人公最上俊平。どことなく粗忽で荒削りな奴だけれど、滲み出る優しさはいつも裏目に出る。だから捻くれている。夕日を背に向けて気取るのは気障だけれど、俗っぽいのも似合わない。要するに、何をしても似合わない、上手くいかない。なんだか可哀相だと同情してしまう主人公である。ところでお話の内容はといえば、喋ってしまうと楽しみが逃げてしまう。だから良ければ読んでください。本は逃げない。本の中から滲み出てくるようなあったかい空気に触れて、寒空にさらされて冷えた体と心が温まる。優しくなくても優しさを感じてしまう、温もりを残した恋人のオーバーみたいに、あったかいハードボイルドのお話であった。

 
  大場 義行
  評価:D
   萩原浩の事だから、今回もたっぷり笑わせていただきましょう。たっぷり泣かせていただきましょう。と期待して読み始めると、どうもいまいちパワー不足。これはやりすぎだろう的な雰囲気もなく、これは泣いちゃうでしょうというものもない。いや、どちらかといえば泣かせようとしてはいるが、しがないペット探偵という設定や、泣かせる要素がありがちで、ダメという感じだった。ぐちゃぐちゃの話から、突如飛び出してくる予想外の展開、うーん、イメージ的には、ガードしていてもえぐるようにはいってくるパンチが無かった。まあ、これはありがちな話といえるかな。

 
  北山 玲子
  評価:A
   ハードボイルドの世界に憧れ、探偵になった男の物語。日常をハードボイルドに生きようとすればするほどそのギャップが可笑しい。小説のような事件はもちろん起こりもせず、実際の依頼は犬猫探しばかり。しかしある日、犬猫探しから本物の死体を発見してしまう…。本書の魅力はなんといってもダイナマイトボディ?の美人秘書・片桐綾。クールでシブくて、カッコいい。
「体は小柄で、華奢ですっ」
 と、衝撃的に登場する片桐綾の物語と言い切ってもいいほど、片桐に笑わされ、泣かされる。はっきり言って主人公は綾に完全にくわれているぞ。
『母恋旅烏』を読んだときもそうだったけれど、こんなベタな笑いと泣きに屈服するもんかと思いつつもやはり今回もハマッてしまった。

 
  操上 恭子
  評価:B+
   いったいこの作者はハードボイルドを愛しているのかバカにしているのか。いや、きっと両方なんだろう。そんなことを思いながら読み始め、イグアナの死に涙しているうちに、綾の魅力にどっぷりはまり込んでいた。元気な婆さんというのは21世紀の社会現象だから、それを先取りした小説は多い。だけど、ここまでスーパーなハイパー・バーチャンは珍しいだろう。その婆さんパワーに翻弄される若者を語り手に配したことで、読者も綾さんの素晴らしさに参ってしまわざるをえないのだ。この作者の作品を読むのはこれで2冊目だが、是非他の物も読んでみなければ。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   いつかテレビで見たような、誰かに借りて読んだことがあるような、著者が書くのはいつだって、そんな、笑えてちょっと泣ける物語だ。陳腐になるかならないかは、紙一重。毎回毎回、危ない橋を渡る著者だなあと感心する。で、今回はというと、やや陳腐でした。なんせ、主要キャラが、勘違いハードボイルド・ヒーローと、トンデモ秘書なのだ。愛すべき人々ではあるが、読者の予想を裏切って、動かすには確かに限界があろう。それにしても、こうくるかなという所に笑いがきて、こうくるかなという所に泣きがくる。あまりにも、予定調和的。笑いがベタなのはよしとするが、泣きはいかんね。もっとも著者は確信犯なのだろうけれど。

 
  山田 岳
  評価:B-
   『母恋旅烏』が強烈だったので、あのイメージで読み始めるとスカを食らうかも(^-^;) というのも、ハードボイルドを気取っていながらはずしまくっている<探偵>てのが、なんだかありがちな設定で笑うに笑えない。対照的に、この主人公にツッコミをいれまくる<助手>のおばあちゃんが、なかなかのキャラ。<探偵>の仕事が実は行方不明のペット調査なのだが、そこに犬をつかった<殺人事件>が起こる。ようやく話が出そろった、と思ったらもう半分まできているではないか! 結末はちょっと悲しい、あたりが日本的ハードボイルドなのかな。

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