年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     
今月のランキングへ
今月の課題図書へ
(上)
(下)
 
  唇を閉ざせ 唇を閉ざせ
  【講談社文庫】
  ハーラン・コーベン
  定価 (各)1,040円(税込)
  2002/10
  ISBN-4062735644
  ISBN-4062735652
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
   冷たい日差しを湖面に落とし、キラキラ光る幻想的な音楽をそよと吹く風が奏でる。人気のない森の奥、大きな湖のほとりで交わす、2人だけの祝福の時間。木々が陽を遮る影。突如現れた真っ黒い悪魔。そして世界が静粛が反転し、悲しみの闇へと閉ざされる。最愛の人を失って気力を無くした主人公が8年目にして気付くワナ。Tell No One.そんな神秘の言葉に支配されながらも主人公を取り巻く非現実的な虚構はハラハラと静かに壊れて、その先にある天国みたいな安らぎを与える。よそ見をさせない確かな筆力でアクションのはてにあるロマンティックな結末を演出している。恐怖が安らぎへと変わる快感。先がまったく読めないスリルと、ダレない安定感があるサスペンスミステリであった。

 
  大場 義行
  評価:C
   妻を殺され、ぐったりした人生を過ごしていた男が、もしかすると妻が生きているかもしれない! とあれこれ動きだせば様々な陰謀が見えてくるという、まあこう書けば普通なのだが、妙に甘ーい感じのする物語だった。主人公と妻しか判らない言葉で暗号めいたやりとりをする、愛しているから仕方がないわ。と、そんな甘い事ばかり。FBIやら殺し屋やら総動員をしてはいるものの、これは完全にエンターテイメントの皮をかぶった、甘ったるい物語。なんだかなあ、こういう物語で愛してるって連呼されてもなあ。ちょっと事件や謎よりも恋愛重視の物語だった。

 
  北山 玲子
  評価:B
   八年前に死んだはずの妻から届いたメール。小児科医ベックはそれを機に何者かの陰謀に巻き込まれていく。ここには幾組かの親子の様々な形が描かれている。親と子のお互いを思いやる気持ちが少し痛い物語だ。しかし、主人公はいまいち好きにはなれないタイプ。お気に入りは殺し屋エリック・ウーだ。掴み所がなく何を仕出かすのかわからない怖さがあり、なんとも不気味な雰囲気の男。ウー主役の作品を是非読んでみたい。そしてもう一組、ベックが診ている血友病のTJとその父親で麻薬密売人タイリーズとの関係もなかなかジーンとくるものがある。さすが『ウィニング・ラン』で父と息子の感動的な心情を描いた著者ならでは。タイリーズの息子に対する想いは唯一ジーンとくるところだった。

 
  操上 恭子
  評価:B
   インターネットやEメールといった現代的な小道具を使い、パワフルなレズビアンの有名モデルや有能で超大物の女性弁護士という今風の登場人物を配しながら、テーマは夫婦や家族の愛情や巨大な悪の組織(?)といった昔ながらのものである。そのミスマッチが本書の魅力かもしれない。ちょっと過剰ともいえる人間関係の濃さがうまく中和されているのだから。幾分ご都合主義的なところはあるが、最後まで一気に読ませてしまう力のある作品。エリザベスがあまりにも優秀過ぎる気はしたが。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   読んでいる最中は面白くて、一気読みだったのだけれど、ラストは何だかご都合主義にうまいことおさまってしまって、すぐさま醒めた。娯楽小説とはいえ、もう少し余韻を楽しめないとさびしい。殺されたはずの妻を思う夫の気持ちは切なく、さらには、真相をたどるために思い出をなぞる作業がその切なさを倍増させるしかけ。一体この切なさはどこへ消え失せたか。レズビアンのモデル、子煩悩の麻薬の売人等、魅力的な脇役たちも、ラストは何故か影がうすい。ぜひともフォローがほしかった。蛇足ながら一点。なぜこの厚さで上下本、しかも高い。二段組にでもして1冊におさめたら、同じ値段で、ハードカバーが作れるのでは?

 
  山田 岳
  評価:A
   8年前に死んだはずの妻が生きている!? とんでもないところから話がスタートするが、最後まで読者をぐいぐいひきつけて離さない。8年前は妻を救えなかった主人公が今度はからだをはってリベンジ! あっというまに読み終えてしまった。でも、価格を本の厚みだけで考えると、作者の儲けすぎという気がしないでもない(^-^;)

□戻る□