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  拳銃猿 拳銃猿
  【ハヤカワ文庫HM】
  ヴィクター・ギシュラー
  定価 861円(税込)
  2003/2
  ISBN-4151739513
 

 
  池田 智恵
  評価:C
   映画的な造りのハードボイルド小説である。ガンマンの主人公。行方不明となったボスを追うという展開登場。台割のような格闘シーン。人物も展開も情景描写も台詞も、全てが映画を喚起させる。しかし、それがむしろマイナスになっている。だって、「映画にしたほうが面白そう」というふうにしか読めないんだもの。
つねづね思っていることだが、一つの媒体における傑作というのは、その媒体でしか表現し得ないもの、他の表現方法を選んでいる人が悔しがるようなものであると思う。そういう理由で、こういう映画に負けてしまいそうな小説はいまいち評価できないのである。花村萬月を読んだことがあるので、暴力描写の軽さにも不満が残る。あっさりと人を殺す主人公のクールさには、肉体的なリアリズムがないのだ。その辺がいかにもハリウッド映画を思い起こさせるところも好きじゃないんだよなあ。

 
  高橋 美里
  評価:AA
   この作品には「忠誠心」とか「仲間への心遣い」とか今の世の中では失われつつあるものばかり描かれていて、とにかく熱い気持ちになれました。登場人物は年老いたボス・優秀なガンマン・領地を拡大しようとする敵対する集団・そしてFBI。とにかく、グイグイ引きよせられてしまう。気がつくと一気読みしていました。この流れの早いストーリ展開にも関わらず人物もとにかく魅力的。カッコイイ男の小説なんて久しぶりで読みながらドキドキしてしまいました。この作品魅力的なのは内容だけではなく、帯のコピーも惹かれます。気になった方、ぜひ手にとられることをお勧めします。

 
  中原 紀生
  評価:A
   読みはじめてすぐに、クエンティン・タランティーノ(「レザボア・ドッグス」とか「パルプ・フィクション」)の名が頭をよぎった。読後の楽しみに訳者あとがきを眺めていると、その道の目利きもやっぱりタランティーノの一連の映画を連想し、そこに「共通の空気感」を感じたらしくて、この作品のことを「二十一世紀初頭に生まれた新しいパルプ・フィクションと呼べるかもしれない」と評していた。なにしろ冒頭いきなり本編の主人公・殺し屋チャーリーと、チャーリーが殺したばかりの男の元妻で剥製師のマーシーが出来てしまう唐突さに驚かされたかと思うと、いったい時代はいつで、どこが舞台なのかさっぱり見当がつかないシチュエーションに投げ出され、たちまちギャングどもの陰謀と抗争が始まるや、わがチャーリーのボスや仲間や家族への熱い思い(というよりアドレナリン)が滾って、FBIが絡んでの混戦状態を累々たる屍とともに乗り越え、一気にクライマックスへと突っ走っていく。この荒唐無稽で単純で異様なまでのスピード感が、とにかくたまらない。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   この話はまとめるのが簡単。「早い」「悲しい」「小気味良い」。ポイントは3つ。「早い」は展開の早さ。登場人物がスピーディに駆け回るという印象はないのに、場面転換が早い。「悲しい」は純粋に人の死に対して。こういう小説で殺人を悲しく感じるのは珍しいのでは? 「早さ」が「悲しさ」を加速させている。言葉が少ないのでどんどん「悲しく」なっていく。そして「小気味良い」。主人公の素直さ・実直さにどんどん好感を抱いてゆく。けっして冷酷さを感じない。方針がシンプルで理屈をこねないから、バンバン殺してもするっと受け入れちゃう。…感覚が麻痺してる? いっぱい死んだもんね。登場人物表に挙がっているメンバーで死ななかったのはいるのかしら。謎解きや登場人物の深い悩みに食傷気味の場合、なにも考えずに読める本書は最適。くたびれぎみの日常生活の中で、読むタイミングがちょうど良かったってことかな? 次に読んだらイマイチかもね。

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