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  黄昏のダンディズム 黄昏のダンディズム
  【佼成出版社】
  村松友視
  定価 1,680円(税込)
  2002/10
  ISBN-4333019745
 

 
  大場 利子
  評価:C
   書いているあなたが、実は、一番ダンディ。
「この人のダンディズム」として、植草甚一なら「服装、趣味、生き方すべてに完璧なスタイルのある自由人」、幸田文なら「何かを思いついてこれから口走ろうとする直前の、短距離走者のスタート時のような目」、嵐寛寿郎なら「鞍馬天狗のおじさんから仁侠映画の老やくざまで幅広いセンス」と、巻末に著者のおまけが付いている。なぜこの一文を付けられるか。その経緯と敬意が本文に。
 この世に生きた人のことを、知ることは楽しい。たとえ真似も目標にも出来なくとも、知っている人からその人について教えてもらうことは、とても幸せなことだと感じた。
 この本のつまずき 奥付が最後の頁。いっさい無駄のない本づくり。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   ダンディイズムではなくダンディズムである。ぼくの使っている三省堂の『辞林21』には「ダンディズム」しかのっていなかったけれど。日本語でいう「伊達者」も、「粋」と比べたら使用頻度が低い気がする。ともあれ、こういう本は、そのラインアップの意外性がすべて。元編集者の村松友視の本領発揮か、トップに藤原義江をもってきたのはさずがに渋い。ぼくも、藤原義江は、切手(文化人シリーズ)になって初めてすごいスターだったのだと知った。それぞれのダンディズムについての村松流発掘は、当時の記事紹介などをまじえ客観性を保ちつつ、「苦難がエキスとなった偉大なる粋人」などなど、個人的な思いを凝縮して表現する。幸田 文、武田百合子という女性にも、ダンディズムを見出す。みんな死んでしまった今、こうして残しておかないと、そのカッコよさも語り継がれないのだろう。生きているダンディズムを感じるのは、もっと貴重な体験だ。「俺ヨシユキだけどさあ、会社辞めても電話かけてきていいんだぜ」 こんなふうに言ってもらえる編集者に、ぼくもなりたい。

 
  新冨 麻衣子
  評価:C
   「話す歓び、聞く苦しみ」という名言をある大学教授から聞いたことがある。いいこと言うなあ、と感心したものだ。そしてその教授の講義はとてもおもしろかった。この言葉を、全国のスナックで昔の自慢話を部下に語るオヤジたちに聞かせたいものである。そして「昔はこんなダンディな人たちがいたんだからね。そしてその人たちと僕はお付き合いがあったんだからね。いいだろいいだろ。」という雰囲気のこの本にも。家族でも友達でもなく「仕事上の知り合い」レベルの付き合いであったなら、対象をもう少し突き放して語ってほしかった。中途半端な主観が強すぎて単なる思い出話になっている。佐治敬三(元サントリー会長)の一周忌を偲ぶコンサートを見て「文化の奥底には、やはり人間があったのだと思った。」と、一体著者は文化をなんだと思っていたのだろうと突っ込まずにはいれない箇所もあったりして、ため息の出る本なのだ。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   ふう、「黄落や昭和も遠くなりにけり」ってとこだねえ。ダンディズムという言葉さえもう死語になりそうな、ましてや生身のダンディを見たこともないこの頃のせいか、語られる12人全員が物故者のせいか、一節一節まるでレクイエムの調べ。「黄昏の」という形容には、「ダンディズム」自体がもう滅びに瀕した美意識であることへの哀惜の情がある。と、同時に真のダンディは人生の黄昏時、つまりその老年に至り、棺のふたが覆われた後、回顧されるところに真骨頂があるという矜持もうかがわれる。生身が失われた後の、その声、なにげない一言や仕草、姿勢、その生に培われてきた諸々のうち最も滅びやすいものの中にこそあった輝きをすくい上げるのに成功している。だが、というべきか、だからというべきか「食い足りない」読後感を持った。生身の交流のあったその心の距離が近かった吉行淳之介のことなどもっと書きたいこと一杯あるでしょう。こっちももっと読みたいわよ。

 
  松本 かおり
  評価:B
   作家・村松友視氏が「ダンディズム」を軸に、声楽家・藤原義江氏を筆頭に俳優・嵐寛寿郎、小説家・吉行淳之介など、大物12人の人生を語る。ダンディズムに通じる「凛としたもの」を感じさせる、として、幸田文、武田百合子の女性ふたりも登場、バラエティに富んだ人選である。モノクロ肖像写真の表情もいい。シワもシラガも生き様のうち、年輪を感じさせて渋い。
 晩年の藤原義江氏は、「歯を食いしばるようにして壁を伝い歩き、断乎として車椅子を拒否」し続け、「高いからって旨いってもんじゃない」とは食通として知られた山本嘉次郎氏の弁。「自分が死んだら茶箱とトランクの中身を焼くこと」と遺言した随筆家・武田百合子氏。太平洋戦争の空襲に、エッセイストの植草甚一氏は「新宿の街の焼ける火の色、きれいだったですねえ」。
 ダンディズムの表現は人それぞれ。確固たる美意識に裏打ちされた品格ある人生の数々は、生き方モデルとして刺激的だ。ひとりあたりの量は18ページほどで、進行は少々駆け足気味。

 
  山内 克也
  評価:C
   藤原義江から吉行淳之介まで、紹介されている12人の人物についてリアルタイムで知っているのは2、3人しかいない。名前だけならば、マスコミを通じ華麗なる履歴を読んだり見たりして頭の隅に残っている。地方に住む者からみれば、この12人は中央の文壇や舞台で活躍し、その生き方に「あこがれ」を感じさせる人物ばかりだ。憧憬する人物のダンディズム。田舎者には、かっこよく生きるための一つの指針となる、はずだった。
 結論から言えば、12人はとんでもない連中ばかりで、まねをしようにもできない。女性と別れるたび家屋敷を手放す嵐寛寿朗。雑巾ひとつの絞り方まで文豪の父から厳しく教えられた幸田文…。かれらのダンディズムは、逆境の果てにあみ出された所作にあるようだ。タイトルに「黄昏」と枕言葉が付くあたり妙味がある。人生の終わりに自らを“輝く結晶”とするためには、有名無名かかわらず「自分の流儀とは何か」を、生涯を通じて考え続けることだろう。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   男の格好良さとか、価値はどこで決まるのだろうか。若さ、ルックス、やさしさといったところか。それだけしか知らないのでは人生の半分は損をしている。世の中には、もっと格好良い男たちが存在するのだ。
 内面からじんわりとにじみ出るような格好良さや、美しさにふれたとき、女だけでなく、男も男に惚れるのだ。
 本書は、己の美学を貫く魅力あふれる者たち、植草甚一、幸田文、吉行淳之介ら、12人の足跡にふれることのできる魂のファッションである。じっくりと読んで、粋でいなせなファッションを着こなしたい。
 老いの中で増してくる色気や、しゃんと背筋の通った凛とした生き方、不良中年の粋な雰囲気が、軟弱な心にびしびしと突き刺さってくる。年齢を重ねるごとに磨かれていくものに卑屈になっていないところがいい。
 洒落た人生を送れる気にさせる一冊。センス良いねと言われたかったら、すぐ読むべし。

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