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  抱擁 抱擁
  【新潮文庫】
  A・S・バイアット
  定価 (各)940円(税込)
  2003/1
  ISBN-4102241116(上)
  ISBN-4102241124(下)
 

 
  高橋 美里
  評価:B
   秘められたものほど、魅力的なものはない。この作品に描かれるのは100年前の詩人と作家の愛とそれを研究する2人の現代の学者。物語は2人が過去を辿ることで進んでいきます。とても素敵なロマンスという雰囲気かと思いきや、歴史ミステリとも読める作品。上下巻なのですが外文苦手の私が一気読みしてしまいました。

 
  中原 紀生
  評価:AA
   「此処は全てが二重の世界」。女流詩人クリスタベル・ラモットの「水に沈みし都」に出てくる詩句が、この作品のすべてを語っている。──作者は自作を「灰色のクモの巣のようなわたしのパリンプセスト」と呼ぶ。パリンプセストとは、一度書かれた文字を抹消して重ね書きされた羊皮紙のこと。ヴィクトリア朝詩人の秘められたロマンティック・ラブと、「もはや愛という言葉を口にすることはない」現代のポストモダンな性愛が、手紙や日記、詩、幻想譚といった様々な架空のテクスト(クモの巣)群にことよせながら重ね書きされたこの作品は、その原題(POSSESSION)自体がもつ三つの意味、つまり悪魔的な力(取り憑かれた状態)と経済的所有と性的含意のすべてを錯綜したかたちで展開しきった、まれにみる方法意識に貫かれた小説である。歴史ミステリーとクエスト(探求冒険譚)と性愛小説と「パロディー」とが渾然一体となった、まことに大仕掛けで、しかも小説を読む愉しさを堪能させてくれる薫り高い雄編だ。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   設定もキャラクターも陳腐といえば陳腐、ありがちといえばありがち。展開はすぐ予想できて、その通りにストーリーは進みます。作文の授業のような逐語描写に過剰な注釈…。世話好きな翻訳にちょっと苦笑しますが、一方でいっさい注釈の入らない詩人たちが登場します。その奇妙な対比が意外にも物語をすっきりと見せているようです。詩や書簡の引用がいかにも見せびらかすという書き方なので、逆に全面的に創作された世界に安心して没入できたのでしょう。『月と6ペンス』の様に物語世界に真実味を与える撒き餌だと気付いて、がぜん面白さを感じ始めました。古典を装いながらも挿話にはどことなく現代的な作者の主張がもぐり込んでいるようで、アリーテ姫のように再構築された古典風味に、ニヤリとさせられることも何度もありました。神話や英文学に造詣がないのでどこが重要なのか読み解くのに苦労し、だらだらと長すぎる印象もあります。説教臭い気もします。

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