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  ビッグ・レッド・テキーラ ビッグ・レッド・テキーラ
  【小学館】
  リック・リオーダン
  定価 1,901円(税込)
  2002/12
  ISBN-4093562725
 

 
  大場 利子
  評価:B
   「若くておろかだった僕らは、しこたま酒を飲み、テキサス州ブライアンの放牧場で、脚を折り敷いて眠っている牛を押して坂を下らせ、牛の群れをおびえさせたものだった。」このどこが、モダン・ウェスタン・ハードボイルド(惹句)!
 保安官の父は誰に殺されたのか。リリアンはどうしていなくなったのか。自分は何の陰謀に巻き込まれているのか。物語はそれらを軸に進むが、それ以上のお楽しみがある。「典型的なお調子者の小学三年生が、ただ歳をとって肥っただけに見える」父や「顔は、記憶にあるとおり、なにもかもがちょっとずつ度を越している」リリアンといった具合に、全ての登場人物の形容が逸脱。他はこんなもんじゃない。食べ物の形容も素晴らしい。食べたくなる、とにかく。テキサスに行きたい。
 この本のつまずき→「ミッキーほどピルズベリー食品のパン生地坊やに似た人間はいない。」パン生地坊やが気になって検索中。

 
  新冨 麻衣子
  評価:C
   保安官の父が殺害されて12年、元恋人・リリアンの依頼で久しぶりに故郷に帰ってきたナヴァー。未解決である父親の事件の解明に乗り出すも、リリアンが誘拐されてしまう。なぜ彼女が誘拐されたのか?そして父親の事件と何か関連があるのか?二つの事件を追うナヴァーに、次々と危険が忍び寄る。スリリングな展開の連続で、予想外のラストまで目が離せない。だけど、ちょっとばかり翻訳が不親切であることに言及しておきたい。誇張や逆説的な皮肉をあまりにそのまま訳している感じが、どうにもなじめず、最後までつまずきっぱなしだった。小さなことなのだけど、「自分がどこにいるのかを思い出すのに、一年か二年かかった。」とそう感じただけ(実際は13時間)なのに、言い切られると、日本語としておかしいのでは…とどうも気になってしまうのだ。そういう箇所が多い。その他、大の大人が捨てぜりふに「フンだ!」って…。ただ読みづらかったって話ですが。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   ダーティなスラング、ジョーク乱発でもゲスくない。ドランケンなラテンテイスト結構イケてる。テキサスはサンアントニオ、勿論行ったことないけど、熱くて乾いた風や街の匂いまで伝わってくる。10年ぶりの帰郷は、父の死の真相解明や、昔捨てたはずの恋人からのラブコールがきっかけにせよ、ドライでワイルドなその風土が彼を引き戻したと言ってよい。過去を洗い出せば恋人は謎の失踪、汚職がらみの脅迫事件をたどれば次々おこる殺人事件の惨殺死体に直面。一銭にもならない上に命もヤバくなりそうなシュチエーションで警告無視、殴られ蹴られ留置所に放り込まれ、銃を突きつけられても全然懲りず、ずんずんズカズカ踏み込んでいっちゃうこのノリは何?タフと言うより無神経なマッチョバカじゃないの?でも、全然ヒロイックじゃない気取りのなさ、失うべき何物もないプータロ青年の恐れを知らないサバサバした強みがおもしろいキャラ作ってて読ませる。現代版「往きて還りしものがたり」ってとこかな。

 
  松本 かおり
  評価:D
   「染みは消えないのよ、トレス。これだけ長い歳月がたっても」「物事はうつろうのよ」。過去は過去でしかない。過去との訣別には、なにがしかのつらさがつきものだ。納得できるし、最後のシーンは悪くなかった。
 しかし、全体に歯ごたえがない。「僕」語り一人称の限界かもしれないが、会話が多く話の進行が早い分だけ、奥行感が犠牲になっている印象。血縁がらみのネタなら、グジュグジュ、ネチネチしたいやらしさ、狡さが露骨な方が面白い。主人公・トレスの、ユーモアとも皮肉ともつかない比喩や曖昧な言い回しもくどい。しかも、あまり知的な感じがしないので、主役男性として見ると魅力薄。
 カタカナ・ルビも目障りだった。できるだけ原書の雰囲気を伝えたい、という翻訳上の意図だろうが、物語のキーワードでも何でもない言葉にまで、わざわざカタカナ併記する必要があるとは思えない。

 
  山内 克也
  評価:D
   太極拳を使いこなし、赤色系のフォルクスワーゲンを乗る主人公が、正義感たっぷりのカゥボーイに思えた。舞台となるアメリカ南西部では、こうもタフな探偵に仕立て上げないといけないのか。
 故郷へ帰ってきた主人公が、十数年前父を殺された真相と、町の汚職事件がらみで失踪した元恋人を追う。二つの事件に共通点を見出そうと主人公が動き回るが、単純なプロットなのに、えらく紙数を費やしている。ギャングの家の描写とかテキーラの酒の味については書き込む割には、主人公がこの時期になってなぜ父親殺しにのめり込むかなどの動機的な意義の説明がしっくりこない。ケレン味だけが残るハードボイルドだった。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   最近のアメリカの探偵小説は、復讐ものが多い気がする。単なる思い過ごしだろうか。
 さて、本書も純粋ではないが復讐ものである。保安官の父を殺され故郷を捨てた主人公ナヴァー。十二年後、当時の恋人リリアンの依頼で帰郷する。再会も束の間、彼女は失踪してしまう。彼は父の殺人と、リリアンの足取りを追って街へ向かう。
 街を闊歩する登場人物は、ファンキーでクレイジーなやつらばかりだ。こんな物騒な街には住みたいとは思わないが、小説の中なら大歓迎である。乱暴な話が好みならつぼにはまる話しかもしれない。
 謎解きに気の利いたひねりや工夫はないが、躍動感あふれる人物描写とテンポの良い会話で最後まで一気に読めてしまう。雰囲気の良さで読まされてしまう感じだ。
 ナヴァーの中途半端で、何となく垢抜けない感じはマル。ボリュームのある小説もいいが、読みやすい分量も個人的にはマルである。

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