年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
      
今月のランキングへ
今月の課題図書へ
(上)
(下)
 
  終戦のローレライ 終戦のローレライ
  【講談社】
  福井晴敏
  定価 (上)1,785円(税込)
  定価 (下)1,995円(税込)
  2002/12
  ISBN-406211528X
  ISBN-4062115298
 

 
  大場 利子
  評価:C
   ローレライとは?タイトル見ても、読み始めても、なんだなんだ状態。ローレライを知りたいという思いだけで、物語の中に入っていけた。前半、海のものだからか、その名もローレライと呼ばれているし、女性形容詞で表現されて、著者のそれに対する熱い思いがほとばしって、お尻がむずむずする。
 戦争ものは苦手だ。海の話は理解出来ない。男の世界の話はもういい。そうやって、つまずきそうになった時、天から手が伸びてくるような配慮を感じた。分かりにくい話をわざわざ難しく書かないでいてくれた著者と、登場人物をピックアップしてくれたメモのおかげだ。潜水艦や兵隊や戦争が出てきたとしても、戦争ものと決めつけられない物語。
 ●この本のつまずき→カバーも表紙も中扉もツルツル。気持ちいい。

 
  小田嶋 永
  評価:AA
   柴田錬三郎は、その戦争・漂流体験から、戦後日本人の精神の再生を、眠狂四郎というニヒリストとして創造させた。1968年生まれの本書の著者が、第2次世界大戦とは日本人にとって何だったのかを問い、戦争の渦中で極限の生を生きる人間を描こうとした勇気と姿勢を、まず評価したい。戦争の悲惨さを知識としてもち、戦争を忌避すべきものという理解がありながら、ぼくたちは、戦艦や戦闘機などにかっこよさとか憧憬に近い感情をもち、通過儀礼のようにプラモデルにはまり、戦記マンガを読みふける時期をもつ。そういうかつての少年の心を、激しく揺さぶる物語である。海底に沈む特殊兵器「ローレライ」の回収、「あるべき終戦の形」を成し遂げるための極秘任務につく潜水艦・伊507。日米のあやうく、最悪の犠牲を伴う密約に翻弄される「ローレライ」と伊507、その乗り組み員の運命は、そのまま日本という国の運命の綱を握っている。終戦という歴史的事実を、これだけ伝奇性豊に、スペクタクルに描いた物語があるだろうか。日本という国を救うために苦悩する軍人、死ぬ意味を見出そうとする兵士、「あるべき終戦の形」とは、それは真に日本人が受け入れるべきものなのか。伊507に乗り組んだ「規格外品」の男たちの闘いの結末は!?

 
  新冨 麻衣子
  評価:AAA
   第二次大戦末期の日本、ある若き兵隊・折笠征人を含めた兵隊たちが各地から極秘裏に招集され、ある任務が命じられる。それはドイツ海軍が海底に落とした特殊兵器・ローレライを回収すること。この作戦を指揮する謎の男・浅倉の本当のねらいは何なのか?そして“敗”の文字が目前に迫る日本はどこへ行くのか?死にゆくものたちの「なぜ」という叫び、生き抜くものたちの「なぜ」という悔しさ。悲惨な戦況のリアルさに背筋が凍る思いをし、仲間を思う気持ちに胸が痛くなり、名誉やたてまえを無くしてでも何かを守ろうとする姿に目頭が熱くなり、あまりに理不尽に人の命を奪う戦争という存在に唇をかむ思い。その筆力に拍手するとともに、一人でも多くこの本を読んで欲しいと願う。戦争はバーチャルではない。たった50数年前、短期間にあまりに多くの他国民を殺し、自国民を失った日本だからこそ、あの戦争を絶対に忘れるべきではないのだ、と強く感じた。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   敗戦国ドイツ海軍の秘密実験艦「シーゴースト」は日本の戦利潜水艦「伊507」となり、秘密裏にどこやらわけありげな「帝国軍人としては規格外品」艦員ばかりを寄せ集め、特殊兵器「ローレライ」の回収に乗り出す。その秘密兵器の正体は、これが終戦工作の取引材料になるような兵器(?_?) と意外。又「伊507」に出撃命令を下した司令浅倉の「この国が迎えるべき終戦の形」、上巻では理路整然として期待を抱かせた論理が、下巻の具体策となると狂気の沙汰で、えーっ??でも、人物はその一人一人の相貌や存在感が、死と隣り合い生の意味を問うて克明に描ききられている。苦悩を背負いながらも耐え、苛酷な状況下で支え合い、闘い、限りある命を生ききった人たち!字数制限があって一人一人書けないのが残念。「鳥の将に死なんとするやその声悲し、人の将に死なんとするやその言良し」、その生の限りを生き死んでいく場面場面、胸に迫り、涙ぐまずにはいられない。かっての戦争の愚はより悪い形、「律儀さ」さえ失い、欲望や不安をコントロールする倫理観崩壊となって、今に繰りかえされようとしているという戦慄を感じさせる。圧倒的な読後感だ。

 
  松本 かおり
  評価:AA
   我を忘れて読みまくった。心に染み渡り、腹に響く充足感。この熱く膨れ上がった感動は期待以上。まんず黙って読んでみておくれい。2段組上下巻で千ページ余。あんたに惚れた!と言いたい超大作である。
 カバーも美しい。少々宣伝文字がウルサイ帯をはずせば、透明感あふれるブルーが眩しい海と空。デカデカとしたバーコードは邪魔。登場人物が1枚のカードにまとめられているのは、親切かつ粋な配慮と思う。
 エリート軍人街道を自らはずれた浅倉大佐が目論んだ、戦利潜水艦「伊507」による特殊兵器回収。すべては極秘裏に遂行、艦長の絹見少佐以下、集められた乗員は帝国海軍内のクセモノばかり。そして、かの特殊兵器ローレライ回収後、明らかになる浅倉大佐の野望。敵艦との壮絶な戦闘、17歳の折笠工作兵の精神的成長、乗員それぞれが背負った過去など、随所に読みどころが光る。 
「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実ひとつ」。大好きな歌が要所に登場して感涙。詩碑の立つ愛知県・伊良湖岬を、またツーリングしたくなった。

□戻る□