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  青い虚空 青い虚空
  【文春文庫】
  ジェフリー・ディーヴァー
  定価 870円(税込)
  2002/11
  ISBN-4167661101
 

 
  石崎 由里子
  評価:A
   アメリカのシリコン・バレーを舞台に、惨殺された女性の殺害状況から、警察とハッカーが頭脳を競い合う。
 しかし実際は、ハッカーと敵対する警察には、犯人を断定するだけのコンピュータースキルがない。そこでご登場願うのが服役中の天才ハッカー。
 現状を理解できていない警察があれこれ言うのが、そのまま コンピューターやハッキングに関する用語の説明になっていて勉強になるし、ストーリーはさほど複雑ではないので、新しい情報を頭に入れながら十分に楽しめる。
 何より、ハッカー同士の才能に対する憧憬や嫉妬が、戦いの熾烈さを加速させていて、迫力を感じさせる要因となっている。

 
  内山 沙貴
  評価:A
   虚空に投じた一石が、ゆるい波紋を広げていく。水たまりに落ちた一粒のしずくのように。ハリウッドの(弱点はあるが)無敵のヒーロー並みのタフな登場人物(お約束通り、誰かは倒れる運命にある)や、適度にインテリな(自分の頭が良くなったかのように錯覚させてくれる)テンポの良い会話、伝説を語るような壮大さ(但し登場人物の行動範囲からは出ない世界での壮大さ)などなど、あぁカッコいいと叫んでしまう。だが一番はめちゃめちゃに拡散した物語のキレイな収束であろう。描かれた既知と未知の事実を繋ぎ合わせると完璧な波紋の形の予定調和が浮かび上がってくる。投じられた石の入射角さえも定められた軌道に乗っている。とりあえずハリウッドのアクション映画好きが大喜びそうな小説だった、と云っておこう。(そして私も喜んだひとりである、と。)

 
  大場 義行
  評価:B
   このジェフリーさんはどこまで調べてから物語を書くのだろうか。科学捜査から筆跡鑑定、そして本書のハッカーまで、いやはやどうなっているのだろうか。案外と適当にコンピューターの場面は誤魔化すのかなと思っていると、専門用語の嵐に巻き込まれてギブアップしたくなるほど本格的。しかも内容はジェフリーさんお得意のこいつが犯人なのか! 裏切りものはこいつか! ぜんぜん違いマースというどんでん返し付きで無我夢中。ぶっとい本だけれども一日で余裕で読めます。なんだか、ジェフリーさんはエンターテイメントの帝王になりつつあるのでは。次はどんな職業ものを書いてくれるのかと期待しております(まずはライムシリーズの続刊が読みたいけど)。

 
  北山 玲子
  評価:B
   電脳世界の虚空に浸りすぎた男は、やがて現実世界でネットゲームを繰り広げる。ターゲットに気づかれないように接近して、仕留める。警察は、ハッカーの連続殺人犯を追跡するにはハッカーが必要と入獄中のジレットという男に協力を要請する。
 まるで自分もその場でハッキングしているような臨場感があり、相変わらず読ませる。コンピュータ用語の半分以上わからなくても読めるから不思議だ。読み終わった後、自分もいっぱしのハッカーになっているような錯覚を起こす。「いつか自分もウィザードになってコードスリンガーと呼ばれてみたいよね」なんて、覚えたての言葉を自慢げに使い、意味不明な会話をしたくなる。逆転、逆転の連続で面白いけど、ここまでひねらなくてもいいんじゃないの?とも思う。なんだかいかにもハリウッド向きに作られている感じがして、果たしてそれがいいのか、悪いのか…。

 
  操上 恭子
  評価:A-
   さすがはディーヴァー。ページをめくる手が止まらないとはまさにこのことで、一度読み始めたら、一気に最後まで読んでしまうしかない。作者のミスリードに振り回されながら、随所にある大小のクライマックスにハラハラし、読み終わってみると主人公ジレットの虜になっている。小説の中の天才というのは、どんな分野にしろ魅力的ものだ。ジレットなんて、きっと実際にいるとしたら近寄りたくもないようなオタクに違いないのに、本のなかでは本当に格好いい。すっかり惚れ込んでしまった。他の登場人物たちも、それぞれに個性的で、魅力がある。アンディなんかもかなり好きだったんだけどな。コンピュータの描写では、ドスのプロンプトとか青い画面とか、一般のパソコンユーザーにはもうあまり縁のなくなったものが出てきて、なんとなく懐かしい気がした。

 
  佐久間 素子
  評価:B
   ディーヴァーの新作は、ハッカー対決物だ。冒頭の用語解説で、読む気を無くしかけるものの、物語に入ってしまえば、こっちのもの。裏の裏の裏まで読んでも読みきれない、丁々発止の対決に最後までどきどき。それにしても、これはいったい荒唐無稽な話なのか、現実と隣り合わせの話なのか、私には判別がつかない。思想もなく、しくみも知らず、便利に使っているつもりが、いつのまにか、使われている。くるりと逆転した構図に気がつかないというのは、ありそうな話ではないか。ああ面白かった、ですまされない得体のしれない怖さが残る。この小さな箱の中に、神も魔物も棲んでいる。人は何と遠くまで来てしまったのだろう。

 
  山田 岳
  評価:AAA
   過去を消して理想の経歴を創作したい。人は時としてそんな衝動に駆られる。これまではそんなことができるはずもなかったが、すべての個人情報がデジタルファイルされるようになったらどうか。戸籍を改ざんし、学校の成績表を改ざんする。ハッカーならば不可能ではない時代になるのではないか。著者はそのことに着目した。架空の経歴を持つハッカーが現実の世界までもバーチャル・リアリティのゲームにしてしまった犯罪小説。犯人逮捕に挑むのは、やはり犯罪をおかして収監されていたハッカ−。ネット上のアクセスルートの逆探知など、表現不可能とおもわれることを書いてしまった著者の力量にも舌を巻くが、なにより小説自体がひとつのRPG(ロール・プレーイング・ゲーム)のようだ。

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