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  シティ・オブ・ボーンズ シティ・オブ・ボーンズ
  【早川書房】
  マイクル・コナリー
  定価 1,995円(税込)
  2002/12
  ISBN-4152084626
 

 
  大場 利子
  評価:AA
   ベッカム様。なんでベッカムに様付けて呼ぶのか。そうくるなら、こうだ。主人公のハリー・ボッシュに様付けて、LOVEまで付けて。『ハリー・ボッシュ様LOVE』。
 シリーズ9作書かれているうちの8作目。どうせなら1作目から読みたい。だがシリーズものであることを意識させる、例えば意味深な過去の挿話とかおざなりな人物説明とか、それは一切ない。どこが舞台でどんな職業でだいたいこんな話だろうなんて知識もいらない。突進だ。そうすれば、きっと前述のように呼びたくなるはず。
●この本のつまずき→このシリーズラインナップの表をインターネットで探し出し、プリントアウト。うっとりしていたら、前席の課長「最初から読めないでかわいそうなヤツ。」やっぱり、そうなのか。悔しい。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   ハリウッド署刑事、ハリー・ボッシュのシリーズも8作目。主人公の人となり、過去作品の概要は、「訳者あとがき」が参考になるので、初めての人はまずどうぞ。本作の事件は、少年の骨が山中で偶然見つかったことに端を発する。死亡時期は20年近く前という鑑定に、捜査は難航し、先走った報道がハリーを窮地に陥れる結果に。ハリーの(52歳にして!)新たな恋、相棒への思いやりなど、手は早いが愛すべきヒーローであるが、これまでも波乱万丈の私生活、刑事としての誇りある人生を送ってきたハリーにとって、事件の顛末は彼にいっそうの人生の転機をもたらすのである。…と、これ以上は言えない。次作の翻訳を待ち望むところである。

 
  新冨 麻衣子
  評価:AA
   おお、おもしろいぞこの人!ものすごく正統派なのだけど、ありきたりというんじゃなくて、まっとうなミステリを存分に楽しめる。他のボッシュシリーズまで一気に読んでしまったぞ。今回の事件は、数十年の時を経て発見された少年の白骨遺体の捜査だ。殺害時期は曖昧、被害者の身元を示す証拠もない。しかし長期にわたって虐待を受けた跡だけは、少年の骨に刻み込まれていた。少年の無念を晴らすため、ボッシュは全力で地道な捜査活動に当たる。ひとつづつ細い手がかりをたどり、浮かび上がる容疑者。これで終わりかと思いきや、後半はどんでん返しの連続で、ページをめくるのが止まらない。予想もつかない真犯人にたどりつくまで、ずっとハラハラしっぱなしだった。また、ボッシュの人間くささがストーリーの良い味付けとなっている点にも拍手。久しぶりにかなり集中して読んだミステリとなった。かなりオススメです。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   もう若くもない刑事が、たまたま発見された少年の骨から20年近く前の犯罪を解き明かそうとする。なんておよそ地味な話なんだけどシブイ。25年勤めれば、年給等級のトップに達し、「上のやることが気にいらなければいつでも辞表を出してはいさようならと言える。」つまり、金のために節を曲げずに職務を全うできるってわけ。うわぁお、それって、給料なくても組織に守られなくても、「この腐れきった世界をまともにするチャンスのために」働くってことなんだよね。孔子様じゃないけど、「50にして天命を知る」なんだ。すごーい!作中、彼が自分の名前ヒエロニムスを、「アノニムスと同じ韻です。」と説明するところがあるけど、それも暗示的。有名無実な有象無象がうようよしてるご時世に、この無名有実な存在感がすばらしい!肩書き失ってがっくりきちゃうオジサン症候群やその予備軍にお薦めしたいですね。でも、「いつの日かあたしも英雄になるチャンスがあればと思うわ」と言ったヒロインの余りに無意味で愚かな最期、後味悪過ぎる。

 
  松本 かおり
  評価:B
   「むかし、こう言われたことがあります。人生とはあるひとつのものを追いつづけることだと。償いです。償いを求めているのだと。おれたちはみな、許されたがっているんです」。誰が何をどう償うのか。犬が拾ってきた少年の骨が呼び起こす20年前の殺人事件。その捜査過程に現れるさまざまな償いのかたちが読みどころだ。
「骨はひとがどう生き、どう死んだかを雄弁に語ってくれる。児童虐待の場合、骨は嘘をつかない」という法人類学者。彼が少年の骨から示す虐待履歴は陰惨の一言。虐待・拷問がらみの異常ネタはとかく読み味が悪く、子供関係だとなおさらだが、そこを救っているのが主人公の刑事・ハリー・ボッシュの人間的魅力だろう。「もう小切手と質草のために署にいるわけじゃない」と明言、人間としての誠意と良心に働く動機を求めるあたり、おおいに共感できる。 
 事件の結末には、ハリーならずとも複雑な心境にさせられる。犯人には相応の末路だと納得はできても爽快感、安堵感なし。しかし、真犯人にたどりつくきっかけとなった小道具の使いかたにはシビレた。これは予想外。ヤラレタ。

 
  山内 克也
  評価:AA
   意外な結末に、「なんじゃこりゃ」と本格派好みのミステリファンだったら本を投げ出してしまうかもしれない。「フーダニット」の形式にのりつつも、あくまでも事件の捜査過程に生じる「物語」に力点を入れ、世界で唯一の超大国がはらむ社会の「病理」をえぐり出している。
 市街地で見つかった少年の骨。鑑定の結果、ドメスティックバイオレンスによる殴打の痕跡が分かり、現代アメリカの家庭事情の深刻さをうかがわせる。刑事ボッシュと新人女性警察官の情事は、反面教師的に警察組織の硬直さを照射する。そして、個人的な視線で冷徹に事件に挑む主人公の姿勢は、ベトナムの戦禍で味わったトラウマによるものをさらけ出す。
 少年殺しの犯人を追う捜査陣は、容疑者が浮かんでは消える蛇行を繰り返し、物語は常に緊張に包まれ、最後の1ページまで飽きさせない。暗くなりがちなストーリーを、相棒エドガーのひょうひょうとした描写により救っている。

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