年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
     
今月のランキングへ
今月の課題図書へ

商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
 
  さみしさの周波数 さみしさの周波数
  【角川スニーカー文庫】
  乙一
  定価 480円(税込)
  2003/1
  ISBN-404425303X
 

 
  池田 智恵
  評価:C+
   「世にも奇妙な物語ノベライズ」みたいな感触の本でした。(我ながらものすごく適切な例えだと思う)4本短編が収録されていますが、アイディアを楽しむミステリーではなく、「切なさの感触」を味わうための話ですね、どれも。読みやすくてすっきりした印象で、特に雨の日の情景の描写や、青空の感触の描き方には好感が持てました。でも、女の子の造形がちょっと平坦で、深みがないのが残念。交通事故で脳と右手の感覚を残して植物人間になってしまう人の話が淡々としていて哀しかった。

 
  延命 ゆり子
  評価:A
   様々なジャンルの短篇が四つ。秀逸なのは『未来予報』だと思う。「イイ話」ではあるのだが、根底に漂うのは、虚無感、である。小学校のときにある女の子と結婚する未来を予報されるフリーターの「僕」は、その女の子を意識しながらも何も行動を起こせない。何もできない自分がみじめで、将来が不安で、自分がこれから今以上豊かになることも無いことを多分知っている。しかし、彼女との短い交流の思い出をこれからの糧に生きていくことを決意する二十歳の男。深いあきらめの境地。その中でなんとか希望の光を見つけようともがくいじらしさ。なんだか若者の溌剌さが全く感じられず、それが今の時代を表している気がして、まさにさみしさを感じた短篇でした。

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   せつなさの達人―――。わたしが乙一さんを薦めるとき、どこかに書いてあったこの表現を使っていた。「あとがき」を読む限りではどうやらこのレッテルは乙一さんにとって歓迎すべきものではなかったらしい。また、「あとがき」には、それぞれの作品がどんな背景でどんな精神状態で創り出されたものかが紹介されている。このようなエピソードは作品をより魅力的にするに充分な効果をもたらせるだろう。どうか最初に「あとがき」を読み、心に刻み込んでから、短編集を味わってほしいと思う。四つの短編の共通点は、「生きる」というテーマを書きあげていること、そしてやはり“せつなさ”である。大切に扱わないと壊れそうなガラス細工のような繊細さを持つこの作品たちと周波数があうひとなら、きっと、さみしさでなく、やさしさが心にしみいるはずだ。

 
  鈴木 崇子
  評価:D
   ミステリータッチのファンタジーと言えば良いのか? 収録されている4編どの作品にもさらっとした透明感の中に、悲しみや寂しさが漂っている。
 右腕以外の感覚を失った主人公の切ない心情が淡々と描かれている「失はれた物語」が印象的。沈黙と闇に閉ざされた世界に視点を置き、かろうじて残された外界との僅かなつながりと献身的な妻への想いが、読む側にじわじわと孤独感や喪失感を感じさせる。 
水彩画のように淡く軽く周囲を描くことで核心を浮かび上がらせていく作風には、つかみどころのない頼りなさや手ごたえのなさも覚えるのだが、それがこの短編集の魅力でもあるのかも知れない。
 蛇足だが、作者による「略歴」「あとがき」が興味深い。この作者の(個性的であろう)人となりが気にかかる。個人的には日記やエッセイを読んでみたい。独特な面白さがあるに違いないと思うのだが・・・。(日記は作者ホームページにて公開中。だが、ぜひとも単行本にまとめて頂きたい。今後に期待!)

 
  高橋 美里
  評価:A
   去年の「このミス」で見事国内編2位になった乙一の中篇4作を収録したもの。
4作とも、作品の感じが違っているのですが、オススメは1作目の『未来予報』。なんともない一言が実は人の心を捉えてはなさない、そんな経験はありませんか?そんな経験のある方、是非手にとって頂きたいです。愛していた、でもケンカばかりしていた。ある日突然ケンカすら出来ない体に、なってしまったとしたら?4作目、『失はれた物語』には愛しているが故の選択があります。

 
  中原 紀生
  評価:A
   私はたまたま、「いとしのレイラ」や「ティアーズ・イン・ヘヴン」を繰り返し聴きながら、この本を読んだ。驚嘆させられたのは、まだ二十歳を超えたばかりの若者の書いた作品が、あの渋くて痛切で、それでいて深い滋味をたたえたエリック・クラプトンの世界と互角にわたりあって、人生の曲折を濾過して滴った純粋な「せつなさ」や「こわさ」や「さみしさ」が、四つの短編のうちに見事に結晶していたことだった。たとえば、水の変容(雨、雹、雪)とともに、未来の記憶の物語をリリカルに綴った「未来予報 あした、晴れればいい。」は、「ただ透明な川が二人の間を隔てて流れているような、あるような、ないような距離」を保った、言葉にはできない少年と少女の「関係」をあますところなく描ききった絶品。この味は、太宰治や椎名誠や村上春樹の系譜に連なるものだと、私は思う。真似できそうで真似できない、熟して滴る玉のような本物のオリジナリティをもった語り手だ。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   短編小説に挿入される「はっ!」とする瞬間が好きです。何気ない話に突如表われる思いがけない要素・想像もしていなかった異物が放り込まれるショック…。そんな小説ならではの劇的な演出を楽しむのです。事実は小説より奇なり、に反発するように、作者の構築した世界にどれだけ効果的に現実を凌駕したモノが放り込まれるか、それが短編の読みどころだと思います。バス停に降る雹・軽々と持ち上げられるハリボテのポスト、…若い作者の実際の体験(かそれに近いモノ)が、偶然を装って小説中に差し込まれているのは好印象です。そこから何を感じるか、非現実な遭遇に勝手に感動し象徴的な意味を持たせるのが読者。…残念ながらボクはこの4編から何も感じませんでした。せっかくの材料をつまらない方向に転がして平板にしていると思います。「少女」に向ける視点がいかにも「男性的」な妄想と極度に美化された童貞臭さに満ちていて、若さに苦笑するばかりです。

□戻る□