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  リスク リスク
  【世界文化社】
  井上尚登
  定価 1,365円(税込)
  2002/12
  ISBN-4418025308
 

 
  大場 利子
  評価:C
   雑誌「Men's Extra」に連載されていた短篇三作。
 株をすると、リスクが発生。家を買ったら、子供を私立高校に通わせられないリスクが発生。そんなの、当たり前。今さら、そんなこと、リスクなんて堂々と言うか…。宝くじを買うのも、リスクがあるって言い出しかねない。などと、突っ込みどころ満載でも、あまりに現実的で明日にもわが身のようなリスクの連続に、落ち込む。でも、「Men's Extra」の読者であろう働き盛りの男達に、余計な不安をあおり、消費意欲を減退させたら逆効果なので、ほっと暖まるラストの用意。それに見事にはまって、ほっとする自分がイヤだ。
 ●この本のつまずき→「純粋なスリーセブン」の意味が分からず、三篇目『十五中年漂村記』のラストが理解出来ない。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   『T.R.Y.』の映画化で、その原作者として注目を集めている井上だが、本書は、まったく違う世界、ごく日常的なサラリーマンの生活を描く短編集。「お金持ちになる方法」「住宅病」は、それまで自分には関係ない、興味がないと思っていた、株と住宅情報に振り回される話。短編という制約上、話をはしょらざるをえない。で、話の顛末もつけてしまうので、少しでも、株と住宅購入にかかわりをもつ人ならば、共感できるところは少なからずあるのだがどうということもない。「住宅病にかかると、たまっていくのは情報だ」 まさにそのとおり。「マンガでわかる株」「マンガで読む家の建て方」のような実用書的な小説でもなかろうが。「十五中年漂村記」が、本書のなかでは、話としては面白かった。リストラにあった中年社員、かつては仕事や会社に夢と希望をもっていた面々が、会社から「棄てられる」。その中の一人が作ったロボット「テツジン」も、同じ憂き目にあうのだが。

 
  新冨 麻衣子
  評価:A
   私たちの世代は、日本の経済が好調な時代を知らない。だけどこの数年の日本は、本当にひどかったと思う。政治家、公的機関、企業、銀行の不祥事隠し、倒産件数は過去最高。日本という国を信じろというほうが無理。ひょんなことから株をはじめたサラリーマンの「お金持ちになる方法」、社宅の取り壊しからはじまったある家族のマイホーム騒動「住宅病」、リストラを目的とした左遷に立ち向かう会社員の「十五中年漂流記」。家族を持ってないし、経済にもあまり興味の無かったわたしには、かなり考えさせられる小説集だった。というか、政府は国民の現状なめてるんじゃないの?という怒りで『経済ってそういうことだっかのか会議』(佐藤雅彦・竹中平蔵著/日本経済新聞社)まで買ってしまったほどである。ちょっと人物設定がステレオタイプだったり、ラストが甘いが、OKです。だってリアルな現状以上の悲惨はいらないよ。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   リスクを避けるのが賢明、堅実とされる時代ではない。既存の生活にしがみつくのは、沈みかけた船に乗ったまま何とかなる、誰かが何とかしてくれると思っているようなもの。その、無知、怠惰、無責任のつけを払わされる段になって、被害者面で泣きつこうにも、負け組のレッテルを貼られ、バカ扱いされるだけ。 ま、リスクの何たるかも知らず、対処も考えず、選択することなく、いたずらに怖れ汲々とする惰弱な精神こそが、リスキーな状況をより深刻化させるという実用啓蒙書のような小説でした。具体的には、平凡な一家の働き手である30代サラリーマンが株や、家を買う、リストラされるという事態の中で、いろいろなトラブルから学習し、リスク耐性、人生の選択眼を身につけていくというお話。 所詮沈みかけた船でジタバタしてもしようがない、さっさと見捨ててたとえ小さくても次の船で漕ぎ出せる若い世代はいいけれど、それより上の世代って、やっぱり沈没かなあ?今度は50代を主人公に書いて欲しいね。

 
  松本 かおり
  評価:C
   「リスク」という言葉の辞書的な意味「危険、危害・損害の恐れ、冒険、賭け」にとらわれて、「何かスゴイこと」を期待して読むと拍子抜けする短編集。
 3編の登場人物たちの「リスク」とは、どれも日常的なことである。オンライン証券で株を買う、子供の進学のために家を買うのをあきらめる、理不尽なリストラに抵抗、逆襲する。著者・井上氏いわく「普通の人の普通のリスクを考えた」「たぶん、リスクは怖いものではないんですね」。 
 なるほどなぁ、とは思うが、スリル感不足で物足りなさが残る。読後のほのぼの感と「リスク」という言葉のイメージ・響きとのギャップに、どうもなじめないのだ。特に冒頭の「お金持ちになる方法」は、結末があまりに都合よくまとまりすぎて脱力。いきなり「神様」が登場しても困ってしまう。「十五中年標村記」が面白さでは一番だろう。
 ページ左端に、ちっちゃく「RISK」の文字を入れたり、ノンブルを中ほどに打ったり、細かいことだが見た目に変化があるのは楽しい。

 
  山内 克也
  評価:C
   株、マイホーム、リストラ。この3つのテーマを、生活に潜む「リスク」を抱き合わせ短篇形式にうまくまとめている。
 特に「住宅病」の話では、社宅が廃止となり、「我が家」を探すことになった主人公の会社員が政府主導の住宅公庫制度を真っ向から批判する。会社員は金の用立てを目論むうち、疑問が浮かぶ。「でも、なんで国は家を買おうとする人に貸してくれるのだろう」。家を持つなら借金は当たり前、の感覚は以前の話だ。ローンを組んでも将来仕事がなくなるかもしれない。かえって最悪の「人生のリスク」を抱え込むことになる。この主人公の疑問は、持ち家を望むニッポンサラリーマンの共通するリスキイな事項かもしれない。各篇とも生活者の観点から「リスクとの関わり」を描き、説得力を持つ。ただ、「リスクとは何ぞや」を説明しすぎて、物語自体に緊迫感がなかった。

 
  山崎 雅人
  評価:C
   堅実そのものだと思っていた亡父の貯金が突然消えた。マイホーム探しに熱中する夫婦と反抗期の子どもの前途は。リストラ技術者に巻き返しはあるのか。
 日常生活の危機に直面した男たちの姿を、軽妙なタッチで描いた短編集である。突然おとずれる人生の転機。ありがちなテーマながら、現代の病理やオンライン証券といった小道具を巧みに織り交ぜ、テンポ良く読ませる。
 スリリングな展開は無いが、ほのぼのサスペンスといった感じで好感が持てる。中年おやじの小さな心の動きを見逃さず、ひとつのドラマに引き上げている所はさすがである。
 不満は問題解決の仕方がやや強引なところ。もうすぐ終わるな、という感じがすごく伝わってきて気持ち悪い。それも笑って許せるレベルではあるので良しとしておきたい。
 人生につまずいた時、最後の頼りはハートである。最も待ち望んでいる、想像通りで定番の結末が、心に深くしみ入るのだ。

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